7話 Dear変質者
朝日昇。天才。自分で何かを見つけたい、彼の思いは1位になれない芸人・相馬透が遭遇した謎の男へと繋がる。
「尼崎薩人、僕はあなたに会いたかったんだ!」
聞いているこっちも笑みをこぼしてしまいそうになるほど嬉しいのが伝わる。まあ耳に全感覚を委ねているから仕方ない。
「お前まずはこっちに謝れよ!矢で目潰しするなんてっ...このクソガキ!」
「そんなこと言う暇あったら俺に謝らんかい!!」
なんで俺が怒られているんだ?
「相馬さん、確かにあなたが1番ダメなことしてますよ。だってこの人からもらった手紙、インベントリから取り出さなかったじゃないですか!これですよこれ!」
数秒間の沈黙が起こる。インベントリの意味がわかっていない人間もいるが。
「もしかして、開かなかったんですかっ!?」
「そのインベントリってのは分からへん。でもお前俺の手紙に気づいてすらなかったっちゅうことか!?」
「ごめん、目潰しで見えてないから、一回リスポーンするわっ!」
目潰しで見えてないのは本当だ。しかし、とてつもない殺気が見えないはずの俺の目に入ってきた。
「この、人間の屑がぁぁっ!」
大声で尼崎が叫ぶ。あの時失った右腕のことを思い出した。あの時、現実世界にも影響を及ぼしたことを。右腕の異常があったことを。もしかしたら、存在しない男・尼崎薩人と遭遇したことが原因なんじゃない、って。
「相馬さん、右ですっ!早く、早くっっ!」
頭では分かっている。もしここで殺されたら現実世界でどんな影響が起こってもおかしくない。その影響の中に、ゲームオーバーがあることも分かっている。
「――ここでやんなきゃ意味ないでしょ、、ここでやらねえと、恐怖は続くばかりだろうがぁぁっ!!」
「おもろいやないかっ!」
二刀流を振る音が聞こえる。恵まれた体の尼崎勝てる要素は見つからない。その上俺は両目が見えない。でもやるしかない、そう思い足を踏み出した瞬間だった。
スパーン!
足が動かないっ!何かで固定されたのか?
「相馬さん、今危なかったですよ。僕が足を固定しなかったら、首が吹っ飛んでましたからね!貸し1ですよ。」
「ありがとう、朝日くん。でもこんなことしたら、、、」
「真剣勝負に水差したんか?
......ハッハッハ、ハーッハッハー!!おもろい、お前の連れもおもろい奴やないか!」
助かった、、、のか?なら帰ろう!
「じゃあ、俺たちはもう行くからな、ここから出してくれ。」
「それはちゃうやろ。そもそもお前が俺の手紙を見てくれんかったのは、」
「おかしいですよ。」
「なら義理を通すのが道理ちゃうんか?」
頭が真っ白だ。どうすればいいんだ。何かしないといけない。
「漫才、漫才してやるよ!それでお前を笑い殺してやんよ!」
「まんざい?なんか聞いたことある気がすんな?多分知っとるわ!」
こそこそと朝日くんが喋りかけてきた。
「確か、漫才の起源って平安時代にあるらしいですよ。格好から戦国時代の人っぽいので知っててもがあってもおかしくないと思います。」
「じゃあどうすんの?!漫才って俺1個しか知らないよ、起源って言われたって分からねぇよ!」
「それでええわ!なんでもええ、俺を笑い殺してみろや!!」
「相馬さん、朝日くん!起きてください。6分ぐらい接続切れてましたよ。」
もしや今の場面移ってなかったのか?そう思うと同時に目が見えることに安心を覚えた。
「朝日くん、じゃあエンディング撮ろうか!」
そう言い放ち隣の朝日くんに目を移す。
「寝てる!?」
そう驚いた瞬間、正面から驚く声が聞こえた。
「相馬さん、朝日くんに切り傷があります!
紙で切った程度ですけど!さっきの台本で怪我したんでしょう。絆創膏貼っておきますね!」
「ちょっとだけインベントリ確認していいですか?」
確認をとりもう一度ゲームの世界に入り込む。
「やっぱり、この手紙に血がついている。それも指を切ったぐらいの量。」
現実世界に影響を及ぼす謎の男・尼崎薩人。彼は一体何なんだ?