表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/64

3.初顔合わせ(2)

 ラフォン城は、石造りの年代を感じさせる城であった。緑色の蔦が城を守るかのようにして絡みつき、青い尖塔は空に向かって真っ直ぐ伸びていた。天気の良い日はその青が空に溶け込んでしまうだろう。


「古い城だが、その分、造りはしっかりとしているし、中も快適で過ごしやすいはずだ」


 オレリアが案内されたのは、王城の本館と回廊でつながっている離れの館であった。


「ここが、陛下が俺たちのために整えてくれた部屋だ。だが、俺はまだ向こうで寝泊まりをする。やることが多くてな」

「……はい」


 アーネストの顔を見上げて、すぐに視線を逸らす。


 彼は、花嫁がオレリアでがっかりしているのだ。誰だって、がっかりする。何よりもオレリアはまだ子ども。


 彼のような立派な男の花嫁が、たった八歳の子どもなのだ。

 誰がどうみたって、おかしな話である。


「わたしのような者で、申し訳ありません……」


 くしゃりと、頭を大きな手がなでた。


「俺もお前には聞きたいことがたくさんある。だが今は、それを問いただすつもりはない。とにかく、ゆっくり休んでくれ……メーラ殿……」

「は、はい……」

「俺の花嫁を、よろしく頼む。俺は、本館のほうにいる。用があるなら遠慮なく来てもらってかまわない。夕食はダスティン……陛下たちと一緒にとることになるが、それは問題ないか?」

「はい……閣下のお言葉に従います」


 また、アーネストは怪訝そうに眉根を寄せてから、静かに部屋を出ていった。


 扉が閉まるのを見届けてから、オレリアは肩を大きく上下させた。


「……はぁ。緊張したわ……」

「立派でしたよ、オレリア様」


 メーラの言葉で、オレリアの気持ちもふと緩む。


「閣下はお優しい方でしたね」


 それはアーネストが大人だからだ。きっと彼は姉のミレイアが来ると思っていたのだろう。だから、花嫁の年を十八歳と言ってみたり、メーラを花嫁と勘違いしてみたり。

 オレリアが望まれていないことなど、一目瞭然だった。だけど、この結婚をないものにはできない。


「メーラ。そういえば、閣下のお年は、いくつだったかしら?」

「……そうですね。確か、今年で二十八歳になられたかと……」


 オレリアとは二十歳も年の差がある。誰が見てもふざけた結婚だ。そしてこのふざけた結婚を考えたのは、トラゴス国王に間違いないだろう。ずっとそんな思いはしていたのだが、アーネストとのやりとりで、それは確信にかわった。


 そこで、扉が叩かれた。返事をすれば、嫁入りの荷物が次から次へとやってくる。それでも、一国の王女の嫁入りのわりには荷物は少ないかもしれない。普段着る用のドレスが数着とナイトドレス、そして純白のウェディングドレス。


 あの父王のことだから、ウェディングドレスの準備さえ渋るかと思ったが、こうして与えてくれたことには感謝しかない。


『ふん。古くさいこのドレスでも持っていくがいい』


 だけどメーラは気がついたようだ。父王がオレリアに渡したドレスは、オレリアの母親が着たもの。

 もちろん、今のオレリアにサイズが合うわけがない。メーラがせっせと直してくれたから、なんとか着られるようになった。

 そしてオレリアの結婚式には、トラゴス国側の人間は誰も出席しない。


 この結婚が何を意味するのか、そこにいる者は悟るだろう。


「オレリア様、お顔にしわができておりますよ?」


 荷物の片づけを終えたメーラが、いつの間にか戻ってきていた。そして、オレリアにお茶を淹れる。


「この茶葉もこの茶葉も……一級品ばかりですよ……。思っていたよりも、ハバリー国はすごいのかもしれませんね」


 メーラが何を思ってそう言ったのか、オレリアにはさっぱりわからない。


 ただ、メーラが淹れてくれた紅茶が渋くなく、ミルクを入れなくても飲めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ