86. 童子の名の元に
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僕は……眠っていたのか?
目を閉じたまま意識を取り戻し、少し重い瞼を開くのがなんだか億劫だ。
身体が重く喉が渇き、気怠い感覚を振り払うように僕は目を開け上体を起こす。
「んっ……」
「坊……! 良かった!」
「!?」
僕が起きると昨日の七夕で助けた女神様が、抱き着いてくる。
そして再びベッドへカムバック。
辺りを見回すとそこは僕の自室だった、腕には点滴が張られている。
「あ……ぶ、じ……だ……」
喉が乾ききっているせいか、上手く言葉を発する事が出来ない……。
あれから彼女を無事に救えたんだ……。
今初めて元気そうな彼女の姿を見て心から安心できた。
無事で……良かった……。
「久しぶりに目ぇ覚めて、喉が乾いちゃってるんやね」
彼女はそう言うと人肌で温めていたミルクの入った哺乳瓶を取り出し、僕の上体を抱き上げ飲ませる。
「ふふ、美味しいねぇ♥」
「うん……」
ちゅぱちゅぱちゅぱ……。
「……てなんでやねん!!!」
思わずノリツッコミしてしまった。
目が覚めての第一声がこれとは……普通の日常に戻ってきたんだな……。
……戻って来たって、なんだ? 僕は別にどこにも行っていない。
なんだか、長い夢を見ていた気がする……。
きっとそのせいで変な感覚になっているんだろうか。
寝起きは稀によくある事だ。
「えぇやん、少しは母親らしゅうさせてやぁ」
僕が哺乳瓶から口を話すと、彼女は寂しそうにおかしな事を言い出した。
な、なんだ……もしやこれは古の文献(官能小説)で知った【赤ちゃんプレイ】というやつだろうか。
彼女にミルクを飲ませられていると、なんだか幸せなような気恥ずかしい様な感覚に陥ってしまった……。
と、おかしな感覚の余韻に浸っていると勇ましい足音が響き渡り自室へと近づいて来る。
「こーちゃん!」「煌河くん……!」
凛華姉さんと、香蓮ちゃんだ。
良かった……二人も元気そうだ。
「なっ……ツッコミの声が聞こえたと思ってきてみれば、ずるいじゃないですか!」
「そうですよ! 私もミルクを飲ませて甘やかしたかったのに!」
二人共なんてことを言うんだ。
そんな台詞を聞いてしまったら思わず妄想してしまう……。
二人からミルクを与えられるのを……。
『ふふ、ミルクさん美味しいな♥ よしよし、こーちゃんは可愛いなぁ♥』
『煌河くんは甘えん坊さんだね♥ いっぱい飲んでおっきくなろうね♥』
いかんいかん、これは麻薬の様なものだ。
この先に行ってしまったら妄想の世界に囚われ戻ってこれなくなる気がする。
僕が変な事を考えポケーと呑気な顔をしていると、2人のお姉さまは買い物袋を放り出し僕に抱き着いてくる。
そして寺子屋にいたであろう小夜が駆け足でこちらに戻ってきて、僕へと飛び付く。
相変わらず足が速いな、小夜は。
「皆、心配かけてごめんね……それと、本当にありがとう……」
「坊は、人気者やねぇ」
とにかく僕は幼い頃の約束を果たす事が出来た。
永い時を生きた女神様からしたら、僕のそれはちっぽけな十年だったかもしれないけど。
でも、なんだか……すごい長い一つの旅を終えたような……そんな感覚が僕の胸の中をいっぱいにしていた。――――――
――――――
僕は目が覚めてから、訛ってしまった身体や不完全な体調を整える為に再び数日間学園を休んでいた。
再びというのは、どうやら僕は女神様を助けてから約一週間ほど眠っていたらしい。
自分では一晩眠っていただけの様な感覚だったけど、そんなに寝ていたんだな。
あの七夕の日の任務からは、皆は無事で誰一人欠けることなくこうして平穏を過ごしている。
本当に良かった……皆生きてて、そしてちゃんと女神様も助けられた。
そして今は僕の家に来ているまころんに内在する酒呑童子の調子が悪くなり、安定した呪力を供給して調整できるように僕と契約する事になった。
今回は【式神契約】ではなく【護法童子】としての契約だ。
それも威吹鬼とセットでね。
簡単に説明すると。
【式神】は主の裁量により、本人も自由に行動できる。
【護法童子】とは神仏に遣える存在となり、決して悪事に繋がるような行動はできず式神契約より縛りが強い。
そして二人一組でないと契約する事が出来ない。
何故、式神ではなく護法童子として契約する事になったのか。
それは組織からのお達しだ。
まころんに酒呑童子が内在するなら、セットで様子を見とけと僕に指令が下ったんだって。
凛華姉さんから聞いた。
「そっか、えっちな事しちゃだめだよ! でも君なら、少しくらいなら良いよw」
「し、しないよ!」
彼女は僕をからかってきたと思ったら、先程の態度とは一変し真っ直ぐに僕に頭を下げてきた。
「彼女の為に、どうかよろしくね……」
きっと一緒に過ごす中で、まころんにとっても酒呑童子が気の置けない存在になっているのかもしれない。
そんな彼女達に報いる為、僕も誓わないとな。
「分かった。 僕も誓うよ、君達と真摯に向き合って生きて行く事を」
「なんかプロポーズみたいでドキドキしちゃったw」
可愛い返事をするまころんにいささかドキドキしながらも、僕は契約の準備を終える。
よし、準備完了だ。
「じゃあ、威吹鬼と一緒に陣に乗ってくれる? 手も繋いでね」
「あいよ! ホラ、さっさと手よこしな!」
「あ、あぁ……」
いつの間にまころんと入れ替わった酒呑童子が率先し、威吹鬼の手を握る。
彼が少し照れてるのは珍しいな、面白いものが見れた。
「ニヤけてないで、早く頼むぜ! むず痒くて仕方ねぇ……」
「はいはい……そうだ。 酒呑童子は好きな名前とかある?」
「う~ん……考えた事もないねぇ……まぁいいや! アタシに似合うのを頼むよ!」
「オッケー。 じゃ、行くよ」
僕は籠目の紋様を現わす陣の周囲へ、呪符を飛ばす。
周囲に飛ばした呪符から僕の呪力を介して籠目の紋様が金色を放ち、周囲を明るく照らす。
「神仏の名の元に、ここに新たな契約を行う」
僕は真言を続ける。
「二対の童子の名を掻き消し、汝らの心、清められ給へ」
「新たな童子よ、その身と心を以て安寧の世を志す事を誓うか?」
……。
「誓うよ」
「誓う」
「汝らの宣誓を、僕の呪力を以て承る。 ここに二人へ護法童子としての名を贈ろう」
「護法童子 風吹鬼」
「護法童子 威吹鬼」
「君達と契約し、共に安寧を目指す事を誓う。」
ぐっ……流石にこのレベル二人はきついな……。
呪力の消費量が半端じゃない。
なんだ……二人の記憶の断片が……脳裏を介して伝わってくる。――――――
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