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第27話 天音の家へ

楓姉のわがままで渉が助手席に乗ることになり、俺は仕方なく後部座席に乗り込んだ。

天音の家は振興地の東側にあり、渉の住むマンションからは三キロほど離れている。


楓姉に天音の住所を教えて、カーナビを起動させ、ハスラーが走りはじめた。

少し進んで赤信号で停車した時、楓姉が気軽な感じで渉に声をかける。


「さっき、聞こうと思ってたんだけど、どうすれば霊媒師さんと知り合いになれるの? そういう人達って巷にいないわよね」


「別に特別なことは何も。昔、ちょっと色々と遭っただけですよ」


「へえー。未来の彼女としては渉君の過去を教えてほしいなー」


明るい調子で冗談を装い、楓姉が渉に問いかける。

強引に渉を助手席に乗せたのは、これが目的だったのか。


なんとなく同級生の男子の昔を、俺から聞き出すのも変だよな。

俺も渉の過去は気になるから、さすが楓姉だ。


質問を取り下げるつもりのない楓姉は、ほがらかに微笑んでいる。

すると渉が、ポツリポツリと話し始めた。


「中学の頃、ある怪異に巻き込まれたことがあるんですよ。その時に神社の女宮司に助けてもらって。それで僕と兄さんだけ助かり、それからは、その神社の関係機関にご厄介になっていたんです。それで頼まれて、霧野川市へ転校してきたんですよ」


「渉君達も心霊現象の被害者だったのね。それで霊媒師さんのお世話になっていると。それなら自然と心霊についても詳しくなるわね。それでお兄さんはお幾つなの? 独身? 渉君と容姿は似てるの? お仕事は?」


「おいおい、楓姉、また話が脱線してるぞ」


「これでいいのよ。もし渉君が私を振ったら、お兄さんに乗り換えてもいいでしょ」


あっけらかんと楓姉がとんでもないことを言い放つ。


渉の話しから、渉の両親が心霊によって被害を受けた可能性が高い。

そのことを楓姉も感じて、話題を渉の兄にすり替えたのはわかるけど、強引すぎるだろ。


それだと彼氏いない歴が長い寂しい女性と渉に勘違いされても知らないからな。


すると渉は、小さい声で笑い、話を続けた。


「兄さんは二十三歳で、僕よりも霊感が強く、心霊をハッキリと見える体質なので、今はその神社の関係機関で勤めています。年収などは聞いたことがないからわかりませんね。顔は僕に似ていますが、性格は相当に違います。兄さんは性格が雑ですからね」


「イケメンで性格が粗野って。ちょっと野性味があっていいかも」


「バカなこと行ってないで、早く車を出せよ。信号が青になってるぞ」


俺が後部座席から悪態をつくと、黙ったまま楓姉はハスラーを走らせた。


渉がお世話になっていたという神社とその関係機関について興味が湧くが、彼が固有名を告げないのは隠していたいからだろう。


それなら無理に聞き出すこともできないと、俺は口を噤んだ。


しばらく車を走らせていると、何度目かの赤信号でハスラーを停車させる。

そしてまた少し車が走ると、今度は前方の道路が工事中で迂回することになった。


天音の家まで三キロほどの距離なのに、通常の運転で五分もかからない距離なのに、既に二十分以上かかっている。


「変ね。今日はすごく信号にひっかかるし、道路工事にも遭うし」


「もしかすると霊障かもしれませんが、異界に連れていかれることはないでしょう。気長に運転していれば、たぶん大丈夫ですよ」


少し不安そうな声を出す楓姉に向けて、渉が怖いことを平然という。


心霊関係に慣れているとはいえ、平常心すぎような気もするが。

しかし、このぐらいの霊障は大丈夫という渉の態度は、運転している楓姉を落ち着かせるには丁度良いのかもしれないな。


それから十分近く走り続けると、やっと天音の家付近に到着した。

軽自動車を停車させた場所から傘を差して、三人で彼女の家に向かう。


玄関のインターホンを押すと、すぐに扉が開いて天音が顔を出した。

その表情はこわばっていて、疲れの色が見える。


「来てくれて嬉しいわ。早く入って。話したいことがあるの」


そう促されて、玄関の中に入ると、廊下から天音が手招きして階段を上っていく。

靴を脱いで「お邪魔します」とだけ言って、俺、楓姉、渉の三人は彼女の後を追った。


天音の部屋にはいると、突然に彼女に抱きしめられた。


「ずっと家の中が変なの。今は明かりがついてるけど、さっきまで、どの部屋も照明をつけると、すぐに点滅を始めて消えるのよ。それで怖くなって、友達にLINEで連絡を取るんだけど、通話ができなくて、コメントもおかしくなるし。だからすごく不安だったの」


俺の体にしがみついたまま、天音が上目遣いに瞳を潤ませた。


そんな彼女の表情を見て、思わず背中に片手を回しそうになるのをグッと堪える


すると楓姉が後ろから俺の背中を押した


「女の子が泣きそうにしてるんだから、黙って抱きしめてあげればいいの。早くギュッとしてあげなさい」


楓姉の言葉で抑え、何も考えずに天音を力強く抱きしめた。

すると天音が全身を俺に体に押しつけてくる。


その柔らかい体はブルブルと小刻みに震えていて、彼女がどれだけ恐怖が伝わってきた。

男の俺でも心霊現象は恐怖でしかないのに、必死に耐えていたのだろう。

これだけ家中で異変が起これば、天音は不気味な恐怖を感じていたに違いない。

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