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第42話 天音に憑依する怪異②

どれくらい経ったわからないが、天音の雄叫びは徐々に弱り始め、渉が唱える真言だけが部屋中を染めていく。


楓姉は片腕で涙を拭い、ペットボトルを両手で持って、天音に時々飲ませた。

そして俺は必死に天音の顔を見ながら声をかけ続ける。


「葵! 何があったか知らないが、天音のことを許してやってくれ! 憑りつくなら俺にしろ! もう止めてくれ! お願いだ! どうか物静かで優しい葵に戻ってくれ! 人を恨むような奴じゃなかっただろ! どうか頼むよ!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーー!」


渉の処置が良かったのか、俺を跳ねのけようとする力も少しづつ弱まってきた。


楓姉も必死に天音に呼びかけている。


「葵ちゃん、どうか天音ちゃんから放れてあげて。苦しいことや辛いことがあったら、私が相談に乗るから! 私達が葵ちゃんを助けるから! お願いだから天音ちゃんを連れていかないで!」


それからしばらく、俺は暴れる天音を押さえつけ、渉は彼女の額に護符を押しつけたまま、真言の詠唱は続いた。


「あああぁぁあああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


渉は額から汗を流し、必死に真言を唱え、鋭い息を吐く。


すると天音の叫びは徐々に小さくなり、体の力は一切抜けていき、見開いていたまぶたがゆっくりと閉じて、意識を失ったように動かなくなった。


そして気づくと部屋中に漂っていた異質な雰囲気は、いつの間に消えている。


渉は慎重に顔を近づけ、天音の息を確認した。


「呼吸は安定している。眠っているようだね」


俺の方を向く彼の顔は、まだ表情が強張っていた。

すると楓姉が俺と渉の顔を交互に見る。


「天音ちゃんは無事なの? 葵ちゃんはどこに行ったの?」


「それはわかりませんが、この部屋から怪異が去ったと思います。天音ちゃんに数珠を持たせておくのを忘れていた僕の不注意です。彼女が危険にさらされていると考えていたのに、すみません」


そう言って渉は俯く。

すると彼の片手を両手で握り締め、楓姉が首を大きく左右に振る


「渉君と和也が天音ちゃんを救ったのよ。二人とも立派だったわ。私なんて怖くて動けなかったもの。まだ体が震えてるわ」


そう言って、楓姉が震える指を見せ、ぎこちなく微笑む。


俺はベッドから立ち上がり、部屋の扉付近へ近づき、照明の明かりと点ける。

するとLEDの白い光が室内を照らし、やっと少しだけ安堵することができた。


床に敷いてある布団の上に胡坐になっていると、渉が俺の横に座り、楓姉が俺達の前にぺたりと座り込む。

そして渉が真剣な表情で俺に問いかける。


「どうして葵と言ってたんだ?」


「心霊の原因が葵かもと言ってたのは渉だろ。それに天音に憑りついてる奴に何か言わなくちゃって思っていたら、自然と葵って言ってたんだ」


「私は和也に釣られて言っただけ」


それは言わなくてもわかってる。

楓姉は葵と一度も会ったことはないからな。


それから俺達三人は話し合い、楓姉の部屋で一緒に眠ることになった。


楓姉は天音のことが心配だからと、ベッドで二人で寝るそうだ。

渉と一緒の布団で眠るのは勘弁なので、俺は私室へと戻り、床に敷いてあった布団を持ってきた。


天音は眠っているようで、スヤスヤと穏やかな寝息が聞こえてくる。

渉の話では、明日目覚めたとしても、先ほどの体験は覚えていないかもしれないらしい。


楓姉は一階のリビングから救急箱を持ってきて、天音の首の傷を治療し、俺達三人で眠りにつくことにした。


咄嗟に葵と叫んでしまったが、どうして自分が彼女の名前を言ったのか、どれだけ考えても答えは出そうにない。


ただ思い出してみると、一瞬だけ天音の顔と重なるように葵の顔が見えたような気がした。


布団に体を潜り込ませて目を閉じていると、隣の布団から渉の声が聞こえてくる。


「和也、ありがとう。僕一人では天音ちゃんを助けられなかったかもしれない」


「そんなこと気にすんな。俺と楓姉だけでも、天音を助けてることはできなかったんだからな。霊障に対応できたのはお前の処置があったからだ。礼を言われることは何もしてないぞ。さっさと寝ようぜ」


そう渉に告げ、布団を頭の上まで被り、俺は気を失うように意識を手放した。

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