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第41話 天音に憑依する怪異①

天音の形の良い唇から、喉が裂けるような不気味なうめき声が大きく響く。


「あああぁぁあああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


天音は尋常ではない力で俺を押しのけ、自分の首を両手で掴んで締め上げていく。

彼女の脚は大きく開かれ、バタバタと苦しそうに暴れ回る。


その姿を見て、俺は我を忘れ、天音に飛びかかって馬乗りになり、強引に首から天音の両手を放そうとするが、彼女の指が喉に食い込んでいて外れない。


「楓姉、しっかりしろ! 俺一人じゃ、天音を助けられない! 姉ちゃん協力しろ! このままだと天音が死んじまうだろ!」


楓姉に声をかけている間に、俺の下で天音は体を跳ね上げてもがき続け、足をバタバタと暴れさせ、十本の指が食い込んでいる喉の皮膚が破れ、傷口から真赤な血が流れ落ちる。


「あああぁぁあああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! あああぁぁあああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


天音の喉から発せられた、人間の者とは思えない叫びが室内を異質な空間へ染めていく。

そして大きく見開いた天音の瞳がぎょろりと動き、その目からは涙が滴り落ちる。


まだ天音の心は壊れていない。

死にたくないと心の中で、天音は憑依された何かと必死に戦っている。


そう確信した俺は、無我夢中で叫び声をあげた。


「葵、やめろ! 止めるんだ! 天音はお前にとっても友達だろ! 優しいお前が、どうして人を殺そうと呪うんだ! 頼むからいつもの葵に戻ってくれ! 天音を殺すな!」


「あああぁぁあああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


俺が必死に腕を外そうとしていると、戻ってきた渉が、床にリュックを投げ捨て、ベッドの横で立って、手に持っている鈴を鳴らす。


リーン! リーーーン! リーーーーン! リーーーーーーン! リーーーーーーーーン!


すると俺を跳ねのけ、暴れている脚の力が少しだけ緩んだような気がする。

俺は天音の首と腕の間に腕を入れ、天音の体を抱え上げ、強引に腕を広げた。


「 葵! 天音は死なさい! お前の友達を死なせるかーーーーー!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


ビチビチと喉の皮膚を千切りながら、天音の首から指が外れた。

それを見た渉は鈴を投げ捨て、ベッドの上に飛び乗り、俺が広げた天音の両腕を二人がかりで抑え込む。


「天音ちゃん、僕達が君を助けるから、絶対に助けるから!」


天音に向かって叫んだ渉が、顔を横に向けて楓姉を見る。


「僕達二人は天音の体を抑えているのが精一杯です! 楓お姉さん、あなたの協力が必要だ! リュックの中から、ペットボトルと護符、それと数珠を取り出してください! 早くして!」


渉の厳しい叱咤の声が部屋中に響き、その声で我に返った楓姉が、リュックに駆け寄る。

それからリュックの口を開け、数珠と護符を取り出した。


「何もできなくてごめんなさい」


「早く数珠を天音ちゃんの手首に! それと護符を僕にください!」


楓姉は深く頷き、急いで天音の手に数珠を通し、渉に素早く護符を手渡す。

すると渉は片手に護符を持ち、それを天音の額に押しつけた。

そして口の中で小さく、呪文のような詠唱を始め、時折、「シュッ、シュッ」と鋭い呼吸音を飛ばす。


俺はその姿を見て、楓姉の方へ振り向き声をあげる。


「楓姉、リュックに入っているペットボトルの中は祈祷したお神酒 ある! それを天音に飲ませてくれ!」


「わ、わかったわ」


俺の言葉にコクコクと頷くと、慌てながら、楓姉 はリュックの中からペットボトルを取り出し、蓋を開けて、雄叫びをあげる天音の口へと一気に注ぎ込む。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーー! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


天音の口から叫びと共に、お神酒も垂れ流れ、彼女の目は大きく見開き、漆黒に染まった瞳が俺を凝視する。


その瞳は見て、俺はまだ天音が心の中で戦っていることを悟る。


「天音、俺達が絶対に助けてやるからな! 葵! 天音から放れろーーーーーーー!」


俺の叫び声をあげると、渉の声も大きくなり、部屋中に真言の言葉が響き渡った。

そして楓姉が目から大粒の涙を流し、天音の手を強く握り締める。


「天音ちゃん、がんばって! 天音ちゃん! 諦めないで!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーー! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

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