表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/64

12.後悔と真実(2)

「誰だ? 名前は聞いたのか?」

「えぇ……聞いたのですが、名乗らなくてですね。名前を言ったら、絶対に閣下が会ってくれないからだと、彼女は言ってました」


 彼女とジョアンが口にした時点で、客人が女性であるのはわかった。


 名前を聞いたら逃げたくなるような女性――心当たりは二人。マルガレットかシャトランだろう。アーネストはあの二人に頭があがらない。十二年間、会っていなくても、本質がかわるわけでもないので、やはり頭はあがらないままである。


 彼女たちであれば、先触れなく訪れるのもわかる。だって、知っていたらアーネストは間違いなく逃げていた。


「……わかった。通せ……」


 はぁと大きくため息をついたところで、ジョアンが目を細くして睨んできた。

 彼女たちがここに来たのは、間違いなくオレリアとのことだろう。別れる気持ちに変わりはないことを、強く言わなければならない。最悪、他に好きな女性ができたとかなんとか言って、その彼女と恋仲であると匂わせればいい。そうなると、間違いなくリリーを巻き込むだろうから、やはりリリーには会って話をしておきたかった。


 ――コンコンコンコン。


 扉を叩く音が、部屋中に響いた気がした。


「失礼します。閣下、お客様です」


 対外用の顔を作ったジョアンが、一人の女性を連れてきた。

 鮮やかな黄色のドレスをまとい、帽子を深くかぶっている。顔と髪を隠しているのは、すぐさまアーネストに素性を知られないようにとしているからだろう。


「案内、ありがとう」


 女性の明るい声で、ジョアンは黙って下がる。


(誰だ――)


 その声に聞き覚えがあるかもしれないが、それがピンとこない。

 それに、彼女から敵意は感じなかった。ジョアンがここまで連れてきた時点で彼女は敵ではないのだが――


 マルガレットでもシャトランでもない。長い時間を共に過ごした彼女たちだから、こうやって顔を隠されても雰囲気でわかる。


 彼女が帽子をとると、パサリと隠されていた髪が流れた。それは、夜明けの空を表す明るい黄色かかった赤色の曙色。


 アーネストは息を呑んだ。


「旦那さま、お会いできて光栄です――」


 スカートの裾をつまんで挨拶をした姿は、十二年前に初めて顔を合わせたときを思い出す。


「オレリア……か?」

「はい、オレリア・クワインでございます」


 アーネストはまじまじと彼女を見つめた。背は、当たり前だが高くなっている。碧眼の目はぱっちりと二重で、艶やかな唇は蠱惑的に微笑んでいた。体つきもぐっと魅力的になっており、ドレスの胸元は大きくあいてはいないものの、その豊満な胸を隠しきれていない。腰のくびれも、伸びた背筋も、おもわず目を奪われてしまうほど美しい。


 何か喋らなければならないのに、言葉が出てこない。

 二人の間に沈黙が落ちた。

 外からは兵士たちの訓練の号令が聞こえてくる。


「旦那さま?」


 呆然とオレリアを見つめるアーネストを怪訝に思ったのか、彼女はコテンと首を傾げた。


「どうされました?」

「すまない……まさかお前がここに来るとは思っていなかったから、驚いた」


 それは偽りのない本心である。まさかオレリアがガイロの街に来るとは思っていなかったし、ダスティンやデンスがそれを許すとも思えなかったのだ。それよりも先に、マルガレットやシャトランを送りつけると思っていた。


「先触れも出さずに申し訳ありません。ですが、陛下がおっしゃっていたのです。わたしがアーネストさまに会いに行くと知ったら、アーネストさまは間違いなく逃げるって」


 さすがダスティンである。アーネストのことをよくわかっている。


「今日、こちらへ来たのは、この件です」


 つかつかと彼女がアーネストの執務席に寄ってきて、バンと机の上に書面をたたき付けた。机の上の書類が、ザザーッと崩れ落ちるが、オレリアはそれを気にする様子はない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ