表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/64

3.初顔合わせ(3)

 オレリアは晩餐用のドレスに着替えた。夜空のような濃紺のドレスで落ち着いた色合いだが、袖やスカートにはフリルがたっぷりと使われていて、胸元には大きなリボンが飾り付けてある。大人と子どもの狭間のような雰囲気を醸し出していた。


 コンコンコンと遠慮がちに扉が叩かれた後、部屋に入ってきたのはアーネストだった。やはり彼は、先ほどと同様、軍服姿である。


「オレリア王女殿下。迎えにきた……」


 そう言ったアーネストは、オレリアの全身にじっくりと視線を這わせてから、目を細くする。


「思うのだが……あまり、子どもらしくないな……八歳と言っていたな?」

「え?」

「いや……ミルコ族の子どもは、もっとこう……騒がしい」

「それは、オレリア様がトラゴス国の王女だからです。いかなるときも王女としての振る舞いをと、幼い頃から教育されておりますから……」


 はっとしたメーラは口元を押さえた。


「出過ぎた真似を……申し訳ございません」

「いや、いい。ここはトラゴス国ではなくハバリー国だ。知っての通り、ハバリー国は多部族が集まってできた国。そちらの国のような複雑な人間関係を気にする必要はない。メーラ殿も思うことがあるならば、遠慮せず俺に言うがいい。もちろん、オレリア王女殿下もだ」

「……でしたら、オレリアと。そう呼んでくださいませんか? まだ正式に結婚する前ですが、王女殿下と呼ばれるのは好きではありません」


 オレリアがはっきりとした口調で言うと、「承知した」とアーネストが明るく答える。


「だったら、俺のこともアーネストと呼べ。俺も閣下と呼ばれるのは好きではない」


 アーネストは、オレリアの手をぐっと握りしめた。


「では、食堂に案内する」

「オレリア様をよろしくお願いします」

「ああ。メーラ殿には、部屋に食事を運ばせる」


 オレリアはアーネストに手を引かれて、食堂へと向かう。すれ違う者たちが、興味深そうにオレリアに視線を向けてくる。だけどアーネストが、その視線からオレリアを隠すかのようにしながら隣に立つ。


「オレリアはこの結婚をどう思っている?」

「どう、と言うのは?」

「知っての通り、俺はオレリアよりも二十歳も年上だ」

「はい」

「オレリアが望むならば、この結婚をなかったことにしてもいい」


 ズキリと胸が痛んだ。やはり、オレリアではアーネストの相手として相応しくないのだ。


「それがアーネストさまの……いえ、このハバリー国の望みですか?」

「……いや。俺たちはこの結婚を断れない。断ればどうなるか、わかっているからな。だが花嫁として差し出されたのが、オレリアのように幼い娘であれば、話は別だ」


 彼は苦しそうに言った。歩調が少しだけ遅くなる。


「わたしでは、アーネストさまの花嫁に相応しくないと?」

「……ちがう」


 彼がオレリアのことを慮っているのはひしひしと感じ取れた。だけど、この結婚が駄目になったところで、オレリアに戻る場所などない。まして、行く場所もない。


「わたしは、トラゴスの王女としてハバリー国に嫁ぐのです。その意味を、アーネストさまもおわかりかと」

「……すまなかった。今のお前に聞く話ではなかったな。だが、きっと今から同じことを問われる」

「はい……覚悟はできております。きっと陛下も、ミレイアお姉様がここに来られると思っていたのでしょうね」


 オレリアは自嘲気味に笑う。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ