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第34話 飛び降り

月曜日の朝、教室に到着すると、学生達が妙にざわついている。

それに違和感を覚えつつ、席に座っていると、凪沙と雄二が駆け寄ってきた。


そして雄二が慌てた表情で、俺の机に片手を置く。


「さっき他のクラスの女子に聞いたんだけどさ。二年A組の長谷川安奈の両親から学校に連絡があったらしいぞ。それでな、どうやら安奈、家で自殺未遂したらしい。それで職員室にいた教師達が慌ててるってさ」


長谷川安奈のことは知っている。

俺や雄二と同じ小学校出身だ。


すると凪沙が唇に人差し指を当てて、妙なことを言いだした。


「LINEがおかしくなった時、私も天音も連絡が取れなくなった女子がいたでしょ。その中に安奈もいてさ。他にも伊藤咲良と近藤愛菜にも連絡が取れなかったのよ。教室まで捜しにいったんだけど、二人とも学校を休んでるみたいで」


佐々木安奈、伊藤咲良、近藤愛菜の三人も小学校の時からの同級生の女子だ。


安奈、咲良、愛菜は小学校の時からいつも三人一緒につるんでいたよな。


そこまで考え、ふとモヤモヤした何かが引っかかるが、どうにも思い出せない。


首を捻りながら黙っていると、教室に渉が入ってきた。

そして俺達のほうへ歩いてくると、爽やかに微笑んで片手をあげる。


「金曜日から大変だったね。三人は大丈夫かい?」


「渉、丁度いいところに来たわ。ちょっと聞いてよ」


そう言って、凪沙は安奈、咲良、愛菜、三人の話を始めた。

黙って聞いていた渉の瞳が徐々に無明になっていく。

そして話が終わると、またいつもの笑顔を装う。


「自殺未遂か、それは学校中の噂になるね。後の二人も学校を休んでいるのか。梅雨に入っているから体調を崩しただけならいいんだけど」


「そうだよな。最近、変なことが続いたから、俺達もちょっとピリピリし過ぎていたのかもな。安奈のことは心配けど、咲良と愛菜 は体調不良ってこともあるもんね」


「そうそう、何でも深刻に考えるのは良くないからね。気軽さと冷静さは必要だよ」


そう渉が促すと、雄二と凪沙はうんうんと頷いている。


しかし、あの笑顔はいつもの仮面だ。

頭の中では、三人が何からの怪奇現象に巻き込まれていると推測しているかもな。


雄二と凪沙に話すと、二人に余計な恐怖を与えそうだから隠しているのだろう。


最近頻発している事象も何の能力も持っていない学生にとっては荷が重すぎる。


少し霊感があり、心霊体験にも詳しい渉でさえ、対処できないことも多いんだからな。


四人で雑談しているうちにチャイムが鳴り、担任教師が教室に入ってきた。

そしてHRが始まったが、安奈の自殺未遂について何の説明もなかった。


学校としても学生達を不安にさせるのは得策ではない、教師だけの秘密にしたようだ。


授業が終わり、昼休憩が始まった。


机を寄せて集団で弁当を食べる者、学食へ行く者、購買部へ走って行く者、他のクラスの様子を見に行く者など、生徒達の行動が活発になり、一気に学校中が騒がしくなる。


そんな中、朝、コンビニで買った弁当を食べていると、一人の男子が慌ただしく教室に入ってきた。


「長谷川安奈のことで新情報を聞いてきたぞ! あいつ、風呂場で手首を深くぶった切って、出血が酷くて、瀕死の状態で発見されて、病院に運ばれたらしいぜ! 使用した刃物は、小型ナイフだってさ!」


男子の言葉を聞いて、室内にいた女子が「イヤーー!」と悲鳴をあげる。


その女子達の反応を見て、情報を持ち込んだ男子がニヤニヤと笑っている。

女子達を怖がらせて楽しんでいる姿を見て、何だか気分が悪い。


男子は両手を振り回しながら、窓際にいる仲間の元へと走って行く。


その様子を眺めていると、窓の外を一瞬だけ、黒い影が上から下へ移動した。


そしてドサっという音が窓の外から聞こえ、次に隣の教室から「キャーーー!」という女子達の悲鳴が聞こえてくる。


それに驚いた生徒達が一斉に窓際に集まり、窓を開けて下を見る。

次の瞬間、各々に悲鳴をあげて、窓から逃げるように後ろに下がり、教室内はパニックになっていった。


机の上に弁当を置いて、走って窓際まで行り、急いで下を覗くと、そこには屋上から落ちたであろう女子の無残な姿があった。


体は百八十度捻じれ、両腕、両脚が、普段は曲がらない方向へ折れ曲がり、頭と顔を強打したのか、顎が砕けて顔の半分が失われ、眼球が一つ飛び出している。


頭から大量の血が流れていることから、たぶん即死だろう。

彼女が倒れている地面は血で真赤に染まっている。


その姿から視線を外せず凝視していると、地面に転がっていた眼球の瞳が動き、俺と目が合ったような錯覚を受けた。


その情景に吐き気を催し、俺は口を押えて一歩下がる。

そした堪らず、床に四つん這いになり、胃の中のものを嘔吐した。


「オェー、オェオェーー」


口元を腕で拭い、周囲を見回すと、俺と同じく嘔吐している者、悲鳴をあげている者、腰砕けになって動けない者、失禁している者もいた。


どの生徒も涙を流し、顔をグシャグシャに歪めている。


女子の一人が自殺未遂、次に学校での飛び降り自殺……

悠乃の事故死のこともあり、俺もパニックになりそうだ。


床に四つん這いになっていると、渉が駆け寄ってきて俺の肩をギュッと鷲づかみにする。


「和也しっかりしろ。冷静さを忘れたら呑み込まれるぞ。僕が渡したお守りはどうした。持っているなら、それを握って、気持ちを落ち着かせるんだ」


渉の声が遠くに聞こえる。


俺はノロノロとポケットに手を入れ、お守りを取り出して、胸の前で両手で握る。

すると渉は厳しい表情で、「ゆっくりと深呼吸しろ。頭が冷えるまで続けるんだ」と指示を与えてきた。


震える唇で、何度も深呼吸をしているうちに、麻痺しかけていた五感が戻ってきて、朧気だった視界がハッキリと見えてきた。


少し落ち着いたと感じたのか、渉は俺を立たせ、恐怖に染まる教室の中を歩いていく。

すると床に座り込んだ凪沙を必死に抱きしめる雄二の姿があった。


お二人は、胸元でお守りをしっかりと握りしめ、必死に自分の気持ちを抑えている。

俺を助けにくる前に、渉が雄二達を助けたのだろう。


俺と渉が二人の前の床に座ると、凪沙が涙を流しながら訴えてきた。


「どうして私の友達ばっかりが死んでいくの! もうイヤだよ! 何か私が悪いことでもしたの! もう止めて! もう止めてよー! 友達を殺さないで! 友達を殺さないで! 殺さないでよ! もうイヤーーーーーーーーーーーー!」


泣き喚く彼女を雄二が必死に抱きしめる。


これはただの飛び降り自殺なんかじゃない。


俺の勘が激しく警鐘を鳴らしている。


……得体の知れない怪異が、俺達を巻き込み、皆を殺しているんだと……

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