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第30話 天音の悲しみ

三十分ほど経つ頃、雄二と凪沙が俺の家に駆けつけてきた。

玄関を上がるとすぐに凪沙は「天音と一緒にいるね」と言って、リビングの扉を開けて、去っていった。


廊下にいた俺と渉に、雄二が声をかける。


「男友達と連絡つくか、調べてくれって、凪沙も言ってたが、あれは何だったんだ?」


「あまり重要な意味はないよ。天音ちゃんがこんな時に、周囲で何か起こったら、大変だからね。だから二人には念のため、確認してもらっただけだから」


ニッコリと笑って渉が誤魔化す。


どうやら、さっき聞いた渉の考察を雄二達には説明しないようだ。

確証もない推論を言って、二人を惑わすこともないからな。


俺、渉、雄二の三人が雑談をしていると、扉が開いて楓姉が廊下に出てきた。


「天音ちゃん、家に帰るそうよ。悠乃ちゃんと最後のお別れがしたいから、お通夜に参列したいって。家にはご両親がいるけど、心配だから凪沙ちゃんが一緒に家まで行くって言ってるわ。だから二人を今から車で送っていくつもりだけど、あなた達はどうする? ハスラーに全員乗せていけないわよ」


「それなら俺は帰るとするか。死んだ女の子とは面識がないからな」


「一旦、家に帰ろうと思います。悠乃ちゃんのお通夜には僕も行くつもりです。和也は彼女達と一緒に行けよ」


和也の言葉で思い出した。


せっかく天音の分の護符を預かっていたのに、彼女に渡すしていなかった。


俺が同行しないと、凪沙に文句を言われそうだ。

それに天音のことを心配しているのは俺も同じだしな。


「わかった。俺が一緒にいくよ」


すると渉が雄二に声をかける。


「帰るなら、その前に僕に付き合ってくれないか。莉子の家に行きたいんだ」


「どうしてだ? 莉子なら体調が良くなってきてるだろ」


「ちょっと恭子おばさんと話したいことがあってね。女子の家に僕一人で行くのは気まずいからさ」


「わかった。元気になった顔でも見に行くか」


雄二は納得した様子で、靴を履いて渉と二人で玄関を去っていった。


渉は、俺達のLINEに起こった異変と、悠乃の死を心霊現象ではないかと警戒している。

だから莉子のことが気になったのだろう。


彼等を見送った後、俺は私室へと戻り、リュックに必要なモノを入れて、一階のリビングへと向かう。

扉を開けて部屋の中へ入ると、凪沙と天音は寄り添って座っていたが、二人の涙は止まっていた。


「泣いちゃってごめんね」


「友達を亡くしたんだから、強がらなくてもいいよ。悲しかったら、もっと泣けばいいから……」


「……うん、ありがとう」


すると凪沙が立ち上がり、「私、天音の荷物取ってくるね」と言って、楓姉の手を握り二人でリビングを後にした。


何を言えばいいか言葉が浮かばず、俺は天音の隣に座るしかできなかった。

すると彼女は俺の肩に両手と顔を押しつけて、黙ったまま俯いている。


それだけで天音の嘆きと深い悲しみが伝わってくるようだ。


しばらく二人で無言でソファに座っていると、楓姉と凪沙が部屋に戻ってきた。


「そろそろ行くわよ。和也、天音ちゃんをシッカリとサポートしてあげて」


「わかった」


俺は天音の手を握り、ゆっくりと立ち上がる。

すると彼女の体がよろめき、思わず肩を抱いた。


そして四人でリビングを出て、玄関で靴を履き替え、駐車置き場へと向かう。

車に乗り込む時、忘れないうちに、渉から預かっていた護符を天音に手渡しておく。


それから楓姉が運転席、凪沙が助手席に座り、俺と天音は寄り添うように後部座席に座る。

ハスラーは慎重に走りはじめ、約五分ほどで天音の家に到着した。


「天音ちゃん、和也にいつでも連絡してきていいからね。私に連絡してきてもいいし。元気になったら遊びに来てね。泊ってもいいし、また一緒にお話ししましょ」


「ぜひ、またよろしくお願いします」


「天音のことは私が一緒にいますから。ちょっと、和也も何か言いなさいよ」


後ろへ振り向いて、凪沙が俺をジロリと睨む。

その圧に負けて、俺はポツリと呟いた。


「いつでも連絡してこいよ。そんな話でも聞くから」


「ありがとう」


天音は俺の体をギュッと抱きしめ、ドアを開けて外へ出て行った。


凪沙も車から下りて、二人で扉を開けて、玄関の中へと入っていく。

それを見届けた後に、楓姉が短く呟く。


「もっと優しい言葉をかけてあげなさいよ。渉君だったら、甘い言葉を囁くはずよ」


「あいつと俺を一緒にするな。早く、車を出せよ」


俺はムスっとして、両腕を組んで目をつむる。

楓姉と家に戻り、私室へ入った俺は、無造作にベッドに寝転んだ。


色々なことが短期間に起こり、考えるには俺のキャパを超えている。

頭まで布団を被り、静かに目をつむった。


すると緊張が解れたのか、すぐに深い闇へと意識が誘われていった。

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