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15.初デート(3)

 広場には道化師を見るために、人がちらほらと集まっていた。最前列で膝を抱えて座っているのは幼い子どもたちが多い。その後ろに子どもたちの親と思われる大人たちが立っている。


 道化師は噴水を背にして、色とりどりのボールを空に向かって投げている。


 一個、二個、三個、四個……と数が増え、次々とボールを投げて掴んで、投げて掴んでと、その動きに合わせて子どもたちの顔が上下する様子も微笑ましい。


 オレリアもこういった芸を見るのは初めてだった。だけど子どもたちを押しのけてまで見たいわけではなく、その辺りは節度をわきまえている。


「オレリア。ここのほうがよく見える」


 それでも人のいない穴場をめざとく見つけたアーネストが、オレリアの手をひいた。


「あっ」


 先ほどまで、人の頭で下半分ほどが見えていなかったが、ここからであれば道化師の全身が見える。後ろにいるアーネストは、そのままオレリアを抱き寄せるかのようにして立っていた。


「すごいですね。あんなにたくさんのボールが」


 くるくると宙を舞っているボールと一緒に、オレリアの顔も回ってしまう。

 そのボールをポーン、ポーンと高くあげ、ボール投げの芸は終わった。

 パチパチパチと拍手が鳴るなか、チャリンチャリンと小銭が投げられていく。


「アーネストさ……アーネスト。あれは何をしているのですか?」

「どれだ?」


 後ろから腰をかがめて、オレリアと目の高さを合わせたアーネストの声は、すぐ側で聞こえた。


「お金を投げています」

「投げ銭と呼ばれるものだ。あの道化師の演技がよかった、よいものを見せてもらったという、感謝の気持ちを渡しているんだ。お金以外にも、食べ物を渡す者もいる」

「だから、わたしたちはここで演技を見る前にお金を払っていないのですね?」

「そうだな。後払いみたいなものか? つまらなかったら払わない。その分、とてもいい演技であれば、それに見合った対価を払う」


 アーネストも不意に小銭を取り出し、ポーンと投げた。道化師は、金が飛んできた方向に向かって、ペコペコと頭を下げているが、頭を下げるたびに、ぽん、ぽんと手のひらに花が生まれるから、さらに小銭が投げ込まれる。


「すごいですね。魔法みたいです」

「ほら、次の演目が始まる」


 拍手と投げ銭が落ち着いたところで、道化師はおもむろに剣を取り出した。それは細くて長い剣である。これから剣術でも披露するのだろうか。


「きゃ~」


 悲鳴のような歓声があがる。


「え?」


 オレリアは驚いて振り向き、アーネストの存在を確かめる。彼の手を探り、力強く握りしめる。

 道化師は天を見ながら、その剣をするすると飲み込んでいくのだ。


「あの方、大丈夫なのですか?」


 剣を丸飲みして、怪我をしないのだろうか。


「ああ。彼はプロの道化師だからな。こうやって俺たちをヒヤヒヤさせるのが仕事だ」


 そう言われても、剣を丸飲みする人間なんて初めて見た。胸がバクバクと締め付ける思いに、オレリアも無意識のうちに身体を強張らせる。最前列の子どもたちですら、シンと静まり返り、剣が飲み込まれていく様子を見守っている。


 剣をすべて飲み込んだところで、道化師は空を見上げたまま両手を広げた。噴水がひときわ高く、ぴゅっと水を噴き上げる。


「おぉ~」

「すごぉい」


 驚きの声と拍手がまばらに聞こえ始めるが、まだ半分以上の人はあっけにとられている。

 剣を飲み込み終えた道化師は、今度はその剣を口からゆっくりと引き出していく。飲み込んだときと同じようにゆっくりと。


 すべての剣が出てきたときには、次から次へと小銭が道化師に向かって投げられた。

 オレリアも夢中で小銭を投げる。


 それからも道化師は演技を続けた。三十分ほど続いただろうか。そこですべての演技が終わった。


「すごかったです」


 アーネストの腕にひしっとしがみついて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。気持ちが浮ついて、自然と身体も跳ねてしまう。


「そうか。俺としてはお前がそうやって喜んでいる様子を見るほうが、楽しいが」


 人がさぁっといなくなっていく。青い空の下、噴水だけはかわらず水を噴き上げていた。


「では、次のところへ行こうか」


 アーネストがどこを案内してくれるのか、オレリアは楽しみで仕方なかった。



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