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15.初デート(6)

 店内に入ると、じゅっと肉の芳ばしいにおいが食欲を刺激する。品のいい店員に案内され、窓際の席へと座る。


「食べたいものはあるか?」


 アーネストが尋ねると、オレリアは恥ずかしそうに頬を染める。


「遠慮する必要はない。たまには、こうやって外で食べるのもいいだろう。いつもお前にはご飯を作ってもらっているし」

「……デザートを食べたいです」


 アーネストはひくりとこめかみを動かした。


「わかった。デザートも頼むが、きちんと肉も食べろ。いつも思うのだが、食べる量が少なくないか? お菓子ばかり食べていないか?」


 出会ったときから彼女は食の細い子だと思っていた。それは十二年経った今も、あまりかわっていない。だけど、焼き菓子は好きでよく食べている。そこから、なんとなくジョアンと同じ雰囲気を感じ取った。

 むしろ、ジョアンにオレリアが菓子好きであると知られてはならないような気がした。


 そんなジョアンは、オレリアとリリーが同一人物であるとは気がついていない。それだけがせめてもの救いである。


「でしたら、アーネストもきちんとお野菜を食べてくださいね」

「うっ」


 野菜は嫌いではないのだが、積極的に食べたいとは思わない。年を取るとさっぱりしたものが食べたくなると族長も言っていたが、まだアーネストはその域に達していない。


 そうやって話をしながら、二人はちょっとしたコース料理を頼むことにした。

 料理が運ばれてくるたびに、オレリアはなんの料理か、どこの料理かを熱心に聞いていた。ゆっくりと時間をかけて食事を堪能し、デザートまですっかりと食べ終えたころには、店内の客もまばらになっていた。


「他に、何か見たいところとかあるか? ドレスが欲しいとか、焼き菓子を買いたいとか」


 オレリアの反応を見ていたら、ドレスよりも焼き菓子が欲しいというのがわかった。


「これからお前の誕生日には、年の数だけ焼き菓子を贈ったほうがよさそうだな」


 冗談で言ったつもりなのに、オレリアは「楽しみです」と返してきた。つまり、二十一歳の誕生日には二十一個の焼き菓子を贈らなければならない。まだ先の話ではあるが、忘れないように、と心の中できつく誓う。


 アーネストも戦術は苦手ではないのだが、オレリアだけは読めなかった。十二年間も放置して、嫌われて別れる覚悟をしていたのに、目の前に彼女がいる。その彼女は、ありがたいことにまだアーネストを好いている。


 トラゴス国との戦いよりも、オレリアを攻略するほうが難しいのかもしれない。だからこそ、彼女から目が離せなかった。



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