6話 天才につき少々無能
僕は小さい頃から勉強をしてきた。人がたくさん食べれば太るように知識を蓄えていった。だからいろんな人からの賞賛を得ることができた。
「違う」
テレビに映る学者達の姿を見て感じた。僕はその人達の作った道を歩いているだけだ。確かに100mを9秒で走るのはとてつもないことだ。ただ道がなければ走ることすらできない。その道を通って覚えるだけ。そんな自分の無力さに打ちひしがれていた時だった。
「謎の男がゲーム内に?」
その男の特徴を聞いた時に僕は不思議に思った。こんなやつは聞いたことがない。だからこそ何か自分の中で惹きつけられるものがあったのだろう。
「よし、朝日くんとりあえずそこらへんにいるモンスターを狩ろうか!」
用意されたセリフを言う。それが仕事だから仕方がないのだが一度中断された俺にとっては雑魚敵ですら恐怖を感じていた。こんなに陽気に話しかけられるほど、腕に残る痛みはまだ引いていない。
「ならあのスライムを狩ろう!」
スライムなら余裕だ。そんな気持ちで大剣を振ったのだが、
「意味ないですよ。」
ダメージを喰らったはずのスライムもキョトン顔をしている。
「ダメージ入ってるけど?」
もしかしてこいつ、現実と同じだと考えてんのか?そこまで馬鹿じゃ、
「スライムって可燃ごみでしたよね?なら燃やさないといけませんよ。」
こいつただの初心者じゃねえ。黄金の初心者だ。こんなやつを起用した企業は何を考えているんだ?
「まぁいいや。エジソンがいるから話聞きに行こうよ!」
その瞬間、朝日の表情が明るくなったのがわかった。多分本人がキャラクリしたわけではないんだろう。平凡なキャラだが表情からは頭の良さが伝わる。
「僕、あなたがどうやって発明を思いついたのか知りたいんです!だってこの場所って日本モチーフですよね、日本の竹を白熱電球のフィラメントとして用いた、そこからきてるんですよねっ!」
「朝日くん、日本モチーフの場所にワニなんているかなあ...」
まあ案件動画的にはありがたいが。こんなにゲームのことを知らないやつはいない。俺の親父の方が知っている。そのせいでテレビの企画「父と一緒にゲームしよう」で撮れ高がなかったが...
そんなこんなで喋りながらモンスターを狩ったり、スキル紹介、武器紹介も済ませていった。住民とも関わらず、歴史人物にも大して会わなかった。自分でやるから関係ないが朝日くんには申し訳ないとも感じた。
少し休憩を挟むことになった。禁煙を始めて2日目。タバコを吸いたい気持ちを抑えて牛乳を飲み始める。
「相馬さん。」
朝日くんが神妙な面持ちで話し出した。
「僕があの時言った、面白くないって言葉。あれはあなたが面白い漫才を作れるから言ったんです。もし気分を悪くしたならすいませんでした。でも僕は面白いと思いません。」
現場はシーンとなった。うちのマネージャーに朝日くんの保護者さんが謝っている。
「やっぱりそうだよね!」
嬉しかった、素直にそう感じたのだ。俺の面白くないと思ったものを素直に面白くないと思ってくれる。それが快感にも思えた。俺以外はお通夜みたいなったところでゲームを再開しとうとした時だった。
「二人で話したいんです。相馬さんと。今からスタッフさん達に話してもらえます?」
朝日くんの会話が聞こえた。正直何かあるのは察していた。朝日くんみたいな有名人が俺のチャンネルに出るのは不思議を超えた不思議だった。
「じゃあ最後は、勝負だ!」
朝日くんの武器は弓。正直大剣は隙が大きく不利に感じたが相手はなんせ初心者だ。天才に勝つ芸人。そっちの方が視聴者も喜ぶだろう。そんな軽い気持ちだった。
「スタート!!!」
その瞬間朝日くんは弓を捨てた。意味がわからない。弓の方が大剣より軽い。捨てて速さ勝負で有利になったところで意味がない。
「もらったあ!」
その瞬間だった。
「少し早くなっただけで意味がない。本当にそうでしょうか?僕のキャラクリ貧相だな、って思ったでしょう。それは軽いからです。軽さこそ強さ。見てください僕の格好、もう見えないでしょうが。」
目が見えない。もしかしてこいつ、あの一瞬で俺の目を?!嘘だ、そう思った時にはもう遅かった。
「僕の勝ちです。さて、動画終わりましょうか!」
目の前が真っ黒になった。
「もう少し根性あると思っとったわ。お前に宛てた手紙全然読まんかったやないか!どうすんねん、このガキも読んでしもたで。」
この関西弁、もしや。
少年のような声がする、ということは朝日くんはこれが狙いで俺と?
「会いたかったですよ!
存在してはいけない偉人さんっ!」
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