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第16話 莉子の容態

俺、雄二、凪沙、葵、渉の五人が莉子の家に到着すると、恭子おばさんが出迎えてくれた。

玄関に現れた恭子おばさんの表情は、昨日よりも疲れが抜けているように見える。


俺達はリビングへ通され、恭子おばさんから、昨日俺達が帰った後の莉子の様子を聞かしてもらうことになった。


恭子おばさんの話では、渉の処置が良かったらしく、莉子が暴れることはなかったという。

そして莉子が正気を取り戻している時間もあり、二人で一緒に食事を取ることもできたそうだ。


昨日の夜には、渉の指示通りに、湯に酒を混ぜた湯船に、莉子を浸からせたという。


部屋の隅に視線を向けると、紙の上に盛り塩が置かれていた。

恭子おばさんは、渉の指示通りに、キッチリと心霊対策をしているようだ。


恭子おばさんは目をハンカチで押え、穏やかに微笑む。


「渉君、それに皆も、莉子のためにありがとうございます」


「おばさん止めてよ。莉子は大切な友達なんだから、私達が協力するのは当たり前じゃない。そうでしょ、雄二」


「もちろん、その通りだ。莉子の体調が戻るなら、何でもしますよ」


凪沙と雄二の言葉を聞いて、恭子おばさんは深々と頭を下げた。


すると渉が音もなく椅子から立ち上がり、俺の肩をポンと叩いて、リビングの扉へと歩いていく。


「少し僕は莉子の様子を見てきます」


「俺も行こう」


渉の合図に促され、俺も席を立って、彼の後に続いてリビングを出た。


昨日、あんな心霊現象に遭った莉子の様子が気になっていたし、恭子おばさんのことは雄二、凪沙、葵の三人に任せておいてもいいと判断したからだ。


二人で階段をゆっくりと歩いて、莉子の部屋へ入ると、昨日は倒れていた机や本棚なども、元の位置に戻され、壁紙やカーテンはビリビリだが、室内はキレイに整っていた。


莉子は白いベッドで眠っていたが、俺達が部屋に来たのがわかったらしく、目を覚まして上半身を起す。


「渉君、それに和也君も。今日も来てくれたの。お母さんから聞いたわ。渉君が体調を直してくれたって。本当にありがとう」


「僕はただ知っていることを伝えただけだよ」


「俺は、雄二、凪沙が見舞いに行こうと言うから、俺は付いてきただけだ。感謝するなら三人に言ってくれ」


俺は顔を横に向けて、髪をかく。

すると渉はベッドの脇に片膝をついて、莉子を見る。


「実は聞きたいことがあってね。学校を休む前に、昼休憩に葵と二人で『こっくりさん』をしていただろ。あの時、十円玉を鳥居に戻して、キチンと終らせたかい?」


「ううん、あの時、いきなり十円玉が勝手に動いて、用紙からはみ出して、机から十円玉が落ちちゃったの。それで葵ちゃんと二人で、なんだか気持ち悪いねって話してて、それで遊ぶ気がなくなって、それで葵ちゃんが用紙を片付けてくれて、もう昼休憩も終わりに近かったから、そのまま止めちゃったんだよね」


莉子の証言からすると渉と俺の予想は当たっていたわけだ。


彼女の様子からすると、どうやら莉子も葵も『こっくりさん』をただの遊びと思っていて、降霊術の儀式という認識はなかったようだな。


だから昨日、渉の説明で莉子の体調不良が『こっくりさん』が原因と聞いて、葵は顔色を青くしていたのか。


そこまで考えて、俺はふと疑問を口にする。


「それで、莉子も葵も、『こっくりさん』に何を聞いてたんだ?」


「そんなの言えるわけないでしょ。女子二人の秘密に関わることなんだから。絶対に男子には教えません」


「そういうことなら言わなくてもわかるぞ。気になる男子との恋占いをしてたんだろ。それとも気になる男子の好みとか『こっくりさん』に相談してたって感じだな」


「和也君の誘導尋問には乗りません。残念でした」


莉子は頬を膨らまして、顔を横に向ける。


これだけ会話ができるようなら、莉子の体調も良さそうだ。

霊障も軽くなってきているのかもな。


俺達が話していると、渉がベッドの端を手を置く。


「質問を変えよう。お母さんから聞いていると思うが、莉子は病じゃない。体調不良になったのは『こっくりさん』の霊障を受けたからだ。それで聞きたいんだけど、学校を休みだしてからの記憶はキチンとあるかい?」


「それが記憶がほとんどないの。意識がある時も、ボーっとしていて自分が何をしてるかわからなかったし。お母さんがこの部屋の傷は私が暴れたからだって言ってたけど、全く記憶にないんだよね」


「記憶を失う前、何か体調に変化はなかったかい?」


「そういえば、急に体に悪寒がして、体の中に何かが入ってくるような感覚があったような。よく覚えていないけど」


莉子の話から内容を推測すると、どうやら彼女は霊障に体を憑依されていたようだな。


渉は俺に向けて大きく頷き、また莉子に話かける。


「今の調子はどうかな? まだ体の中に何かありそうな感じがするかい?」


「そうね……気持ちはすごく落ち着いてるし、体調も悪くないわ。食事も美味しく食べられるし。でも……体の中に何かがいるというよりも、心の中にもう一人の誰かがいるような……」


莉子は話ながら、徐々に不安を感じたように俯いていく。


すると渉は体を伸ばして、莉子の片手を握る。


「莉子にはお母さんが一緒にいるよ。それに僕や和也達もいる。必ず良くなるから自分と皆を信じるんだ。今は決して、何かに絶望してはダメだよ。もしそういう気持ちになったら、皆を思い出してほしい」


何時になく渉は真剣な表情を浮かべ、莉子に訴えかける。

すると莉子の表情が崩れ、目から大粒の涙が零れ落ちた。


「ありがとう。お母さんから心霊現象で私がおかしくなってたって聞いてから、怖くて怖くて仕方なかったの。『こっくりさん』なんてするんじゃなかった。だって学校の女子の間で流行ってたし、ただの遊びと思ってたの。そんな怖い儀式だなんて知らなかった……怖い……怖い……誰か助けて」


気丈に振舞っていた莉子だが、まだ恐怖が身に染まっていたようだ。


霊障を受けて、自らが正気を失って狂ったのだから、その不安や恐怖は尋常ではないだろう。


どうすれば莉子を元気づけることができるか、うまく言葉が出ずに黙っていると、渉は床から膝を放して、莉子の肩を抱き寄せ、頭を両腕で抱え込む。


「すごく怖かったよね。でももう大丈夫、大丈夫だから。僕が何とかするから。安心して心も体も休めるんだよ」


渉は優しく声をかけ、莉子を優しく包み込んでいるが、その目は空中を何かを睨んでいた。

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