表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/55

第15話 凪沙の人脈

一階の下駄箱で靴を履き替えて、校舎を出て校門へと歩く。

空を見上げると、どんよりとした雲が広がり、今にも雨が降りそうだ。


俺は歩きながら、先頭を行く雄二と凪沙に声をかける。


「渉が二人に少し聞きたいことがあるそうだぞ」


「何だ?」


「何、何?」


雄二と凪沙は立ち止まり、振り返って最後尾にいた渉へ視線を向ける。


俺も足を止めて、渉にニヤリと微笑みかける。


自慢ではないが、学校で俺に話しかけてくる学生は少数だ。

渉に情報を集めてほしいと相談されても、俺自身の行動範囲では無理がある。


なので、学生達に人気も高い、雄二や凪沙なら交友関係も広い。

それに二人なら、どんな話を持ちかけても、訝る学生はいない。


なので俺は独断で雄二と凪沙を巻き込むことにしたのだ。


その意図を察してか、渉は少し困ったような表情を浮かべる。


「実は元霧原村の昔についての情報を集めてるんだ。協力してくれると助かる」


「それなら葵に聞けばいいんじゃない。葵の家はあの地区よね」


凪沙は平然と葵へ話題を振ってくる。

すると葵は驚いたように目をパチパチとさせ、それから少し俯いた。


「……私は村についてあまり知らないの」


「葵が知らなくても、おじ様とおば様なら何か知ってるんじゃない? 二人から話を聞くことはできないの?」


「……ちょっと無理……」


「凪沙、あまり葵を困らせるなよ。葵の両親は厳しい人達なんだからさ」


葵が下を向いてしまったので、雄二が凪沙を止めた。


雄二と凪沙の話から推測すると、二人は葵の両親と会ったことがあるのだろう。


もし彼女の両親が厳格な性格なら、迂闊に村の情報を集めていると聞けば、変に疑われるかもしれないな。


すると凪沙は指を当てて、空中を見つめる。


「それならちょっと待って、ちょっと連絡取ってみるから」


凪沙はブレザーのポケットからスマホを取り出し、慣れた手つきで画面をタップして、耳にスマホを当てる。


「あ、天音ちゃん、私、私、ちょっといい? 今、元霧原村の昔について情報を集めてるんだけど、 天音ちゃんの家ってあの地区よね。おじさんとおばさんに話を聞いてほしいんだけど。スイーツをご馳走するし、ちょっとイケてる男子を紹介するからさ」


凪沙はスマホで話をしながら、渉に向けて拳を握って親指を立てる。


「うん、うん、じゃあ、明日の放課後、駅前に集合でいいかな? ちゃんとイケメン男子を連れていくわよ。え、他の女子も一緒でいいかってこと。もちろん大丈夫よ。うん、うん、また明日ね」


凪沙がスマホを切ると、雄二が声をかける。


「天音って、聖花女学院に通ってる、あの天音か」


「そうそう、中学の時はよく遊んだよね」


二人の会話を聞いて、俺は一人の女子を思い出した。


俺も中学の時に同じクラスになったことがある。

東條天音(とうじょうあまね)は学校でも目立っていて、男子からの人気も高かったような気がする。


黒髪で清純そうな見た目に似合わず、おしゃべり好きで、学校の女子間の出来事なら何でも知ってる情報通だったよな。


天音なら中学の時の同級生女子との繋がりも多い。

その情報を利用しようということか。


イケメンの渉と、スイーツを餌に天音を釣るとは、凪沙も考えたな。


凪沙は満足そうな表情をして、自慢気に豊かな胸を張る。


「私や雄二も振興地に住んでいるし、元霧原村の昔のことなんて知らないもの。こういう時は知り合いの女子を頼るのが一番でしょ。天音とは今も仲いいから、何でも協力してくれるはずよ」


すると雄二が微妙な表情をする。


「天音は苦手だ。色々としゃべってくれるけど、こっちのことも聞き出そうとするからな。明日、天音と会うなら俺はパスな」


「当然、俺も行かないぞ。後は渉で天音と会えばいいだけからな」


俺が早々と断りを言うと、渉が俺の腕を横から握り締める。


「和也だけは逃がさないからな。今日、情報収集の話を持ち出したのは和也だからな。きっちりと責任は取ってもらうぞ」


「それは渉が俺に相談してきたからだろ。だから協力してやったんじゃないか」


「考えてもみろ、女子達に囲まれて、どんな話ができるっていうだよ。話が横道に逸れるのを誰が止めるんだ。和也には一緒に来てもらうからな」


そういえば屋上で話していた時に、霧野川高校の女子達から情報を集めようとしたと言っていたな。


それでも情報が集まっていないということは、女子達が自分達のしたい話題を話し始めたということだな。


彼女達が自分のアピールをしてきたか、渉の色々な好みを聞いてきたかは不明だが、話が上手く進まず、心の中っで苦戦している渉の表情が目に浮かぶ。


内心でイケメンくたばれと思っていると、凪沙が俺を指差す。


「和也も同じ中学だったんだから、天音のことは知ってるわよね。雄二が来ないんだから、和也は絶対に一緒に来なさいよね。そして私達にスイーツを奢ってよね」


「どうしてそうなるんだ。俺は関係ないだろ」


「二人共、落ち着いて。明日の支払いは全て僕が出すよ。だから和也もよろしくね」


渉はにこやかに微笑むが、俺の腕を掴んでいる手に力がこもる。

深淵のような暗い瞳に見据えられ、俺は逃げるのを諦めて、大きく息を吐いた。


すると雄二は手をパンパンと叩いて、歩き出す。


「これで明日のことは決まったし、さっさと莉子の家へ行くぞ」


雄二、凪沙、俺、渉の四人が歩き始め、ふと後ろが気になって振り返ると、葵が顔色を蒼白にして、俯き加減で俺達を見ている。


彼女がまとっている雰囲気がとても暗く、気になった俺は声をかけた。


「おい、どうしたんだ? 行くぞ」


「うん……」


すると葵はハッと表情を変え、いつものように少し恥ずかしそうに、俺達の後ろへ走ってきた。


俺は前を向き、平然な顔をして歩くが、少し葵の異変が気になった。


立ち止まっていた時の葵の瞳は、全く光のない漆黒をしていて、まるで空洞の奥へと続く暗闇のように感じたからだ。


少し歩く速度を遅めて、葵と並んだ俺はチラリと彼女を覗き見る。

すると、それに気づいた葵が、俺に向けて小さく笑む。


そのことで、俺の勘違いだったと思い直して、前を向いて、区画整理された真っ直ぐの道路を見るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ