76. 止まない悪夢 Aパート
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如月家当主である弥彦は軽い雑務を終え、夕方の子供達の稽古を開始するため道場へ向かう。
最近は子供達もメキメキと力を付けて来てる事が楽しく、彼の足取りはどこか好きな場所へと遊びに行く少年のように軽かった。
「そろそろ、あの時期か……」
弥彦は、子供が成長していくのを見るのはやはり楽しい、と思いながらも呟いた。
しかしそれは安全な稽古から、保護管のいない危険も伴う実践的な訓練を開始する時期が近づいて来ることも意味していた。
例年の様に子供が成長する楽しさと危険な事をさせるしのびなさに、弥彦は葛藤しながらも歩いていると……。
「カァ!」
煌河の式神の小夜が弥彦の元へとやってきて呼び掛ける。
「やぁ、珍しいね」
(いつもは私のところには来ないんだが……)
「カァ!」
いつもは自分のところに来ない小夜を弥彦が不思議に思って眺めていると、小夜は懸命に。
何かを訴えるよう弥彦へと声を上げ続けた。
「カァ!」
「……何かあったのかい?」
「カァ!」
弥彦は何事かと思考を巡らすが見当もつかない。
すると、弥彦の元で修行し、子供達の面倒も見ている弟子が弥彦の元へとやってきた。
「……道場は今日も変わりないかい?」
「その事ですが、道場にお嬢の姿が見えません、どうかしたんですか?」
「!?」
弥彦は驚き小夜へ顔を向ける。
すると小夜はバタバタと、ついこの前完治したばかりの艶やかな黒羽を懸命に羽ばたかせる。
「凛華に何かあったのかい?」
娘の身に危険が迫っていることを感じた弥彦は小夜に問いかけると、小夜はついて来てといわんばかりに少し進んで振り返るのを二度ほど繰り返す。
弥彦は『案内を頼む!』と小夜に言葉を投げかけ、如月家の屋敷を裸足で飛び出した。
「無事でいてくれ……」
小夜は全力で山へと飛翔し、肉体を活性化させる術を用いた弥彦はそれについていく。
夜に近付く程に冷たさの増す空気と風と共に、胸の中に騒めく嫌な予感が弥彦の肝を冷やしていく。
ある程度進むと、弥彦はその予感が正しい事に確信を得る。
それは邪神の封印が施されている山だった。
「くっ……」
(頼む……どうか……)
弥彦は胸中の焦る想いを口から吐き出し、全力で山へと向かう。
そして山の中へ入り、険しい道を超え、進めば進むほどにむき出しの足が血にまみれていく。
しかし気にするそぶりも見せず、必死な想いで頂上を目指す。
やがて目の前に現れた神社の階段を昇りきると
「……」
「凛華……!!!!」
娘の凛華が横たわり深い眠りに堕ちていた。
弥彦はすぐさま彼女に駆け寄り、冷えた石畳の上から幼い娘を抱き上げる。
彼女の身体の周りには、見鬼を通して目視できる邪気が纏わりついていた。
「なんて事だ……」――――――
――――――
「凛華姉さん来ないな……」
……今頃怒られてお尻を真っ赤にしながら必死に耐えているんだろう。
何をしたか分からないけど、僕を疑ったから罰が当たったのかもしれない。
……僕が山に行ったことバラしてないよな?
やばい、バレてたら次は僕の番だ。
「皆! 今日の稽古は中止だよ! 片づけて帰りなさーい!」
あれ? おじさんのお弟子さんだ。
いきなり中止になるなんて……やっぱり何かあったのかな。
「中止かよー、今日こそ凛華を倒したかったのになー」
「お前じゃ無理でしょ キンタマに負けそうになってたじゃんw」
「うるせーな! あれは油断してただけだし!」
「コラ、早く片付けなさい!」
皆は最近力を付けて来て稽古が楽しいみたいだ。
僕は白兵戦が苦手だから皆と比べると力も全然伸びていないし、最近ではこんな風に馬鹿にされることも増えた。
ま、まぁいいさ……今は攻撃の術式も使えないけど呪力をもっと上手く扱えるようになれば僕だっていつかは……。
そんな事を思いながらも、大方の片付けも終え雑巾がけタイムだ。
「よし! 俺が一番だ!」
「キンタマもっとがんばれよー!」
「あ、明日には本気出すから」
「今出せよ!」
僕は雑巾がけ競争を最下位で終えた。
最下位は雑巾を全部洗うルールだ。
本来はやってはいけないが、時々おじさんや凛華姉さん、お弟子さんの目を盗んで皆で勝負している。
僕は負けたままなのが悔しいから付き合ってるけど、日が進むごとに皆との差は縮まるどころか開く一方だ……。
「水が冷たい……よし、終わった……」
僕が道場に戻ると皆はもう帰っていた。
道場の電気を消して、片付けを終えた事を報告しにおじさんの元へ向かう。
……なんだ?
屋敷の廊下を歩いていると途中にある広間の一室から、話し声が聞こえてきた。
おじさんとおばさんだ……。
「……凛華、がんばって! 私達が側にいるからね……!」
「はい、お忙しいかと思いますが、どうかよろしくお願いします。 そうですか……分かりました……」
おばさんは悲しそうだが凛華姉さんへ声をかけ一生懸命に勇気づけようとしている。
おじさんは誰かに電話しているみたいだ。
相手は陽景先生かな……。
「いえ、とんでもない、ありがとうございます。 お待ちしています」
「あなた、陽景さんはどのくらいで?」
「今いる場所が場所だけにすぐには来られないみたいだ……ただ、こっちには向かってくれている……」
中で何が起こっているんだろう……。
軽く襖を開け、覗くと……
「え……?」
「!? ……なんだ、煌河くんか」
なんだ……これ……。
僕が見た視界の先で、凛華姉さんが負の念が具現化したような瘴気の様な霧に包まれて、眠っていた。
あれは……女神様のいる山で見た……黒い気……?
「片付けは終わったみたいだね、さ、今日は帰りなさい……」
「凛華姉さん……どうしたの?」
「……あの山で……いや、今日の事は忘れなさい」
「……」
僕はおじさんの腕と脇腹の間をすり抜け眠っている凛華姉さんの元へ駆け寄る。
ぼ、僕のせいだ……。
きっとあの山で何かあったんだ……僕が姉さんに内緒で……山に通ってたから……。――――――
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