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第22話 渉と雄二からの誘い

渉は真剣な表情を浮かべ、ブレザーの内ポケットから、お守りのようなモノを取り出し、俺に手に持たせる。


「ただの夢とは思うが、念のため肌身離さず、持っていてくれ」


「これって、普通の神社で売ってるお守りと違うのか?」


「ああ、ある神社の女宮司様が、祈祷をしてくれた梵字護符が、そのお守りの中に入っている。破魔の効果がある優れモノだ。だから、いつも持っておけよ」


渉の話から推測すると、このお守りは心霊現象から身を守ってくれる結界のようなものかもしれない。


お守りから長く伸びた紐を首にかけ、シャツの中へ仕舞い込んでいると、渉が机に片手を置いて、少し小声で話しかけてきた。


「和也は寝ていたから知らないだろうが、今日は葵が学校を休んでる。それで凪沙がLINEで連絡を取ったらしい。葵から体が熱っぽいから休んだとコメントが返ってきたらしいが。和也から夢のことを聞くと、少し気になるな」


「葵から返事が来てるんだろ。もうすぐ六月で梅雨だからな、気候も安定していないし、風邪を引いたか、体調でも崩したんだろ」


「僕もそう思いたいが、『こっくりさん』をしていたのは莉子と葵の二人だ。莉子も霊障に遭っているから、葵にも起こるかもしれない。ただの病なら問題ないけどね」


渉の言う通り、『こっくりさん』で遊んでいたのは、あの二人だ。一人が何らかの霊体に体も意識も憑依され、酷い霊障を受けているのに、残る葵だけが無事に暮らしているのは確かに違和感がある。


しかし、人によって霊感の差異があるように、人によって霊障に対する抵抗力が違っても不思議ではないよな。


俺は心霊現象の経験なんて莉子が初めてだから、それほど詳しくはない。

だから怪異に詳しそうな渉に、葵のことも任せておけばいいだろう。


休憩時間の終わりを告げるチャイムがなり、俺は先ほどの渉の言葉を思い出し、授業中も起きたまま、他の生徒と同じように、課題担当の先生の授業の退屈な話に付き合った。


そして三限目、四限目の授業も終わり、昼休みなったので、楓姉に作ってもらった弁当を鞄から取り出し、いつものように一人で食べることにした。


食事をしている最中に、ブレザーのポケットに入っているスマホのバイブ音が鳴り、気になって取り出してみると天音からLINEのコメントが届いていた。


《凪沙に何か言われた?》


《言ってきた。からかわれたぞ》


天音からの一文を見て、俺は思わずコメントを返す。

すると天音から瞬時に返信が来る。


《通話で説明はしたわよ。でも話に盛り上がってたからね》


《とにかく凪沙をどうにかしてくれ》


《和也ってからかうと楽しいもんね》


天音が笑っているのが伝わってきて、妙にムカつく。

スマホの画面を睨んで、次々にコメントを打っていると、渉と雄二が歩いてきた。

そして雄二が意味ありげにニヤリと微笑む。


「弁当を食べてる途中にスマホで何してんだ?」


「別に。楓姉から今日の夕食についてコメントが来たから、返していただけだ」


「ほう……それにしては随分とスマホに集中していたな」


ニヤニヤ笑いを浮かべる雄二の様子から察すると、凪沙が俺と天音のことを彼に漏らしたな。

しかし、雄二に詳しく説明する気もないし、言い訳をするつもりもない。


口を噤んだ俺を見て、渉が涼やかに微笑む。


「雄二のことは置いておいて、渉は今日の放課後、何か予定はあるか?」


「また莉子の見舞いか?」


「彼女のことは心配しなくていい。さっき莉子のお母さんからLINEが来て、今日も顔色も良くなってるし、食事も普通に取れるようになったとコメントがあったからな。これなら様子を見に行く必要もないだろ」


霊障への処置を施した渉が言うのだから、莉子は順調に回復に向かっているようだ。

それなら放課後に、俺に何の用があるんだろう?


俺が首を傾げて黙っていると、渉は片手で前髪をかきあげ、ニコニコと微笑む。

しかし、本心からの笑みとは思えない。


「悠乃と美結を覚えてるだろ。さっき二人からLINEが来て、今日の放課後に元霧原村へ行こうと連絡があったんだ」


「それで凪沙も乗り気になってさ。天音も来るらしいから和也も誘おうってことになったんだ」


渉と雄二はそう説明して、意味あり気にニヤニヤと微笑む。

その顔が妙に癇に障り、俺は顔を横に向ける。


「それだけ大勢で行くんだから、俺が行く必要もないだろ」


「そう言うなよ。凪沙からは和也を引きずってでも連れてこいって言われてるんだ。頼むよ」


「そんなの知るか。 俺は行かないからな」


そう言い張ると、雄二が哀れなぐらい悲愴な表情で頼み込んできた。


しかし、皆と一緒に行けば、凪沙や雄二が俺と天音を引っ付けようとからかってくるに違いない。

それに渉も加わって、俺達二人をはやし立てられるに決まってる。


そんなことをされると、恥ずかしさに耐えられなくなる。


皆の盛り上がるネタとして、遊び道具にされるのは勘弁だ。


今まで女子との恋愛なんて無縁だったのだから、今はそっとしておいてくれ。


すると俺達二人の会話を聞いていた、渉が言葉を挟む。


「よく考えてみると、今回、皆で向かう場所は元霧原村だ。和也は一度、あの路地で怪異に遭遇している。また危険に遭う可能性を考えれば、僕達だけで行ったほうがいいだろう」


「和也が他にも心霊現象に遭っていたっていうのか?」


「女子達には伏せておいてほしい。無用に皆を怖がらせる必要はないからね」


渉に諭され、雄二は真剣な表情に戻り、大きく頷く。


そんな二人のやり取りを見ていて、ふと元霧原村で出遭った恐怖を思い出す。

それと同時に、なぜか眠っている時に見た、葵の夢を思い出した。

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