第2話 謎の体調不良
女子二人が『こっくりさん』していたのを目撃した翌日、莉子が学校を休んだ。
担任の先生の説明では、彼女は体調不良で休んでいるらしい。
しかしクラスの中には、『こっくりさん』の呪い祟りと言い出す学生もいて、それに怯えた女子達の間で色々な憶測が飛び交っている。
俺としては、噂を本気にするつもりはない。
そして日々は流れ、その女子が体調不良になってから一週間、まだ彼女は登校していない。
いつものように休憩時間を寝たふりでやり過ごしていると、いきなり肩を叩かれる。
それに驚いて、机から顔を上げると雄二が立っていた。
「莉子がずっと休んでるだろ。それで凪沙が莉子のことを気にしてるんだ。それで放課後に家まで行こうって言ってるんだけど、和也、お前も一緒に来るだろ」
「どうして俺が?」
「莉子は和也にとっても幼馴染みたいなもんだろ」
たしかに莉子も俺と雄二と同じ小学校出身だ。
小学校時に同じクラスなったこともあるし、一緒に遊んだこともある。
あまり細かいことを気にせず、いつも笑顔の明るい女の子だったのを覚えている。
思春期になってからは段々と話す機会も薄れ、今では同じ教室にいても疎遠になっていたけどな。
俺はノロノロと腕を動かして髪をかく。
「ただの体調不良かもしれないし、女性特有のアレかもしれないだろ。俺達が集まって押しかけることか」
「そんなことは言われなくてもわかってる。でも凪沙が葵を気にしててさ。葵に付き添ってやりたいって言ってるんだ」
葵も俺達と同じ小学校出身で、気が弱く物静かで、昔から斉藤凪紗が世話を焼いている女の子だ。
机に肘を着いて、俺は大きくため息を吐く。
「凪沙と雄二が一緒に行くんだから、俺は行かなくてもいいだろ。」
「凪沙が和也を呼んでいるんだよ。文句を言わずに一緒に行こうぜ。でないと俺が怒られるんだよ」
眉間にシワを寄せた表情で、雄二が頼み込んでくる。
中学に入学した頃から雄二が凪沙に恋心を抱いていて、彼女に反論できないことも知っている。
そんな彼の心中を察して、俺は大きく頷いた。
「わかった。放課後に一緒に行けばいいんだろ」
「それじゃあ、頼んだぞ、絶対に逃げるなよな」
そう言い残して雄二は自分の席へと歩いていった。
今はまだ高二だが、高校三年なれば、大学進学のための勉学を本格的に始める必要がある。
上手く大学に入ることができれば、晴れて東京暮らしが俺を待っている。
もちろん田舎の友人達とは交流していくつもりだが、都会に行けば疎遠になるのは仕方がない。
なので今更、ほぼ疎遠となっている女子と仲よくすることもないけどな。
凪沙とは小中とよく交流していたし、高校に入学してからも会話をする。
世話好きの凪沙が一方的に絡んでくる、腐れ縁だけど。
今回は雄二の恋に協力するつもりで、皆と一緒に莉子の家まで行ってみようか。
午後のHRが終わり、担任の教師が教室を去っていき、俺は机の引き出しから教材を鞄に詰め直して、雄二の元へと歩いていく。
すると既に凪沙、葵、それになぜか渉も集まっていた。
俺は彼の姿を見て首を傾げる。
「今日は莉子のお見舞いに行くんだろ。街の観光案内とは違うぞ」
「そんな冷たいことを言うなよ。和也と違って、僕は莉子とも仲が良かったんだ。休んでいる彼女を心配する気持ちは皆と同じさ」
渉は涼やかに微笑むが、俺は渉の冷たい瞳を知っている。
クラスで見せる彼の笑顔は、本性を隠すための偽りの仮面だ。
何かを隠していると、いつも違和感を感じる。
だから安心して渉に騙されるなんてできない。
俺と渉が顔を見合わせていると、凪沙がプププッと噴き出して笑う。
「アナタ達二人ってそういう関係だったの?」
「そうなんだ。転校初日に、和也に一目惚れしたてね。でもなかなか手強くて」
「わかる。不用意に近づくと猫みたいに警戒されるもんね」
「その通り。そんな警戒心の強いところも、僕の好みにピッタリなんだけどね」
凪沙の話しに乗って、渉がとんでもないことを言い出した。
すると雄二と葵が、目を見開いて俺を見てくる。
その視線に堪らず、俺は叫び返す。
「俺をそんなキャラにするなって言ってるだろ」
「それは心外だな。意外と真面目に告白してるつもりだけどな」
「それなら尚更悪いわ」
俺が思わず顔を横へ向けると、凪沙、雄二、葵の三人が笑い転げる。
少し沈んだ三人の気持ちが少しは晴れたようだ。
渉め、この流れを目論んで会話を仕組んだな。
それから五人で教室を出て、階段を降りて靴を履き替え、校舎の玄関へと向かう。
そして、ふと外を見上げたると、空一面が、どんよりした曇り、いつ雨が降りだしてもおかしくない。
すると隣に現れた雄二が独り言を呟いていた。
「これから見舞いに行くのに、イヤな空模様だな」