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第40話 異質な気配

俺、渉、天音の三人が俺の家に帰ってくると、楓姉がリビングで寛いでいた。


「どうして楓姉がいるんだよ」


「着替えを取りに戻るって言ってたでしょ。父さんは検査中よ。医師と看護師がいれば私が病院にいても、役に立つことは何もないもの。だから戻ってきたの。あら、天音ちゃんこんにちわ」


「楓お姉さん、こんばんわ。今日もお泊りさせていただきます」


天音がにこやかにそう言うと、真剣な表情になった楓姉が、ソファから立ち上がり、ズカズカと歩いてきて、俺の耳を引っ張る。


「ほう……私が家にいないことを知ってて、天音ちゃんを家に泊まらせるのね。彼女ができたばかりで、ちょっと早くないかな。避妊すればいいってもんじゃないんだからね」


「何をバカ言ってんだ。よく見ろ、渉も一緒にいるだろ。俺達の周りで死人が出てるんだよ。だから天音も危ないと思って、この家に泊まることになったんだ。変な勘違いするな」


俺は大慌てで、楓姉に言い返す。

すると天音は少し俯いて「避妊……」と呟いて頬を真赤に染めている。

そんな俺と天音を見て、渉が片手で腹を押えて、大声で笑い始めた。


そして楓姉はキョトンした表情で「死人が出てるって?」と、不思議そうに首を傾げる。


「ああそうだ。今日、学校で女子が飛び降り自殺をしたんだ。それに休日中に自殺未遂をして重体になっている。その二人の女子も中学の時の同級生なんだ」


「そうなると和也達の周囲で三人も女子が被害に遭ってるってことなのね。だから恋人の天音ちゃんを守りたい、和也の愛を感じるわね」


「天音とはそんなんじゃないって言ってるだろ」


俺の言葉を聞いても楓姉はニヤニヤと笑い続けている。


俺の隣では天音が両頬を手で押え、「和也の愛……」と呟きながら、挙動不審になっていた。

渉は笑いが止まらないようで、指で目尻を拭っている。


その状況に堪らず、俺は一人でリビングを出て、二階の私室へと向かう。

ベッドに仰向けになってボーっと天井を眺めていると、ドアが開いて、三人が部屋に入ってきた。


そして渉がデスクチェアに腰をかけ、ベッドにちょこんと天音が座り、楓姉が床に座ってジーっと俺を見つめる。


「渉君から彼の推測を聞いたわ。偶然を繋げたような現実性のない話だけど、心霊については渉君のほうが私達よりも詳しいし、勘を信じて動いてみるのも大切なことだと思うの。葵ちゃんの家には私も同行するわ」


「それはいいよ。親父と一緒にいてやれよ」


「父さんがここにいれば、和也に付き添ってやれって言うに決まっているわ。それに私が一緒に居たほうがいいわよ。学生相手だと取り合ってくれないことも、大人が加われば対応が変わることがあるでしょ」


楓姉の言う通りかもしれない。

俺達三人は高校生だ。

大人は未成年の言うことを相手にしないことも多い。


その発言について渉が、うんうんと頷く。


「明日は楓お姉さんにも一緒に来てもらおう。人数が多いほうが圧をかけやすいからね」


そう言われると、来るなとも言えない。


それから楓姉は夕食と作ると言って、天音と二人でダイニングへと去っていった。

室内に残った俺と渉は各々にスマホを弄って時間を過ごす。


天音が二階に来て夕食ができたと告げてきたので、三人で一階に下りていき、ダイニングへ向かうと、テーブルの上にズラリと料理が並べられていた。


四人で食事を取って、それから順番にお風呂に入り、リビングで寛いでいる間に、気づかぬうちに時計は二十三時になっていた。


楓姉は天音を連れて自室へと戻り、俺と渉はベッドと布団に分かれて眠りにつく。


どれほど眠っていたのか定かではないが、いきなり背筋に悪寒が走り、首がチリチリと違和感を感じて、夜中に目を覚ます。


ベッドから上半身を起して室内を見回すと、暗闇の中で渉が片膝を立てて座っていた。

その瞳は鋭い光を放っている。


「何があったんだ?」


「静かにして、周囲の音に集中してみてくれ」


渉の指示に従い、口を閉じて注意深く耳をそばだてる。


渉の呼吸音と俺の呼吸音、それに目覚まし時計の音がやけに大きく聞こえる。

その他に聞こえる音はないが、妙に違和感を覚える。


深夜なので家中が静かなのは当然だが、いつもよりも音がしないような気がする。


「やけに音が少ないな」


「ああ、妙に空気がシーンとしてるだろ」


俺も渉も動かずに室内に異変がないか警戒していると、廊下の向こうから「キャー――!」という楓姉の悲鳴が聞こえてきた。


俺達二人は咄嗟に立ち上がり、扉を勢いよく開けて、楓姉の部屋へと向かう。


扉を開けて室内に飛び込むと、ベッドの上で天音が苦しそうに表情を歪めて、体を反らしてビクンビクンと痙攣させていた。


彼女の姿を見た途端、渉が身を翻して部屋から出ていく。

体を硬直させている楓姉を力任せに押しのけ、俺はベッドに片膝を乗せ、天音の体を抱き寄せた。


「おい、天音、聞こえるか! 俺だ、和也だ、しっかりしろ!」

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