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16.邪魔をする者(4)

 オレリアという、たった八歳の女の子を餌にして、餌に食いついたハバリー国を手に入れようとした。多民族が集まった国の土台が固められる前に、潰そうとしたのだろう。あのときはまだ、建国されて二年だった。


「いつか俺はトラゴスの王を討つことになるだろう。それにお前を巻き込みたくなかった。守れば守ろうとするほど、お前が危険に晒されるし、お前を傷つける。だから守ると言っておきながら、その約束を破り続けた」


 オレリアは力強く首を左右に振る。


「違います。わたしはずっと、あなたに守られていた。あなたはわたしを陛下たちに預けることで、そういった情報から守ってくださったのでしょう?」


 涙が滲む目でアーネストを見上げると、彼も驚いたように鉄紺の瞳を大きく開いた。


「トラゴス国が何をしてきたのか。それをわたしが知れば、悲しむと思ったのですよね。わたしを嫁がせ、わたしごとハバリー国を討つ。それ以外にも、何度もトラゴスは兵を挙げてきた。それをガイロの手前で食い止めていたのは、アーネストさま。あなたではないのですか?」


 オレリアの目尻からつつっと涙が溢れ出す。


「陛下もお義父さまも、みんな。わたしにはそういったことを教えてくださろうとはしなかった。ですが、わたしだっていつまでも子どもではありません。社交や外交の場に出れば、そういった話だって聞こえてくるのです。彼らは、共通語ではない自国の言葉で、わたしを貶めるような発言をしておりました。だから陛下やマルガレットさまはお気づきになられておりませんでしたが」


 オレリアが共通語以外にも堪能なのは、プレール侯爵夫人のおかげかもしれない。ハバリー国に嫁いでからも、他の言語の勉強はおろそかにはしなかった。とくに、ハバリー国は共通語の使えない者もいるし、他国の者も、身内と話すときは自国の言葉を使う。


「……そうか。結局、俺はお前を何からも守ってやれなかったのだな」


 アーネストはきつく唇を噛みしめる。


「違います。あなたはずっと、わたしの心を守ってくださった。あなたのその存在が、わたしを強くしてくれたのです」


 オレリアは一歩踏み出して、アーネストに抱きついた。


「アーネストさま。わたしは何度でも言います。絶対に離縁はいたしません。これからも、アーネストさまの妻でいていいですか?」


 オレリアは力強く彼を見上げる。密着した身体からは、彼の体温と鼓動を感じた。


「だが、俺は……お前の父親を殺し、兄を殺した男だ……」

「それがなんだと言うのです? わたしを殺そうとした男を、アーネストさまが討ってくださったのでしょう? 妻であるわたしを、あの者たちから守ってくださったのでしょう?」


 ひゃっと声をあげたときには、アーネストに力強く抱きしめられていた。大きな手は、オレリアの頬をやさしくなでる。


「俺の知らぬ間に、大人になったものだ。俺は、お前にずっと言えなかった。トラゴスの実情を……」

「それだって、アーネストさまがわたしを思ってくださってのこと」

「……すまなかった」


 アーネストは彼女の存在を確かめるかのようにして、顔を寄せる。


「オレリア……これからも俺の妻でいてもらえないだろうか……」


 二人は静かに唇を合わせる。風が吹き、オレリアのスカートの裾を弄んだ。

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