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第19話 凪沙の暴露

窓から刺し込む日差しが夕陽へと変わり、俺達七人は、なぜかLINEの連絡先を交換することになった。


俺は抵抗したが、天音と凪沙が強引に説得され、渉にも「諦めろ」と促され、抗らうのを諦めて、皆にIDを教えることに。


会計を済ませて店を出ると、葵は一人で帰ると告げ、皆より先に道路を去っていく。

俯いて歩く彼女は無表情で、どこか陰鬱とした雰囲気をまとっていた。


天音、悠乃、美結の三人はまだ時間に余裕があるから遊びたいと言い出し、渉が「僕が付き合うよ」と言い、四人で駅傍の方へと消えていった。


残された俺と凪沙は自然と二人で歩き出し、彼女を家まで送り届けることになった。

黙ったまま道路の端を並んで歩を進め、俺は独り言のようにブツブツと呟く。


「せっかく渉に会わせてやったのに、天音の奴、俺ばかりからかいやがって、昔から、あいつ、うるさくて変わってねーな」


「それは和也が鈍感だからでしょ」


「それはどういうことだよ」


凪沙がジロッと横目で見てくるので、それに反応して俺は思わず、ムッとした表情をする。

すると凪沙が呆れた表情で片手を広げた。


「もう私から言っちゃうけどさ。天音って中学の頃から、男子達に人気があったでしょ」


「凪沙もだけどな」


「私のことはいいの。そんな男子達にモテる天音が、どして和也のことを構っていたかわかる? その意味にいい加減に気づきなさいよ」


「俺が捻くれ者だから、からかいがいがあったんじゃねーの」


深く考えもせず、俺が言い放つと、凪沙が俺の前に回り込み、片腕を腰に当てて睨んできた。


「天音はね、中学の頃から和也のことが好きだったのに。だから和也の目の前で天音に連絡して、会える機会をセッティングしたんでしょ。この鈍感バカ!」


凪沙の突然の宣告に、俺は頭が真っ白になり、何も考えられずに呆然として、動けなくなった。


中学の頃、何回も「付き合ってあげる」みたいな弄られ方をしていたけど、いつも冗談交じりで、天音が本音で言っていると、俺は感じることができなかった。


「あんな態度だったら誰でも気づかないだろ」


「女子から神妙な態度で告白されないとわからないの。ホントに最低」


「凪沙だってそうだろ。雄二と何時までも幼馴染の関係を続けていてさ」


「私と雄二は、高一の途中から付き合ってるわよ」


凪沙から飛び出した言葉に、俺は口を開いたまま呆けた顔をする。


雄二からは凪沙のことが好きだと聞いたことはある。

しかし、彼女に告白したとも、二人が付き合い始めたとも彼からは聞いていない。


俺が黙ったまま凪沙を見ていると、彼女は前を向いてゆっくりと歩き出した。

そして俺が横に並ぶと、ポツリポツリと言葉を零す。


「高校に入学してすぐに大怪我をして、雄二はサッカーができなくなって部活を止めたでしょ。その時、相当に凹んでいたの。その姿を見ていたら、放っておけなくなったんだよね。それで以前から雄二には告白されていたし、返事を引き延ばしていたから、雄二と付き合うことにしたの」


「怪我をした時も、雄二は男子の前では強がっていたからな。頑張って強がってるのに、俺がとやかく言うのも筋が違うから、あの時は、気づかない振りをするしかできかなった」


「男子のことなら心の機微がわかって、そういう気遣いができるなら、女子のことも大切にしなさいよね」


「すまん」


凪沙にビシッと断言され、俺は少し俯いて、髪をかくしかなかった。

それからしばらく、夕陽の中を俺達二人は無言で歩き続ける。


凪沙を家まで届け、玄関先で別れようとすると、彼女から声をかけられた。


「今日、天音からLINEがくるわ。その時、私から天音の気持ちを、和也に言っちゃったって伝えておくから。もし和也のところにLINEが来たら、絶対にコメントを返してよね。既読もしないで、和也が逃げたら、絶対に許さないんだからね」


「俺は普段通りにしかできないぞ」


「それでいいの。妙な態度をされても天音が困るわよ。いつものように対応すればいいのわ。でも天音のことを絶対に傷つけないでね」


「善処はする。それにしても天音の男性選びの趣味は良くないよな」


「その点では同意ね。和也を好きなるなんて、絶対に変だもの。それじゃ、またね」


凪沙はニッコリと微笑むと、早々に玄関の扉を開けて、家の中へと入っていった。

その姿を見届けて、俺は身を翻して自宅へと歩いていく。


既に夕陽が沈む頃、俺は自宅に到着して、玄関のドアノブを回してみる。

すると誰か家に帰ってきているようで、ドアが開いた。


靴を脱いで階段に向けて歩いていると、リビングの扉が開いて、隙間から楓姉が顔を出した。


「あれ和也一人? 渉君は一緒じゃないの?」


「なぜ家に連れてくる前提になってるんだよ」


「前に大丈夫だ、俺に任せろって約束したでしょ」


「そんなこと言った覚えはない。寝ぼけたことを言うな」


廊下に出てきた楓姉に背中を向けて、階段を伸びりかけると、後ろから言葉が飛んでくる。


「いいじゃん、いいじゃん、私にも癒しを分けてくれたって」


「うるさい、その内、考えとく」


二階の私室の扉を開けて、鞄を床に放り投げて、俺はベッドを倒れ込む。


どうして周囲にいる女性連中は、俺を放っておいてくれないんだ。


天音が俺のことを好きだって言われてもどうすればいいんだよ。

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