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第1話 三国志の劉禅に転生

「なに? 諸葛丞相が亡くなっただと? 戦場で?」


 朕こと劉禅(りゅうぜん)は、驚きのあまり、玉座より立ち上がって報告を聞いてしまった。

 周囲の文武官も動揺しているな。だけど、動揺するなという方が、おかしい。

 この後どうしようか……。

 朕たちだけで、国を回せていけるのかな~?


「無念にも、五丈原にて亡くなられたそうです……。病死とのこと」


 伝令が、涙を流しながら報告を行う。

 費禕(ひい)蔣琬(しょうえん)が、木簡を受け取り読んでいる。

 朕は、目眩がしてしまった。

 とりあえず、座ろう。皇帝が、動揺なんかしてはいけないんだ。


――ズル


 座り損ねた。

 そして……、階段を転げ落ちる。


――ゴロゴロ、ドスン


「「「陛下~!?」」」


 日頃の運動不足と貧血が招いた惨事だな。特に食事には気をつけよう。

 それと、皇帝の椅子って階段の上に作る必要あるんかね?

 高祖劉邦? 始皇帝? その前の時代から? 無駄じゃない?

 毎日階段を登るのが、辛いんだけど……。


『体中痛いな。それと最後の顔面ダイブは、結構なダメージだった。もうちょっと、体重が軽かったら、最後の一撃もなかったのにな……』


 その後、医者に診て貰って、運んで貰う。

 そこで意識を失った。



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、なにかを思い出して来た。


「正史三国志……。三国志演義……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。





 朝起きて、確認する。


「首は痛いけど、体は問題なく動きそうなのね~」


 薄暗い部屋を出て、庭に出る。黙って、護衛がついて来てくれた。

 まだ、朝日が昇った時間なので、静かだな~。

 朝日に照らされて、自分の姿を湖で確認する。


「うん、大怪我になんなくて良かったな~。鼻血が結構出たくらいなのね~」


 体は痛いけど、動けないほどじゃない。首が心配だったけど、左右に振れるし。

 ちょっと軽率だったな。うん、運動しよう。そうしよう。

 それよりも……。


「俺……、劉禅(りゅうぜん)なんだよな。ネタで、【扶不起的阿斗】……"助けようのないアホ"って呼ばれる。ヤバくね?」


 独り言が、出てしまった。

 転生になんのかな? 頭を打って、前世の記憶が蘇った?

 でも、劉禅はないだろう……。

 いくら三国志好きでも、選ぶ奴なんてそうそういないと思う。

 そして、諸葛亮孔明しょかつりょうこうめい死亡直後ってなによ? 

 シミュレーションゲームなら……、まあ蜀漢から始めんのはありだけど。でも、シナリオの最後だぞ? 武将も少ないので、オリジナルキャラを作らないと、城の方が多くなり、統一できなかった気がする。最新作だと、改善されてんのかね?

 

 周囲を確認して、状況確認を行う。


『うん、古代中国っぽい庭だ。建物が違うし、岩が渋い。マジで転生したっぽいな……』


 人気だった、後宮モノでもないのが残念だ。(げふん、げふん)

 そして、残念な人物の残念な時代への転生か~。


「陛下……、ご無理をなさらずに、ご静養ください」


 護衛が、諫めて来た。


「うん、心配かけてごめんね~。でも、もう大丈夫よ~」


「……陛下?」


 さ~て、どうすっかな~。

 丞相の諸葛亮孔明しょかつりょうこうめいが、亡くなった直後っぽい。

 この後、内乱が起きるけど、蜀漢って四十年しか続かないんだよな。残りは……、三十年弱くらいか?

 西暦は……、234年のはずだ。俺は、三国志オタクだったから知っている。数字も並んでるしね。

 そして、この後の出来事も思い出せる。

 転生特典だな。

 他になんかないんかな? 知識だけ? チート能力とか欲しいんだけど。

 念動力とか試してみるけど、当然動かない。火も風も起きない。腕力も普通だ。


『こう……、戦国時代に転生って言ったら、漫画みたいに一人で数十人を倒せる膂力とかないんかい……』


 どうやら、残念な転生のようだ。チートなしの残念な人物への転生か~。時代も、蜀漢国は最盛期をとっくに過ぎている。これから凋落の一途だ。

 まあ俺は、皇帝ではあるんだけどね。権力のみあり……か。

 ゲンナリする。


「陛下! お目覚めでしたか。不在でしたので、探しましたぞ」


 董允(とういん)君が来た。一晩中待ってたのかな?

 でも、出入り口にいなかったから、仮眠でもとっていたんだろう。


「心配かけてゴメンね~。でも、もう大丈夫よ~」


「……陛下?」


 護衛と董允君が、視線で会話している。首を左右に振っているので、なんかが不自然なんだろうな。

 俺の中には、二人分の知識があるので、この時代の作法に沿っていないのかもしれない。

 まあ、そのうち思い出そう。


「報告をお願いね~」


「あ……、はい。諸葛丞相は、撤退の指示も出されており、楊儀(ようぎ)が総指揮を執っております。後詰めは、魏延と馬岱に任せるとあります。五丈原に展開している蜀漢軍も、被害を抑えながら撤退して来ると思われます」


 ごふっ……。


「ダメじゃん! 味方同士で殺し合う撤退戦じゃん!!」


「はえ?」


 やべぇよ。いきなり国力が削られるイベントじゃん。

 ここでの将兵の損失は、強大な魏国に対して致命傷になる。いや、なったんだ。

 国力を取り戻すのに、十年はかかるぞ。その十年で更に差が広がる。

 三国志オタクだった、俺だから知っている。兵士数というより、国民の数が、魏国とは十倍くらい違うんだよ。


 いや、待てよ……。考え方を変えよう。


「歴史を変えられるのであれば、まだ間に合うか?」


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