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17.語られる過去(1)

 トラゴス国の現国王は、前マッシマ公爵である。公爵はその爵位を息子に譲り、本人は王の座に就いた。血の分けた兄弟の争いであるが、血を分けた仲だからこそ、彼は兄の悪政に耐えられなかったのだ。


 トラゴス国では十年以上もその悪政が続いたため財政難に陥っており、当時の国王はそれを認めようとはしなかった。金がなければ集めればいい。そう言って税金をひたすらあげる。それに反発する者たちが、武器をもって立ち上がり、トラゴス国内ではいたるところで争いが起こっていた。


 そこに国軍を投入して押さえ込み、見せしめに処刑する。


 だけど、そのような争いで疲弊するのはトラゴス国軍も同じ。そこで彼らが目をつけたのがハバリー国のスワン族であった。スワン族は戦闘部族であるため、気性が荒く争いを好む者が多い。前王はそれを利用したかったようだ。

 そしてスワン族のなかには、ハバリー国の国王にミルコ族が就いたことを、よく思っていない者たちも多かった。そういったスワン族とトラゴス国の前王が手を結んだことで、トラゴス国内の情勢はより悪化した。


 ハバリー国の国境の街、ガイロはスワン族が多く住む街である。しかしスワン族も二極化し、トラゴス国からの攻撃に備えるためにハバリー国軍が投入され、他の部族たちも多く住むようになる。彼らにもハバリー国を守りたいという気持ちがあったのだろう。


 国境では小競り合いが続き、トラゴス国内でも争いが続く。特にトラゴス国内の情勢は悪くなるばかりで、王弟でもあるマッシマ公爵を新しい王に、という話もちらほらと上がり始めた。


 もともと前王が王位につくときも兄か弟かと二つの派閥に別れ、弟が手を引いた形になったのは、無駄な争いをしたくなかったからだと、一部ではささやかれている。

 しかし、争いを避けた結果がこの状況となれば、マッシマ公爵も意を決したようだ。


 そして彼が目をつけたのがハバリー国であった。

 ハバリー国には、第二王女が嫁いでいる。それにもかかわらず、スワン族と手を結んだトラゴス国は何度も兵を挙げている。そこをうまく利用できないかと考えた。

 極秘裏にマッシマ公爵はハバリー国軍のアーネストと接触し、その二つは手を結ぶ。


 トラゴス国がハバリー国に攻め入ろうとしたのが何度目となるかわからないとき、その裏でマッシマ公爵がクーデターを起こした。手薄になった王城をマッシマ公爵が占拠する。


 すぐに国王と王太子は捕らえられ、地下牢へと繋がれた。

 そんな彼らを処刑したのは、アーネストである。それはマッシマ公爵からの指示であり、ハバリー国の闘神と呼ばれる力を見せしめるため。しかし、アーネストとしては命令に従っただけである。

 王と王太子はアーネストに向かって暴言を吐いたが、彼は表情を変えずに剣を振り下ろした。 


 それでも、彼らはオレリアの父であり兄だった。いくら国のためといえども、彼女の家族を殺した事実にかわりはない。それを知ればオレリアは悲しみ、アーネストを憎むだろう。

 その事実がアーネストを苦しめ、彼女と別れる決意を促した。憎んでくれるなら、それでかまわないと。嫌われるなら、それも本望。


 どちらにしろ、彼女が二十歳になったら、手放すつもりでいたのだ。彼女のためにも。


 しかし、オレリアはアーネストが予想していたものとまったく正反対の行動をしたのである。


 十二年間かけて、お互いの距離を遠ざけようとしていたのに。離縁届をつきつけて、さっさと別れようとしたのに。彼女と違う女性を抱いて、嫌われようとしたのに。

 それでも彼女はアーネストとの距離を縮め、別れないと宣言し、好きだと言った。



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