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第37話 渉の推測

霧野川高校の校庭に次々のパトカーが乗り入れ、警察霊柩車も到着した。


警察官達は現場保存のため、咲良の死体を中心に囲むように警察封鎖線を張り巡らせていく。

そして校舎の中へ入ってきた刑事達は、学生への事情聴取を始めた。


俺達がいる二年C組に順番がきた頃には、太陽は西へと傾いていた。


やっと軟禁状態から抜け出し、担任教師から「帰っていい」と許可を貰い、教室内の生徒達は急いで校舎の玄関口へと向かった。


結局、雄二と凪沙とは、渉の推測で揉めて以降、話すことはなかった。


校門を出た所で、渉が俺に呼び止める。


「悠乃ちゃんの通夜には渉も参列するよな」


「お前のいうことが正しければ、天音が危険なんだろ。楓姉からも守ってやれと言われてるし、あいつに何かあれば俺の気分が悪くなる」


「そういうところだよ。和也。つくづく素直じゃないね。僕も通夜には行くよ。彼女とは一緒に遊んだ仲だからね。だから和也の家で休憩させてくれ」


俺を肩を渉がポンと叩き、俺達二人は歩き始めた。


家に到着し、鍵を開けて玄関の中へと入る。


そして私室へ着いた俺はベッドに腰掛け、渉はデスクチェアに腰を下ろした。

すると渉が気遣うような表情を浮かべる。


「親父さんと楓お姉さんは大丈夫なのか?」


「ああ、今のところ、親父は検査入院だ。結果が出るまで楓姉は付き添いに行ってる」


「そうか。何も異常がなければいいな。楓お姉さんも今は隣街にいたほうがいい。できるなら霧野川市に帰ってこないほうがいいな」


渉の言いように、違和感と感じた俺は彼に聞き返す。


「それってどういう意味なんだ。楓姉も危ないのかよ」


「確証はないって言ってるだろ」


「ここには俺とお前しかいない。そろそろ、どういう考えで、俺と葵が怪異の中心にいる結論に至ったか教えてくれてもいいだろ」


俺は両手を組んで、ジッと渉を凝視した。

すると彼は軽く肩を竦める。


「説明してもいいが、ショックを動揺するなよ。 まず安奈、咲良、二人の死と、それと学校を休んでいる愛菜については、和也が話していた通りさ。三人は中学の時に、大人しい女子、物静かな女子、気が弱い女子に頻繁にイジメを続けていた。なのでその女子達から恨まれ、呪われる可能性は十分にある」


「しかし、それだと悠乃の死について説明がつかないぞ」


「その通り。なので三人の他に心霊に遭った者達を集めてみる。まずは僕、和也、天音、雄二、凪沙、そして悠乃。それに連絡の取れない 美結と葵の二人も霊障に遭っている可能性として仮定してみる。この八名が集まったのは一回だけ。つまり、あのスイーツ店に集まった全員が怪異に遭ったかもしれないというわけさ」


「それは少し話が飛躍しすぎてないか」


俺は渉の説明を聞いて笑い飛ばす。


スイーツ店に集まった俺達と、咲良達三人を結ぶ点が見えてこない。


すると渉は真剣な表情をして話を続けた。


「まだ話の続きがある。ではこの八名の中から、特定の人物を除外していく。まずは雄二と凪沙だ。二人は付き合いだして今が一番楽しい時だ。人を恨んでいる時間なんてないよね。そして僕、転校してきて間もないのに、心霊騒動で迷惑している。それに恨めるほど、学校のことも皆のことを知らない。次に天音、美結、それに死んだ悠乃。この三人は聖華女学院の生徒だ。美結と悠乃に至っては、街の北側に家があり、南側に住んでいる僕達とほぼ接点がなかった。天音は和也に接近できて幸せで、恋愛をしている者が人を恨むことなんてしない。和也自身は謎の怪異に迷惑しているんだから除外。すると葵だけが残るというわけさ」


「その理屈は理解するが、やはり横暴だろ。そんなの渉の勘に近いじゃねーか」


「僕もそう思う。だから莉子に確かめることにしたのさ」


渉は目を細め、指を一本立てる。


「彼女は隠していたことを話してくれたよ。昼休憩に『こっくりさん』をしていた莉子と葵は、ある願いを占っていた。それは恋愛相談だ。そして莉子の想い人のことを質問した時、十円玉が勝手に動き出し、用紙から飛び出して床に落下した」


そこまで聞いて、俺はある答えにいきつく。


「まさか……」


「そのまさかだよ。莉子は和也のことが気になっていたんだってさ。友達になれたら程度で、恋心ではなかったらしいけどな。占いだからと気軽に和也のことを『こっくりさん』に質問したそうだ」


渉の答えを聞いて、過剰に反応してしまったことが恥ずかしくなる。

そんな俺を見て、渉はニヤリを微笑む。


「あくまで根拠のない推測だ。しかし僕はこう考えたんだ。なぜ和也のことを占っている最中に十円玉が暴走したのか。それは質問者の莉子ではなく、葵のほうが動揺したからではないかってね」


「バカなことを言い出すなよ。俺と葵は幼馴染だが、今では会話することもなかったんだぞ」


「あの物静かで大人しく、人に対して気後れしてしまう葵が、天音のように明るく和也に接近できると思うのかい。想い人を陰ながら想っているほうが、彼女らしいだろ」


渉の話はどこまでが推測で、どっからが冗談なのか判別がつかない。

どちらにしても何の根拠もない話だろうけど。


そう自分に納得させていると、渉がポツリと呟く。


「僕の戯言であってほしいと願うよ。ただ八名から除外していくと葵だけが残るし、彼女が咲良達からイジメを受けていたのは事実だ。残る謎は死亡した悠乃と美結との接点だ。美結から話を聞ければ、葵を疑う必要もないんだけどな」


少し俯いた彼の表情には、悲しみの憂いが漂っていて、俺は言葉をかけることができなかった。

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