2話 ゲーム芸人、サ終とサ開
元日本三代VRゲームの中の一つ、クラウドオペラがサービスを開始した年にソバナイトは栄光を逃した。準優勝者ながらソバナイトは比較的テレビ出演も多く、知名度もあったこともありクラウドオペラはソバナイト・相馬透をCMに起用した。漫才を諦めた彼にとってゲームが拠り所になるのは当然だった。芸能人ながらプロ並みの実力を持つと言われる彼はクラウドオペラ内で最強のグループ、シャンティールに所属していた。
「この関西弁、潰してやらぁ!」
関西弁のプレイヤーを全員潰す彼の姿はウエスタンキラーと呼ばれるほどだった。
クラウドオペラのCM出演もありたくさんのゲームをプレイすることになった相馬。そのプレイヤーネーム"ソバング"は偽物が出るほど有名だった。
「サービス終了までこの装備(3万2000円)も、この武器(12万)も全部無料で!」
台本にない言葉まで見える。
「これマジでしてるんですか。」
忙しくできていなかったが流石にそんなはずは、
「息子とのラインです。」
社員の飯田さんが見せてくれた。
「二代目ソバングって。襲名性じゃねえだろ!」
どう考えても俺と同じ装備だ。俺と同じ装備を無料で、3時間でゲットしたらしい。俺の給料を注ぎ込んだ愛する武器たちが、俺の二代目を名乗る若造に取られる屈辱はあの頃を思い出さなくもない。
「飯田さんってこれからどうするんですか。」
車で会社まで移動する最中に会話を交わす。二代目ソバングの情報を集めながら。必ず潰す。
「転職します。また新しいVRゲームなんですけど。これこれ、このCM見てください。」
「朝日昇です。この人は織田信長。僕の友達。死んでるじゃないかって?レキシアムなら偉人と会える。レキシアム・スリップ。予約受付中!」
「飯田さんって広告担当ですよね。」
後ろを見ようとしない飯田さんだったが思いついたように口を開けた。
「分かりましたCMは出せませんけどYouTubeチャンネルに案件出しますよ。後ゲームもあげます。クラオペと違って無料じゃないですから。課金ありませんから。CM代より課金することありませんから!楽しいんでやってください!」
自動運転じゃなかったら多分事故っていただろう。そのぐらい暴れていた。
「ものは試しだ。やるか!」
キャラクリに早速移行した。
「ちょんまげ、ファラオにりんごってニュートン専用だろうが!翼生えてる奴なんかいたわけねーだろ!」
確実に運営側に敵はいる。歴史に関係ないものまで混ぜる奴が。
「先輩、それはおかしいです。こんなやつ見たらゲームやめますよ。」
こいつは後輩芸人のアスナシオ。高スペックのイケメン芸人でゲームのセンスもある。俺が関西弁潰しをした時も、
「ぶぶ漬けって、お前敵だな。先輩カモーンヌ!」
なんて言って潰したこともあるなあ。今思えばとんでもないクズ集団だが。
そんなこいつだがあるところは低スペックを超えた低スペックである。それは、
「先輩、この間の一発ギャグよかったですよね?パンツの色が一緒なら、くっ付いたら消えちゃった!?全ララ全裸、って。あれ受けますよね!」
そんなわけないだろ。こいつは会食でエロ親父の前でしか営業したことないのか。
「というかこのキャラクリ、初期装備やないかい!」
そりゃそうだろ。キャラクリで最強武器身につけてるやついないだろ、なんて突っ込むのも野暮だ。
だがこのキャラがおかしいことには俺にもわかっている。ピアノ柄のシャツ、肩に兜、りんご頭のクソキモケルベロスなのだから。
「りんごって、ロビンフットもイメージできるよな.....俺って才能ねーんだぁぁ!」
「これって事務所通してるんですか?」
「あ」