第18話 元霧原村の情報
街中で騒いでいても仕方ないので、俺、凪沙、葵、渉、天音、そして女子二名は、スイーツ店に入ることにした。
店内を見渡すと、一つだけ大きなテーブル席があり、店員の案内で、俺たちはその席に向かい、腰を落ち着けることなった。
渉の左右には聖火女学院の女子二人が座り、なぜ俺の左右に凪沙と天音が座ることに。
葵は凪沙の隣に座っている。
席に着くと、「初めて会ったことをお祝いして、今日は僕が全て奢るよ」と渉が言い出した。
それに女子達は大喜びし、各々にメニューを選んで、店員に注文を告げていく。
すると天音が俺の脇を突き、「さすがはイケメンだよね。和也とは違うわね」と小声で言ってきた。
天音の言葉に渋い表情をしていると、渉がニヤニヤと笑う。
「天音ちゃんとは和也と仲がいいんだね。和也は何も言わないから知らなかったよ」
「そうね。中学の頃はとっても仲良しだったわね。和也って面白いからね」
「わかる、わかる」
「俺のことで、変に二人で同調するな」
渉と天音が盛り上がるのを俺は強引に遮る。
すると、凪沙が両手をパンと叩き、皆の注意を彼女に向けさせた。
「皆でバラバラに話すのも楽しいけど、天音、元霧原村の昔のこと、情報は集めてくれた? 」
「もちろんよ。だから二人にも来てもらったの。悠乃 、美結 、教えてあげて」
天音に明るく笑うと女子二人に声をかける。
店に入る前に紹介してもらった二人の名前は 楠木悠乃 と渡瀬美結。
二人共、黒髪ロングの清楚系の髪型をしていて、化粧も天音ほど派手ではない。
こういうタイプが聖華女学院のスタンダードなのかもしれないな。
皆を見回して悠乃 、美結は順番に話し始めた。
「私の家は、お兄ちゃんが生まれる頃に、霧野川市に引っ越ししてきの。それでお母さんから聞いた話なんだけど、昔々、霧野川が氾濫した時、いつも酷い水害に遭ってたんだって。それで村の中心に神社を作って、そこで神様を祀ってるて言ってたわ。だから元霧原村の神社は特殊で、村の人達はその神社を大事にしているらしいわ」
「私もお父さんから話を聞いてきた。昔は振興地から霧野川駅周辺は何もない荒地だったんだって、だから川が氾濫すると、元霧原村の辺り一面は川のように浸水して、沢山の村人が亡くなったらしいの。だから村人達は水害を怖れて、人柱を何人も生贄に捧げたって。お父さんの推測だけど、村人だけじゃなく、村を往来していた人達も人柱になったかもしれないって言ってたわ」
すると二人に続いて、天音も話に乗ってきた。
「私も両親から元霧原村の情報を集めたけど、悠乃 、美結が聞いてきた話とだいたい同じね。付け加えるとすれば、元霧原村の地域には細い路地に、沢山のお地蔵様が立っていて、そのお地蔵様は水害が起きないように、結界みたいに張り巡らせてるんだって」
悠乃 、美結、天音が集めてきた情報は、渉が図書館などの史書で調べてきた内容とほぼ一致している。
やはり元霧原村はそういう儀式が行われていたのだろう。
三人の話を聞いてうんうんと頷いていると、天音は奇妙な話を始めた。
「聖華女学園の先輩の間で噂になってたんだけどさ。ある先輩の付き合ってた彼氏が、イケイケで、心霊現象なんて信じないタイプの男子らしいの。それで元霧原村のお地蔵様を何体も、金属バットで破壊したらしいわ。壊れたお地蔵様の中には、頭が壊れちゃったり、体まで砕かれた像もあったそうよ」
神妙な表情をする天音の言葉を聞いて、渉はスーッと目を細める。
「それは興味深いね。心霊現象や幽霊なんて信じないという男子も多いけど、お地蔵様の像を壊すのは流石にマズイよね」
「そうそう。この話には続きがあって、その地蔵様を壊した先輩の彼氏は、次の日から行方不明になって、どこかのビルの屋上から飛び降り自殺したらしいの。そして彼氏のことが原因かわからないけど、その先輩も聖華女学園を自主退学そうよ」
「なるほど、ホラーやオカルト話としてはアルアルの話だね」
「そうなのよ。だから先輩達から話を聞いた時、現実にこんなことが起こるんだって、私もビックリして覚えてたんだよね」
天音の話が本当なら、その先輩の彼氏は、お地蔵様の像を壊して、呪いや祟りに遭ったということになる。
それとも、お地蔵様で封印いしていた結界が緩んで、元霧原村にまつわる、その土地の何かを無理矢理に起してしまった可能性も考えられるな。
どちらにしてもろくでもないことを仕出かしたもんだ。
黙って話を聞いていると、天音がまた俺の脇を突いて、ニコニコと笑う。
「ねえねえ、私も少しは役に立つでしょ。これで和也も見直してくれたかな」
「ああ、天音のおしゃべりも、役立つってことはわかったよ。普段はうるさいだけだけどな」
「どうして和也って、昔から素直じゃないのかな。そんなんじゃあ、彼女もできないでしょ」
「うるさいな。お前達の今日のお目当ては渉だろ。渉と楽しくすればいいじゃないか」
「悠乃 、美結はそうだけどさ。凪沙から和也も来るって聞いてたから、私は久しぶりに和也と会えると思って楽しみにしてたのに。もっと構ってくれてもいいじゃん」
天音の言葉に驚いて、俺は咄嗟に凪沙のほうへ顔を向ける。
すると俺達の話が聞こえていたようで、彼女は顔を横に向けて視線を逸らした。
俺は対応に困り、渉の方へ視線を移すと、渉は両側にいる悠乃と美結に挟まれて、二人と楽しそうに会話をしていた。
そんな俺の態度を気にする様子もなく、天音が体を寄せて下から俺を見上げてくる。
「中学の時はよく喋ったじゃん。高校は別々だったけどさ。凪沙とはLINEでいつも話してるし、和也ともせっかく会ったんだから、また仲よくしようよ。もし決まった彼女がいないなら、私が付き合ってあげてもいいからね」
天音はそう言い放つ、俺の腕に自分の腕を絡めて、よく育った豊満な胸を押しつけてくる。
中学の頃もそうだったが、昔から天音は俺をからかうために、彼女になってあげると言ってくる。
まだ青臭かった俺は、彼女の態度にドキドキさせられた。
しかし、高校生になって、今では天音のイタズラの手口であることぐらいはわかる。
なので、俺は「イケメンでも構ってろ」と言って、天音を強引に引き剥がした。
そんなやり取りをしていると、強烈な視線を感じて、急に寒気がして首がチリチリとし始める。
咄嗟にその視線の方向へ顔を向けると、葵が顔色を蒼白にして、ジトリと天音を見据えていた。
そして、その瞳は海底よりも深く、奈落の淵のように思えるほどの漆黒で、その無表情な顔からは、どんな感情も読み取ることはできなかった。