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12.小さな幸せ



 ――朝、制服姿で家を出たら、つい先日まで灰色の空だったはずが今日は晴天でとても太陽が眩しかった。

 今日は加茂井くんと話がしたくて少し早い時間に家を出て下駄箱で待った。

 人を待つのはいつぶりだろう。簡単に思い出せないほど待ち合わせや待ち伏せをしてないと気づく。

 加茂井くんが下駄箱に到着すると、私は小走りで彼の目の前に立った。



「加茂井くん、おはようございます」


「うっす」


「昨日、近所の派出所で聞いたんです。加茂井くんがフクちゃんを探してくれてるって。だから、お礼を言いたくて……」


「派出所で名前を言わなかったけど、それがどうして俺だとわかったの?」


「だって、フクちゃんが行方不明になった話は加茂井くんにしか言ってませんから」


「そっか。せっかくだから、クラスの奴にもフクちゃんを見かけたことがあるかどうか聞いてみようか?」


「……いいんですか?」


「困ってる時はお互い様だろ」



 彼はそう言うと、私の頭をポンっと叩いて校舎へ上がった。

 一方の私は、まるで赤面スイッチを押されてしまったかのように頬が赤く染まっていく。

 教室方面へ進めている背中を追っていくと、彼は話を続けた。



「矢島のことをよく知らないから少しずつ教えて。恋人になるなら少しは知っとかなきゃなぁと思って」


「何が知りたいですか? 私なら何でも答えますよ。身長? 体重? それともスリーサイズ?」


「あははっ。……お前って、ほんっと面白いな。それ、本当に聞きたいと思う?」


「……冗談ですよ。加茂井くんに少しでも笑って欲しかっただけです」


「そ? じゃあ、質問。どうして矢島はいつもヘッドホンをしてるの?」



 この質問を受けた瞬間、夢見心地な気分は一旦引き止められる。

 


「……雑音を聞きたくないからです」


「雑音って何? 先日も同じことを言ってたけど」


「私は人から陰口を言われることが多いんです。人と喋らないし、声が小さいし、自分の意見を言わないから陰キャだって言われてて。人に嫌なことをしたり、不快な思いをさせた記憶がないのに、どうしてですかね……。それが嫌でヘッドホンをして耳を塞いでるんです。ヘッドホンを装着すれば、余計なことを聞かずに済むから」



 私は暗い顔をしたまま首にぶら下げているヘッドホンを指先で触りながらそう呟いた。

 すると、彼は足を止めて言った。



「俺は別に陰キャだとは思ってないけど?」


「えっ……」


「矢島はヘッドホンをしたまま机に寝ているから、最初は一人が好きなのかなぁ〜って思ってた。確かに耳を塞いだままじゃ、他の人は近寄りがたいよね。でも、一度喋ってみたら意外に話しやすいし」


「そっ、それは……加茂井くんがこうやって喋ってくれるから」


「別に俺は普通だよ。矢島が俺のことを美化しすぎてるんじゃない?」


「そうですか? 加茂井くんは私からしたら王子様です。いつもキラキラ輝いていて、優しくて、めちゃくちゃかっこいいです!!」


「あははっ、なにそれ……」


「冗談じゃありませんよ。加茂井くんは世界で一番ステキです。だから、好きになりました」


「ばーか。推し強すぎ。でもさ、耳を塞いでてもメリットはないよ。聞く耳を持って人に意見していけば、小さな輪でも段々広がっていくし」


「でも、私には輪がないから広がらないです」



 私には友達がいないから小さな輪すらできない。

 だから、ネガティブになったままそう言い切ると、彼は正面に周って私の両手をすくい上げた。



「輪ならあるじゃん。ほら、ここに一つね」



 彼と手を繋ぎあったことによって目の前に出来た一つの輪。

 今まで輪に無縁だった私に小さな喜びが生まれた瞬間でもあった。



「あっ、ほんとだ! 輪っかが一つ出来てる」


「矢島が俺に話しかけてくれたから輪になったんだよ。そうやって他の奴とも少しずつ喋っていけば、もっと大きな輪になっていくんじゃないかな」



 加茂井くんは優しい。一人で超えられなかった悩みを簡単に解決してくれる。

 接点がない頃から優しい面は沢山見てきたけど、こうやって直接的に力になってくれる分、余計好きになる。



「そっ、そうだ! 私も加茂井くんに質問が二つほどあります」



 私は恥ずかしさをかき消すために、手を下ろしてから話題を変えた。

 このまま勢いにまかせてたら、また『好き』だと言ってしまいそうだし。

 一度『好き』のハードルが下がったら、タガが外れたように何度でも伝えたくなってしまうのは何故だろう。



「なに?」


「4ヶ月前に教室で筆箱がなくなったんですけど、見かけませんでしたか? デニム素材のものなんですけど」


「えっ、教室で? そんなのすぐ見つかりそうだけど」


「教室の隅々まで探したのに見つからないんです。実は、その筆箱の中には人に見られたくないものが入っていて……」


「なに? その人に見られたくないものって」


「……っ、ややややっぱり……なんでもありません!! 忘れて下さい」


「なんだよ。自分で言い出しといて」


「すみません……。あともう一つ。雨の日に保護した猫ちゃんはあの後どうなったんですか?」


「家で飼ってるよ。元気な子だから家中走り回ってる」


「うわぁ〜、良かった。会いたいです! 今度遊びに行ってもいいですか?」


「……そうやって俺の気を引く作戦だろ」


「そんなことありませんよ。加茂井くんって結構曲がってますね」


「矢島ほどじゃないけど? 廊下でビーズばら撒かれたときは拾うのが辛かったよ」


「ですよね。200粒くらいありました。でも、あの時はいい足止めになりました」


「次やったら怒るからな……」


「加茂井くんは怒った顔もステキです!!」


「……お前には本当に参るよ」



 私達が話に夢中になりながら教室に入ると、同じクラスの女子が噂話を始めた。

 最初はポツリポツリとした程度だったけど、次第にそれは人づてで浅く広がっていくことになる。



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