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第51話 天音の両親

時刻は午後五時になり、昼食を食べていなかったこともあり、早めの夕食を取ることにした 。


四人でテーブルを囲んで、レトルトのカレーライスと、野菜サラダを食べていると、楓姉が天音に声をかける。


「今日はどうするの? うちで一泊する?」


「うーん、どうしようかな? 心霊現象は怖いけど、渉君、家に帰っても私は大丈夫かな?」


「安全だと断言できないな。葵ちゃんが土地神の力を開放しようとしたの事実だし。天音ちゃんは一度、怪異に襲われているから、できるだけ僕達と一緒にいたほうがいいだろうね」


渉のアドバイスを聞いて、天音は悩ましい表情を浮かべて黙り込む。


俺達の近くにいたほうが、心霊現象が起きた時に渉が早く対応できる。


何か憑依されて、暴れながら自分の首を絞めている天音の姿を見ているので、帰ってもいいとは言いづらい。

しかし年頃の娘が、同級生の男子の家に何日も泊まるのは流石にマズいだろ。


すると考えがまとまったのか、彼女はニコリと笑んだ。


「着替えの服も持ってきたいし、一度、荷物を取りにだけ家に帰ろうかな」


「それなら私が車で送ってあげるわ。ご両親にもキチンと今回の経緯を伝えておいくほうがいいでしょうからね」


「でも、私の両親なら、無頓着なところもあるから、このまま黙っててもいいかなって思ってるんだけど」


「それはダメよ。親子で嘘を多く持つと、後から息苦しくなるでしょ。私達に任せなさい。和也、渉君も一緒に来てね。私一人だと上手く説明できないから、助けてちょうだいね」


楓姉が俺と渉を交互に見て、うんうんと頷く。


男子の家に行くのなら別に気を遣うこともない。

しかし女子の家に行き、両親に会うのはなんだか緊張する。


それも天音と俺は微妙な関係で、何を言っていいのかわからない。

そんな俺が天音の家に行っていいのだろうか?


俺が眉間に皺を寄せていると、渉がニヤニヤと微笑む。


「今回の件について僕から話をするよ。幸村家のことは、できるだけ隠しておきたいからね」


「そういえば、警察に言わなくていいのかしら?」


「葵ちゃんが直接手を下した件は地蔵像を破壊したぐらいでしょう。僕達の周囲の女子達を襲ったのは、何らかの心霊または怪異であって、彼女を示す証拠は何もないんですよ。幸村家にまつわることは、宏司さんも佳乃さんも火事で亡くなっているので、死者を罰する法律はないですから、警察に報告する必要はありません」


「そうなると葵ちゃんのことも、幸村家のことも、私達の胸の中に閉まっておいたほうがよさそうね」


楓姉は妙に納得したように深く頷いている。


死亡した咲良、悠乃の二人と重傷を負った安奈、愛菜、美結の三人。

この五人が死傷したのは別々の場所であり、時間も違えば状況も違う。


渉の勘頼りの推測で、俺達は葵、幸村家へと辿り着いたが、警察のやり方では、それぞれが違う事象として受け取られて処理される案件だ。


もし報告したとしても、子供の妄想と片付けられてしまうだろう。

それに楓姉も一応、渉に確認しただけで、本気で警察に行こうとは思ってないはずだ。


それから少し経って、食事の後片付けを終えた俺達四人は、楓姉の運転するハスラーに乗り込み、天音の家に向かうことになった。


走り出してから十分ほどで天音の家付近の駐車場にハスラーを停車させる。

車内から下りて、三分ほど歩いていくと、彼女の家の前に到着した。


天音と共に玄関に入ると、天音の母――まどかさんが俺達を迎えてくれた。


玄関先で挨拶を交わし、天音に案内されてリビングに向かうと、天音の父――湊さんが床に座って、大きなテレビモニターでゲームをしている。


俺達三人が挨拶を済ませると、湊さんとまどかさんはソファに座り、二人に対面するように楓姉、俺、渉の三人が並ぶように床に座り、話し合いをすることになった。


天音は立ったまま体の前で両手を組んで、視線を彷徨わながらソワソワと落ち着かない様子だ。


周囲を見回した後に渉は軽く会釈をし、自分のことを神社関係で少し修行した霊感少年であると、天音の両親に告げる。


その微妙なキャラ設定に、俺は頬を引きつらせた。

彼のキャラについては、天音の家に来るまでの道中で、楓姉が考えついてものだ。


そして最近、天音の周辺に起こった女友達の死、体調不良、怪我を説明し、学校が臨時休日になっている件について、渉は詳しく話ていく。


するとまどかさんがうんうんと納得する仕草する。


「私、幽霊っていると思うの、だってお墓にいるご先祖さまも幽霊でしょ」


「そうだな。世界中で心霊現象の記録も昔からあるからな。霊感ってのは、ゲームの中のゾンビが現実に現れてるように見えるのか? それってすごく辛いよな」


なぜか湊さんは同情するような眼差しで、ジッと渉を見つめる。


そんな二人のズレた反応に手応えを感じたのか、渉は怪奇現象が鎮まるまで、天音さんを僕達に預けてほしいと願いでた。


すると楓姉が続けて「天音さんは月森の家で泊っていただき、私が責任を持って管理いたします」と頭を下げる。


そんな二人を呆然と見ていると、楓姉が俺をキッと睨みつけ、俺の頭の後ろを掴んで強引にお辞儀をさせた。


そんな俺達三人を見て、まどかさんが首を傾げて疑問を口にする。


「どうして渉君の家ではなく、月森さんの家なのかしら?」


「お伝えするのが遅れました。弟の和也は、天音さんとお付き合いを始めさせていただいています。もちろん家で二人が一緒にいる時は、私が常に監視しておりますのでご安心ください」


楓姉はとんでもないことを口走り、両手で俺の頭を押さえつける。


その手を強引に払いのけ、顔を上げると、まどかさんと湊さんは驚いた表情で、ソファから立ち上がっていた。


「あらあら、やっと天音にも春が来たのね。これでやっとおしとやかになってくれるかしら」


「少しは上品になってもらおうと、聖華女学院に進学させたが、家では元気一杯だからな」


「ママ、パパ、和也の前で、私のことを暴露するのは止めてよ」


天音が顔を真赤にして叫ぶと、まどかさんは豊かな胸の前で両手を合わせ、嬉しそうに微笑む。


「初孫を見るのも近い未来なのかしら」


「そうだな。俺とまどかも出会った頃は、恋愛に夢中で、周囲のことが何も見えなくなったもんだ」


天音の両親の発言を聞いて、俺は楓姉に近い感覚を二人に抱く。

そして、天音は間違いなく、この両親の娘だと確信した。


なぜか意気投合した楓姉とまどかさんは、俺と天音の過去について懐かしそうに話始めた。

それを聞いた天音が、必死に二人を止めている。


その状況に渉と俺が顔を見合わせていると、俺達の前に湊さんが座り込みニヤリと顔を歪ませた。


「難しい話は後だ。一緒にゲームをしよう。高校生の男子と対戦するのは初めてだな。天音だと俺の相手は務まらんからな」


こうして俺達二人は、なぜか天音の父親と、深夜遅くまでゲームをすることになったのだった。

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