77. 三度目の正直
ご閲覧ありがとうございます!
AIイラストはあくまでイメージとしてお楽しみください
昨日はメンテナンスで投稿できなかったので、2回分投稿します。
これは1回目となります
……。
先ほどの空間とは比べ物にならない負の念が辺りを支配している。
これが……彼女の心の奥……。
凛華姉さんもよくこんなところに一人で……。
僕には凛華姉さんから貰ったお守りが。
プレゼントしてくれた手ぬぐいがあった、それには厄除けの効果が含まれ僕に近寄ろうとする負の念を遠ざけてくれる。
稽古の跡にそのまま首にかけてきたけどこんな形で役に立つとは。
正直これがなければ意識はとっくに飲まれて、死んでいたと思う。
僕は、凛華姉さんに助けられてばかりだ……でも今回は僕も助ける事が出来た。
これで少しは、恩返し出来たろうか?
僕は生きて帰れないかもしれないけど、今ごろ家族で再開を喜んでいる筈だ、良かった……。
それにしてもすごい悪意に満ちた空間だ……。
凛華姉さんは自分の精神力と気力だけでこの暗闇を進んでたんだ、僕が弱音を吐く事なんてできない。
負の念に恐怖を感じながらも、僕は先へ進んでいく。
どこかに彼女の……女神様の魂があるはずだ。
そこまでいけばきっと……彼女の本来の心、本音に触れる事が出来るはずだ。
「こんなとこいても、無駄やけど、死にたいの?」
「分かんないや」
正直分からない、このまま生きても僕はこの世界にいらないんじゃないか。
物心ついたころから、そんな思いが頭の中をぐるぐる回る。
でも、僕にはまだ出来る事があるかもしれない。
「あんたの顔は見たない、もう帰りな」
「話はしてくれるんだ」
口ではこう言いつつもこうやって心配して話しかけてくれる。
きっとまだ彼女も理性が残っているんだ。
「ほんと頑固やなあ」
まぁ、正直帰り方も分からないんだけど……。
凛華姉さんが眠っている間、部屋を出た僕は目に入った倉庫に籠り、そこで呪力を用いて自分を霊体として肉体から抜け出す術を行使した。
そして凛華姉さんの精神世界へと入り込んだ。
彼女が憎しみの渦に飲まれる寸前に引っ張り出して、僕は入れ替わる形で女神様に囚われたしまったという訳だ。
この術はなんとなく禁術になりそうだし誰にも言ってないけど、凛華姉さんの命がかかっていたから……きっと許してくれるよね。
それと帰り方が分からない、この術を使うのは2度目。
でも1度目はたまたま帰る事が出来ただけだから……。
「ありがとう」
「どないしたの、急に」
「凛華姉さんに猶予を与えてくれて」
そう、彼女は乗っ取ろうと思えばすぐできたはずなんだ。
これほどの邪気を内包している。
子供の1人や2人きっとすぐに手籠めにできるはずだ。
でも、微かに残った彼女の理性と良心が凛華姉さんを助けてくれたんだ。
今だってそうだ。
きっと僕を好きにできるはずなのに……。
そんな事を考え怨嗟の中、歩みを進めると。
彼女の魂を発見する。
なんて神々しい魂なんだ、邪気に侵されてはいるとはいえ、本当に邪神になってしまったのか?
本当は違うんじゃないか?
「とっても綺麗だね」
「ふふ、ありがとう」
僕の安直な感想に彼女は微笑んでくれる。
どうして僕を好きにしないんだろう。
「なんで僕を今、自由にしてるの? 器にできるよね?」
「なんでやろなぁ、ただ坊といると穏やかな気持ちになるんよ……」
……なんでだろう……僕も似たような感じがする。
彼女を思うと他人とは思えない様な。
でも、少し前に会ったばかりだ、たぶん気のせいなんだと思う。
「本当は誰かに助けて欲しいんじゃないの?」
「これはもう諦めるしかない、どない凄い人たちでも無理やったんやから」
「無理じゃない、絶対何とかするよ。 助けて見せる」
……まただ。
「おもろい事言うなぁ、あんたみたいなチビに何が出来るん?」
「例えばここまで入り込んできた人なんているの? 僕なら絶対何とか出来る」
彼女はずっと……こんな暗くて寒くておぞましい場所で1人ぼっちで耐えて来たんだ。
何が何でも、必ず救い出したい。
何度失敗しようと、僕が何度死のうと。
「確かにいないなぁ、そこまで言うねやったらしゃぁないな」
「約束だよ、もう少しだけ待っててくれるかな? 絶対助けるよ」
彼女は軽く笑い、僕へと声をかける。
しかし邪気を内包したまま理性を保つのが辛いのか、どこか苦しそうでもあった。
でも……僕を安心させようとしてくれている思いやりと、その声はどこか暖かくて、僕の知らない温もりが……。
「その約束に免じて、今回は見逃そか、待ってんで……」
……。――――――
――――――
「ん……うぅん……」
「こーちゃん!!!!」
「うわ!」
僕が目を覚ますと凛華姉さんが泣きわめきながら抱き着いてきた。
彼女のこんな姿は初めて見る。
こんなに泣きわめくほど僕の事を、心配してくれたんだ……。
……僕はずっと、凛華姉さんは、仕方ないから僕に構っているのかと思っていた。
幼馴染の腐れ縁だから、家の付き合いがあるから、家が隣同士だから。
けど……そうじゃなかったんだ。
凛華姉さんは……僕を大事に想ってくれている。
今気づいたけど、それは僕も同じだ。
僕も彼女を大事に想っている、ただ護衛の家に生まれたからとかじゃなくて。
今は、彼女を一人の人間として守りたいって、強くそう思う。
「うぅ……ひっぐぅ、うぅ……」
「どうしたの? もう大丈夫だよ」
僕に抱き着いたまま、ひどく嗚咽を漏らして泣く凛華姉さんの背中をさすりながら声をかける。
こんなに泣くなんて……よっぽど心配させたのかな、ちょっと嬉しいかもしれないと思う反面申し訳ない。
「うぅ……大事な、こーちゃんが……死ぬかと思ったんだぞぉ!」
「僕も凛華姉さんの事、大事に想ってるからね」
彼女は泣きながら僕への想いを伝えてくれる。
僕もその言葉へとしっかり本心を返した。
いつか、彼女をちゃんと守ってその時は笑顔になって欲しいな。
「ごめんね、心配かけちゃって」
「うああぁぁん!! これからは私がこーちゃんを守ってやるからなぁ!!」
凛華姉さんは今までも僕を守ってくれていたけど、それは彼女が無意識的にやっていたという事だろうか。
ともかく僕もこれから頑張らないと、凛華姉さんを守れるように、さっきの約束を果たすために。
「うん、ありがとう」
「約束だぁ!」
「うん、約束」
璃々奈おばさんも凛華姉さんに釣られるように泣き、おじさんはいつの間にかいた陽景先生と何やら話している。
何はともあれ、一先ずは安心だ。
僕は……生まれて初めて大切な人を守る事が出来た。
今だけはそれで充分だ……。
――――――
「という事があったんだ。 威吹鬼と戦った時に使った術で助けられるはずだったんだだけど、彼女がまた失踪してるなんて……」
僕は皆へと事のあらましを説明し終える。
それから彼女は自ら近くの呪具へ魂として入り込み、陽景師匠にまた封印された。
そしてその一件から、僕はただの生徒の一人ではなく陽景師匠の直系の弟子となり様々な事を教わった。
「私もこの日の為に剣を磨いたからな、あの子を助けるのに敵が立ちふさがるなら私が斬る」
「煌河君が死にかけていたって話は聞いていたけど、そんな事があったんだね……」
そう、あの一件のあと僕らの魂は衰弱ししばらくは静養していた。
お守りを持っていたのは僕の方だというのに何故か凛華姉さんより僕の方がかなり衰弱し、回復に時間が掛かったのを覚えている。
おそらく女神様も邪気を抑えられなくなっていたギリギリの出来事だったのかもしれない。
「さ、そろそろ着くわよ、気を引き締めましょう」
「はい……!」
もうすぐ船が本島に着く、それからが勝負だ。
なんとか間に合うと……いや、絶対に間に合わせる!――――――
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