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第35話 ざわめく教室

それから間もなく、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

誰かが警察に通報したのだろう。


俺、渉、雄二、凪沙の四人が集まっていると、教室の扉が開いて、担任の教師が現れた。

演壇の前に立つ教師の顔は蒼白としていて、緊迫した事態になっていることが伝わってくる。


「皆、パニックになっていると思うが、一度席に戻って、俺の話を聞いてくれ。動けない者が居れば、誰かが支えて席に座らせてほしい。とにかく一度、冷静になるんだ」


教師の指示により、まだ理性のある生徒は、傍にいる生徒を助けて、それぞれに席に座っていく。

俺達四人も、自分の席に戻り、静かに沈黙した。


クラスの全員が着席したのを確かめると、教師は一気に話始めた。


「窓から地上を見て、状況を知っている者も多いと思う。今日、一人の女子生徒が屋上から飛び降り、地面に叩きつけられ、死亡した。まだ警察の現場検証をしていないので、自殺か、他殺かの判断はつかない。すぐにも警察が来るが、警察の事情聴取が終るまで、生徒の勝手な行動を禁止する。特に、現状保存のため、教室外への行動を禁止する。トイレに行く時、飲料水を購入したい時は、必ず三人一組で行動するように」


「俺達は教室で昼飯を食べてただけだろ。キチンとしたアリバイがあるんだから、もう家に帰らせろよ。俺が教室にいたのこともクラスの全員が知ってるだぜ。それなのに俺達を軟禁するのは横暴だろうが」


一人の男子が立ち上がり、興奮して声を荒げる。


すると教室の生徒達が騒ぎだし、「家に帰して」という女子達の泣き声が聞こえてきた。

それに同調した男子達が、各々に「家に帰せ!」と大声を張り上げる。


すると教師も我慢できず、両手でバンと演壇を叩く。

その音に驚いて、生徒達が静かになった。


「お前達の言いたいことはわかってる。俺もお前達をすぐに家に帰してやりたい。だが、これは警察からの指示なんだ。お前達が何も罪を犯していないのは知っている。しかし、一人一人の調書を取る必要がある。高校生ならお前達も理解できるだろ。教室にいてくれたら、これ以上の束縛はしないと約束する。今は指示に従ってくれ。頼む」


教師の言葉に、皆は黙り、不安な表情をする。

すると渉が立ちあがり、皆を見回して薄く微笑む。


「皆、今平静かな? あんな死亡現場を目撃してパニックになっていないかい。恐怖に駆られて怯えたまま行動して、家に帰りつく前に、事故にでも遭ったら二次災害だろ。ここには皆がいる。先生達もいる。警察も来る。ここより安全な場所があるかな。少し考えてみようよ」


そこまで話終え、渉は教室の全生徒を見回して、また説得を続けた。


「三人一組で行動すれば、自由とはいかないが、トイレにも自動販売機にも行けるだろ。お腹が空けば教師の許可を取って購買部にも行ける。教室の皆といれば、一人で不安になることもない。友人達と会話をして、恐怖を凌ぐこともできる。ここは一旦、先生の指示に従おうよ」


次に雄二が席から立ち上がり、渉に賛同する。


「その通りだぜ。集団で行動してれば、警察に疑われることもない。だってクラス全員が証人だからな。だから自習時間のように、皆で雑談でもしてようぜ。トイレや自販機に行く時、不安だったら俺を呼べ。一緒についていってやるからさ。警察の現場検証と事情聴取が終るまで、皆でだべってればいいだろ」


雄二も言葉を聞いて、先ほどまで騒いでいた男子達が、納得したように黙り込む。


渉の説得では、同意を得られるのは女子達だけだろう。

彼は転校してきてから間もないし、まだクラスの生徒達とは深い信頼を築けていない。


その点、雄二はクラスの中心人物の一人であり、男子達からの人気も高い。

そのことを自分でも理解していて、雄二は渉の話に乗ったんだろうな。


その生徒達の様子に気づき、教師は「俺は職員室にいる。何かあれば呼びに来てくれ」と言って、教室から去っていった。


それから少しして、渉、雄二、凪沙の三人が俺の席に集まってきた。

すると渉がポンと雄二の肩に手を置く。


「さっきは助かった」


「下手に騒いでも面倒なだけだからな。男子連中は俺に任せておけ」


「女子は凪沙だけで手一杯だもんな」


雄二の言葉を俺が混ぜかえす。

すると、雄二ではなく、凪沙に手刀が頭に落ちてきた。


「私がすっごく面倒臭い女子みたいに言わないでよね」


プリプリと怒る凪沙へ、雄二が慌てて「和也も本気で言ってないって」と諭す。

それを「わかってるわよ」と言って、二人が騒ぎだした。


いつもの光景を見た俺は少し安堵する。

これなら凪沙も、いつもの調子を保てそうだ。


雄二達を眺めながらニヤニヤと笑っていると、渉が話しかけてきた。


「飛び降りた女子、誰だかわかるか」


「顔は見覚えがあるんだが、名前が出てこない」


「和也は何言ってるのよ。あれは咲良よ。小中も一緒だったでしょ」


俺達二人の話を聞いていた凪沙が女子の名を教えてくれた。


あの血だらけの無残な姿になっている屍が伊藤咲良とは思ってもみなかった。


安奈、咲良、愛菜の三人は、中学の頃から派手好きでプライドが高く、見栄っ張りだったイメージがある。

高校に進学してから、同じクラスになったこともなく、すれ違っても挨拶することもなかったが。


昔はもっと髪も茶髪でヤンチャな女子だったような……


そこまで考えてハッと思い出した。


あの女子達は中学の時、いわゆるギャルに憧れていた。

素行も悪く、口も悪かった。


そしていつも凪沙や天音などの学校でも人気のある女子を妬んでいた。

それに……陰キャな女子や、物静かで大人しい女子を、奴隷のように扱って……


あの三人は葵をイジメていたんだ。

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