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第20話 天音からの告白

霧野川市に引っ越して、小学校に入学してすぐの頃に、楓姉と仲良しだった女子に、俺は初恋をした。


しかし、まだ幼かった俺は、表情や態度を誤魔化すことができず、その女子に恋したことが楓姉にバレてしまった。


それからは楓姉はことあるごとに、その女子と俺が一緒に遊ぶことを企て、三人で遊ぶことが頻繁になった。


そして恥ずかしがる俺の目の前で、楓姉は、俺が彼女をどれだけ大好きかを語ってみせたのだ。


そうなると幼少の頃とはいえ、当然、気まずい雰囲気になるわけで。

俺はそのことに耐えられず、その女子を避けるようになったんだ。


今思えば、小さかった楓姉は、弟の俺の初恋を一生懸命応援していたに違いない。


しかし、そのことが俺には大きなトラウマになり、それからというもの、同学年の女子達と遊ぶ際には、できる限り好意の気持ちを薄くし、その場の雰囲気に合わせて行動するようにしたのを覚えている。


それが影響したのか定かではないが、俺は思春期に入ってからも、同年代の女子達に友達としての好意はあったが、男女としての恋愛感情を持つことはなかった。


そんな恋愛奥手の俺が天音の恋心に気づくはずないだろ。


ベッドから置き上がり、普段着に着替えて、気分転換のために机に向かう。

授業中、寝ている振りをしているので、きちんと予習と復讐をする必要がある。


そして二時間ほどが過ぎ、楓姉が一階から大声で夕食の用意ができたことを伝えてきた。


自室を出て、ダイニングへ向かうと、楓姉が食事の準備を全て整え、席に座っている。

今日の夕食のメニューは、肉じゃが、野菜サラダ、味噌汁、ご飯の四品。


俺は箸を手に取り、「いただきます」と一言呟いて、料理に黙々と食べ始める。

すると楓姉は食事をする手を止めて、俺の顔を見て、なぜかニコニコと微笑んでいた。


「人の顔を見ながら笑うなよ」


「最近、色々な和也の表情が見られると思ったのよ」


「楓姉にも話しただろ。あんな心霊現象に遭えば誰でもビビるだろ」


「それだけを言ってるんじゃないけどね」


楓姉とは顔を合わせても一日に数度の時もある。

それも長時間話すことはあまりないのに、どうして俺の変化に気づくんだ。

女性の視点は男性とは違うし、勘も鋭いから侮れない。


俺は料理を食べ終え、味噌汁を最後に一気に飲んで席を立ち、リビングを抜けて廊下に出ると、玄関で靴を脱いでいる親父と不意に出会った。


「おかえり、今日は早いね」


「ああ、服を着替えに帰ってきた」


「仕事が忙しいのはわかるけど、楓姉が心配するから、体を壊すなよな。」


「ああ」


親父はどちらかと言えば寡黙で、最近では俺や楓姉と話していても短い返事しかしない。


俺が小さい頃に母さんが他界してから、男手一つで俺達姉弟を育ててくれている。


親父が懸命に仕事をしていることを頭では理解しているが、親父を前にすると憎まれ口しか吐けない。


何かを伝えたいが、場を保つことができずに、俺は廊下を歩いて階段へと向かった。


自室のベッドに座ると、ズボンのポケットに突っ込んでいたスマホのバイブが震える。

それに驚いて、スマホを取り出して画面を見ると、天音からのLINE通話だった。


コメントを送ってくると思っていたのに、いきなり通話をすることになるのか。

しかし凪沙から「逃げたら許さない」と釘を刺されているから、無視することもできない。


俺は大きく息を吐いて、スマホの画面をタップし、LINE通話を応答に切り替えた。


「もしもし」


『天音だよ。LINEを教えてもらったから、すぐに連絡しちゃった』


「おう」


返事をしたまま黙っていると、天音の声が小さくなる。


『さっき凪沙から連絡が来てね。和也、私の気持ち、知っちゃったんだよね?』


「ああ……」


『和也にちゃんと伝えるつもりはなかったんだけどなー。私が一方的に和也のことが好きなだけだし。和也って恋愛に興味なさそうだし、どこか皆と距離を取ってたから、伝えるつもりなかったんだよね』


「どうして俺なんだ? 中学の頃から、俺は捻くれてたただろ」


『だって私の周囲に集まってきてた男子って、皆、恋愛目的というか、私の容姿が目当てでしょ。でも和也って私が幾ら近づいても、邪険にされるし。そこが私自身をわかってくれてるって感じたのよね』


「天音は天邪鬼だからな」


天音は誰とでも打ち解けて話すが、他人から近づかれて構われると、さっと避ける癖がある。


中学の頃、天音のことを想っていた男子が、告白もできずに挫折した後ろ姿を何度も見た事があった。


そんな過去を思い返していると、天音の嬉しそな声が耳に響いてくる。


『でしょ。やっぱり和也は私のことをわかってくれてるよね。捻くれてるし、孤独でいいとか言ってるけど、でも実はすごく優しいんだよね。だから私は和也のことを好きになったのよ』


「それは俺のことを良いように捉え過ぎだ。それに天音のいう俺が好きって感覚は、たぶん友人として好きに近い気持ちだと思うぞ」


『それって私が恋愛音痴みたいじゃない。私だって、中学の時も高校の時も、複数の男子に告白されて二週間ぐらい付き合った経験は何度もあるし。でも何か違うと思ってすぐに別れたけどね。だから自分の恋心ぐらいわかるわよ」


「何度も男子と付き合った経験があるなら、俺に拘る必要もないだろ」


『和也のバカ! 他の男子と付き合ってみて、やっぱり和也が好きって何度も確かめてたんじゃない」


天音の言い方だと、今まで天音が付き合ってきた男子は、彼女が自分の気持ちを再認識するために利用されたってことか?


好きな女子と付き合えたのだから、その男子は本望なのだろうが、どこか不憫だな。


俺が沈黙していると、急に天音が慌てだした。


『男子とは付き合ったことあるけど、誰ともキスしたことないし。ベッドに押し倒されたこともあったけど、裸を見せたこともないからね。和也のこと一筋だったから……』


「自分で言ってて恥ずかしくないか?」


『せっかくLINEが繋がったから、和也ともっと仲良くなってから自分から告白するつもりだったのに。凪沙が先走って喋っちゃったから、私だって混乱してるんですー』


俺が天音の立場であれば、恥ずかしすぎて通話する勇気もないよな。

そうすると俺のことが好きという彼女の気持ちは、ある程度は本気なのかもしれない。


そこまで思考が辿り着いた俺は、急に恥ずかしくなり、頭が真っ白で言葉が上手く出なくなった。

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