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17.語られる過去(3)

「ですので、アーネストさまが気にされる必要は、まったくございません」


 ぴしゃりと言ってのけたオレリアだが、実のところ、アーネストから父親たちの最期の話を聞いたときも、まるで遠い異国の出来事のような感覚だった。本来であれば、泣いて、わめいて、アーネストを責めるのが正しい反応なのかもしれない。しかし、オレリアにはそういった感情がいっさい沸き起こらなかった。


 それを薄情だと言うのであれば、オレリアは薄情な人間でかまわない。


「アーネストさまは、そんなわたしを軽蔑されますか?」

「いや。俺がお前を軽蔑することはない。むしろ、俺が軽蔑されるべきだな」

「どうして?」


 オレリアが尋ねると、アーネストは困ったように口元を手で覆った。それでも紅茶の芳ばしいにおいが、ふんわりとアーネストの鼻を刺激する。


 ふっと席を立ったアーネストは、オレリアの隣に座り直し、その顔をまじまじと見つめる。


「俺は……お前と知らずにお前を抱いた……」

「ですが。アーネストさまは、こちらに来てから女性を抱いていなかったのでしょう?」


 オレリアがさらりと言うと、アーネストはふるふると肩を震わせる。


「な、なぜ。お前が、それを知っている!!」


 顔を真っ赤にしたアーネストは、あたふたし始めた。オレリアはくすっと笑って、先を続ける。


「ジョアンさんが教えてくださいましたので。そういった意味でも、いろいろと心配されていたようですよ?」


 アーネストは「あいつめ」とぼそりと呟く。


「あのとき、アーネストさまがわたしを抱いてくださったのは、リリーだからですか? それとも、リリーを通して誰かを見ていたからですか?」


 オレリアはアーネストを見上げた。彼は観念したかのように目を伏せてから、オレリアを抱き寄せる。


「それは……きっと、()()だったからだろうな……。あのとき、リリーに手を出しては駄目だと頭ではわかっていた。だけど、本能がお前を求めていた。あれを浮気だというのであれば、そう思ってもらってもかまわないし、怒ってもいい」


 オレリアもアーネストを騙した。そしてあのとき、アーネストはオレリアと別れたがっていた、ように見せかけていた。

 さまざまな条件が重なっての一夜。


「もし、あの場にいたのがリリーでもなく、わたしでもなく。他の女性だったとして。その方がものすごく魅力的な女性だったとしたら、どうされていました?」

「いくらあのようなときであったとしても、お前じゃない女は抱けない」


 オレリアとしてはその答えだけで十分だった。

 他人からなんと言われようが、あの一夜は互いに気持ちが通じ合っていた。少なくともオレリアはそう思っている。


「アーネストさま。一つだけ、わたしのわがままをきいてください」

「なんだ? お前のわがままぐらい、一つだけと言わず、いくつでもきいてやる」


 その言い方はデンスを思い出させるものがある。初めはオレリアに攻撃的だったデンスだが、アーネストがいなくなったとたん、ころっと手のひらを返してきて、オレリアをとことん甘やかした。


 オレリアは、ほんのりと頬に熱をためながら、言葉を続ける。


「わたし。アーネストさまとの赤ちゃんが欲しいんですけれども」


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