16.邪魔をする者(2)
「そんなちっぽけな剣で、俺たちに向かってくるとはな。俺たちも舐められたものだ」
彼らはきれいな共通語を話している。訛りのない、流ちょうな大陸共通語だ。
「お前たち……トラゴスの者か?」
「御名答」
三人がアーネストに向かってきた。アーネストも数歩前に進み、オレリアから少しだけ距離をとってから構える。
一人目が剣を振り上げた隙に、短剣で相手の脇腹を刺す。
「くっ……」
「動きが大きい」
すかさず二本目の短剣を取り出し、二人目を狙う。相手の剣先が真っ直ぐにアーネストに向かってきた。身体をひょいと横にずらし、今度は相手の大腿に短剣を突き刺す。
「いでぇ!」
「遅い」
アーネストに刺された男たちは、それぞれ脇腹と大腿をおさえてうずくまった。男が手放した長剣を奪い取る。
残るはあと一人。
アーネストの動きに、オレリアも目を奪われていた。
大きな身体をしなやかに動かし、みるみるうちに敵を倒していく。兵の訓練を見たことはあるが、こんなふうに実践を目にしたのは初めてである。地面の上には血だまりが広がっていくが、それが怖いともなんとも思わなかった。
アーネストに夢中になっていた。人の気配を感じたときには、オレリアはすでに短剣の先を向けられていた。
「クワイン将軍。残念でしたね。もう少しだったのに」
やはり、先に襲ってきた三人は囮だったのだ。
オレリアの顎下に向けて短剣をつきつけているのは、金髪の女性。オレリアはひるむことなく、しっかりとその女性を睨みつける。
「オレリア様を返してもらいます」
「プレール侯爵夫人……」
オレリアの声に、金髪の女性が身体を震わせる。
「私のことを覚えてくださって光栄です。やはり、トラゴス国にはオレリア様しかおりません。トラゴス再建のためには、オレリア様のお力が必要なのです」
彼女がこんなふうにオレリアに声をかけたことがあっただろうか。いや、一回だけあった。父王から呼び出されたとき。
いつもは乱暴に声をかけ、鞭を振り上げていた記憶しかない。
「トラゴス国にはすでに新しい王がおります」
オレリアは落ち着きを払った声でそう言った。
「何をおっしゃっているのです。今の王は偽りの王。トラゴスを本来の姿に戻すためにも、オレリア様の力が必要なのですよ」
猫なで声のプレール侯爵夫人は、虫唾が走る。
「あの男がしたように、王の首をすり替えるのです」
ゴクリとアーネストの喉元が上下する。オレリアは真っ直ぐに彼を見つめる。だけど、その彼の背後に一人の男が近づく。
「アーネスト!」
アーネストの周囲だけ、ひゅんと空気の流れが乱れる。三人目の捨て駒が、アーネストの背後に向かって剣を振り上げたのだ。彼は振り返りもせずに、手にしていた長剣を後ろに突き刺した。
醜い声が響く。