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2.突然の縁談(4)

 その日のうちから、王城の一角にオレリアの部屋が与えられた。


 場所がかわっても、相変わらずメーラが侍女として側にいてくれる。それだけが、オレリアにとっては心の支えとなっていた。


「オレリア様」


 目頭に涙をためて、メーラがひしっと抱きしめてきた。


「オレリア様はまだ八歳ですよ? それなのに、ハバリー国に嫁ぐだなんて……」


 メーラの言いたいことはよくわかる。八歳の娘が他国に嫁ぐのは、人質のようなものだ。いや、今回の場合は間違いなく人質である。このふざけた結婚を言い出したのがどちらからかはわからない。しかしオレリアがハバリー国に嫁ぐことで、トラゴス国はハバリー国の協力を得やすくなる。


 トラゴス国内では、いたるところで小競り合いが起こっていた。それを鎮圧するために各地に兵士が投入され、今では戦力も落ちつつあるのは、オレリアもなんとなく知っている。

 このまま戦力を落とせば、トラゴス国をよく思っていなかった諸国が、一気に戦争をしかけてくるかもしれない。


 だからトラゴス国は、ハバリー国からの援助を狙っている。特にその中でも目をつけているのが、ハバリー国の一部の戦闘部族だろう。彼らの力を借りて、国内を制圧したいにちがいない。


「オレリア様。私もついていきますからね」


 メーラの腕の中にとじこめられたオレリアは「え?」と顔をあげた。


「嫁ぎ先に侍女がついていくのも珍しくはないでしょう?」


 メーラの言うとおりである。嫁ぎ先に使用人を連れていく。それはいたって当たり前のこと、なのだが。


「だけど、ハバリー国よ? 国内の貴族に嫁ぐとは違うの。メーラだって、知らない土地に行くのは不安でしょう?」

「だからです。オレリア様にとっても知らない土地ですよね? でしたら、その不安を二人で分け合いましょう」


 メーラの言葉が嬉しかった。


「メーラはどうしてわたしに優しくするの?」

「オレリア様が、私の仕えるべき主だからです」


 それ以上、彼女は言わなかった。





 それからオレリアの生活は一変した。

 艶が出るまで髪をすかれ、かさかさになっていた唇もみずみずしくなる。荒れていた指先や、日に焼けた肌にも、たっぷりと化粧水やらなんやらを塗り込まれる。その様子をメーラはしっかりと見ていて、他の侍女から学び取ろうとする様子が見えた。


 そうこうしているうちに、オレリアがハバリー国へと向かう日がやってきた。


 太陽のような色合いのドレスは、幼いオレリアを一段と大人っぽくしあげた。それでも、背が高くなるわけでもないし、胸もお尻もいきなり育つものでもない。表情は大人びていても、体つきはどこからどう見ても子どものもの。


 そのまま豪奢な馬車に乗せられた。粗末な扱いをされるのかと思ったが、そうではないようだ。嫁入り道具を乗せた馬車も準備され、一国の王女の輿入れとして恥じるものでもなかった。


 トラゴス国の王城からハバリー国の首都サランまでは、馬車で十日ほどかかる。


 容易にトラゴス国に戻ってくることはできない。もしかしたら、二度と戻らないかもしれない。だからといって、戻りたいわけでもない。


「オレリア様、お疲れですか?」


 向かい側に座っているメーラが、静かに声をかけてきた。

 外を見ても、緑しか見えないような場所に入った。今日の明るいうちにこの森を抜け、中継点の侯爵領に入りたいところ。


「大丈夫よ」


 オレリアがそう口にするたびに、メーラは困ったように目尻を下げる。


「長い旅になりますから。あまり緊張なさりませんよう」


 そう言っているメーラからも、緊張が伝わってきた。


「メーラ、そっちにいってもいい?」

「はい」


 オレリアは場所を移動した。メーラの隣に座って、彼女の手を握る。


「メーラ。わたし、疲れちゃった。少し、眠ってもいい?」

「はい。私はここにおりますから。どうぞ、ゆっくりとお休みください」

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