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第44話 葵の家へ

俺、渉、天音、楓姉の四人が玄関に出ると、外は風が強く、横殴りの雨が降っていた。

俺達四人はそれぞれに傘を差して、元霧原村にある葵の家を目指して歩く。


振興地沿いの真っ直ぐに舗装されている道を進んでいくと、横道の向こう側に元霧原村地区の細い路地が見えてくる。


その頃には皆の足元は豪雨で、ずぶ濡れになっていた。


渉を先頭に、俺、天音、楓姉の順で、古い土塀や石塀が並ぶ路地を進んでいく。

路には下水溝がないため、雨が川ように流れている。


渉の後に続いて、何度か角を曲がって歩いていくと、長く立派な土塀が現れた。

それに沿って路地を進んでいくと、重厚な門扉が見え、葵の家に到着した。


渉が門の横に設置されているインターホンのボタンを押す。


「すみません。神代渉と言いますが、葵さんのお見舞いに決ました。お願いです、彼女に会わせてください。よろしくお願いいたします」


するとインターホンのスピーカーから「少しお待ちください」と女性の声で聞こえてきた。

強い雨が降る中しばらく待っていると、門が開き、傘を差した和服女性が現れた。


「先日、ご訪問いただいた方ですね。本日も葵様はお会いしたくないと申されています。どうかお引き取りを」


礼儀正しくお辞儀をする女性に、渉が言い放つ。


「それなら強引にでも、邸の中に入るしか方法はなさそうですね」


「そのようなことされれば、家宅侵入罪で警察をお呼びいたしますが」


「それは名案ですね。警察に来られて困るのは僕でしょうか? 幸村家の方々でしょうか?」


女性と渉が激しく睨み合う様子を見て、楓姉と天音は目を見開いて、焦った表情をする。


渉をすぐに止めたいが、それでは葵に会うこともできない。

最近続いている心霊現象を治めるためには、葵から事情を聞くのが早い。


そう考えて、俺は彼の行動を止めずに、黙っていることにした。


数分間睨み合っていた女性が、表情を和らげ諦めたように薄く微笑む。


「わかりました。ご案内いたしましょう」


女性は深く頷くと、俺達に背を向けて屋敷の方へと歩いていく。

その後に渉、楓姉と続き、俺と天音は顔を見合わせて、後を追った。


和風の石畳の上を歩いていくと、立派な日本家屋があり、ガラガラと女性が戸を開けて、玄関に入って俺達の方へとお辞儀する。


「「「「お邪魔します」」」」と各々にお礼を述べて、玄関に靴を並べて女性に扇動されながら、長い廊下を歩いていく。


廊下からは中庭が見え、雨に濡れる日本庭園が美しい。


物音一つしない屋敷内をゆっくりと歩いていくと、女性が部屋の前で立ち止まる。


「ここが葵様の部屋です」


女性はそう告げて、扉から一歩下がった。


渉は「葵ちゃん、僕だ。扉を開けさせてもらうよ」と言いながら引き戸を開ける。


すると畳を敷き詰めた八畳ほどの部屋の中には、和風の机とタンスが置かれており、本が綺麗に並べられた本棚、女子が好みそうなベッドが設置されていた。


物静かな葵らしい部屋だと思う。


俺、渉、天音、楓姉が室内に入ると、女性も入ってきて、戸を閉める。

そして俺達に向かって片手を差し伸べた。


「葵様はここには居られません。どこに行ったのかもわからない始末です。一応、警察と学校には連絡しておりますが、旦那様のご意向で、口外禁止をお願いしております」


ということは葵は行方不明なのか?


動揺した天音が女性に問い質す。


「葵はスマホを持っているはずです。連絡はされましたか?」


「もちろんです。既に充電が尽きたのか、連絡の取れない状態になっています」


「……そんな……どうしてそんなに冷静でいられるんですか。葵が行方不明なんでしょ! もっと心配してもいいじゃない!」


感情を爆発させた天音が、キッと女性を睨みつけ、今にも飛びかかり気配を漂わせる。

そんな彼女の腕を握り、動きを封じて、渉は首を大きく左右に振った。


「感情をぶつけても仕方ない。この部屋に案内してくれたのは彼女だ。それにまだ協力してもらうことがある」


「天音ちゃん、落ち着いて。葵ちゃんのことは後でジックリと語ってもらいましょう」


楓姉は天音の方に手を置き、顔を女性の方へ向けて、挑戦的な眼差しで見つめる。


俺は一人、机の上に置いてあるフォトスタンド の写真を見る。


どこかで見た顔だと思っていたら、教室で眠っている俺の寝顔じゃないか!


葵が盗み撮りしたのか? それとも誰かに撮ってもらって、写真を貰ったのか?


どうせ写真を飾るんなら、俺のカッコイイ場面とかなかったのかよ!


渋い表情で片手で髪をかく俺に、渉が気づいて机に近づき、まじまじとフォトスタンド の写真を見る。


「この写真は実にいいね。和也らしさがすごく溢れてるよ」


「何々?」


俺達二人の視線の方向に気づいた天音が、慌てて机に駆け寄り、驚きの声をあげる。


「和也、めちゃ可愛い!」


「止めてくれ、ただの寝顔だ」


渉と天音の反応の困った俺は、二人から顔を逸らすしかできなかった。

その様子に女性が微かに笑みを浮かべる。


そして本棚へと歩いていき、本の間にあった数冊のノートを手に取り、静かに俺に手渡す。


「葵様は和也君に焦がれておりましたから、そのノートには葵様の様々な感情が綴られてあります」


女性の言葉を聞きながら、ノートの表紙をめくってみると、ビッシリと細かい歪な文字が縦書きで書かれていた。

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