表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/64

13.あきらめない気持ち(1)

 オレリアが目を覚ましたときにはすでにアーネストの姿はなく、置き手紙が一枚あっただけ。


 彼からもらった二通目の手紙。いや、一通目は離縁の申し出であったため、あれは手紙に数えない。つまり、これはアーネストから届いた初めての手紙である。


 内容はオレリアではなく、リリーの身体を気遣うものと、あまり遅い時間まで食堂で働かないようにと、そういった文面であった。当たり障りのない文章であっても、アーネストの気持ちが伝わってきて、その手紙を抱きかかえてうふふと笑った。


 あの後、体液で汚れた身体をきれいにして、二人は抱き合って眠った。あれほど怖い思いをしたのに、アーネストの体温に包まれるとすんなりと眠りに落ちた。


 そして目が覚めると、彼の姿はなかった。


 夢だったのでは、と思ったけれども、彼が書き残した手紙が昨夜の出来事が現実であると突きつけた。

 喜び舞い上がっている場合ではない。アーネストはオレリアと本気で別れるつもりである。

 それを何がなんでも阻止しなければならない。


 もともとあの食堂で働くのは、一か月が限度だとダスティンが言っていた。長くなればなるほど、リリーがオレリアであると気づかれる可能性がある、と。それはアーネストだけでなく他の者にも。ダスティンが危惧していたのは、他の者に気づかれることだった。だから期限は一か月。


 その一か月もあと少しという昨日、仕事の帰りに変な男につきまとわれた。アーネストがいなかったら、どうなっていたかわからない。思い出しただけでも、背筋がゾクリとする。


 寝台から降りるとズキリと下腹部が痛んだが、その寝台の下に何かが落ちているのに気づき、それを手にする。


 勲章であった。


 アーネストが上着を乱暴に脱ぎ捨てたときに、その衝撃で落ちたのだろう。


 まずは食堂へと足を向けて、今後についてエミに相談する。もともと一か月の約束であったから、その期間内は食堂での仕事をしっかりこなしたいことを伝えた。それから、昨夜、いつも食堂に来る男に追いかけられた内容を口にしたところ、エミはオレリアを夜の担当から外した。仕事の内容も給仕から外して、料理や盛り付け、洗い物など、裏方の仕事に割り振った。


 だからあれ以降、オレリアはアーネストに会っていない。表に立っていないのだから、仕方のないこと。


 そしてきっちりと約束の期間、食堂の仕事をやり終えてから、アーネストに突撃すると決めた。


 オレリアはガイロの街に来てからというもの、マルガレットやシャトランと手紙のやりとりをして、アーネストの姿を確認できたことは報告しいていた。


 マルガレットの返事は過激で「押し倒せ」とも書いてあったが、あれを押し倒したかと問われると微妙なところである。

 とにかくアーネストの気持ちはよくわからないけれど、オレリア自身の気持ちは彼に伝えるつもりだった。


 伝えなければ絶対に後悔する。嫌われていたとしても、自分の気持ちだけは――


 黒く染めていた髪を元に戻し、明るいドレスを着てアーネストの執務室へと突撃した。

 そして、リリーとオレリアが同一人物であると伝えたのだが、アーネストは項垂れて今、隣に座っている。


「あの……アーネストさま?」


 先ほどからアーネストはうんうんと唸って、オレリアを見ようとしない。


「怒って、おりますか? その……突然、このように押しかけてしまって……」

「奥様。閣下は怒っているわけではありませんよ。照れているんです」


 オレリアとアーネストの前に、さっとお茶を出したジョアンがにこにこと微笑んでいる。


「なんでお前がここにいる。それが一番、意味不明だ」


 アーネストは顔もあげずに、ジョアンを威嚇した。


「意味不明って……僕は、久しぶりに再会したお二人に、お茶とお菓子を用意しただけですよ」

「用意が終わったら、さっさと出ていけ。そうでなければ、馬に蹴られるぞ」

「はいはい。僕はさっさと部屋を出ていきますよ。お二人の仲を引き裂きたいわけではありませんからね。奥様、ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう、ジョアンさん」


 背を向けたジョアンにオレリアが声をかけると、「あれ? 名前……」と首を傾げてから部屋を出ていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ