75. 恐怖
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山の中に封印された女神様と初めて会ってから、僕は何度もそこへ通っていた。
女神様は永い間封印されていて、何百年もずっと同じ場所にいるそうだ。
そして彼女の心には邪気という悪い気に蝕まれているらしい。
それを切り離さない事には、あの封印も解いてはいけないんだって。
『出たくないの?』
『ウチが出たら、皆不幸になってまうからねぇ』
こんな風に彼女自身、封印を望んでいる。
周囲に施された封印術のおかげで理性を保てているらしい。
その封印が解かれると邪気の影響で何をしでかすか分からないって言ってた。
大洪水が起きたのはやっぱり、彼女のせいじゃなく彼女を蝕んだ邪気のせいだったんだ!
なんだか少し嬉しい気持ちになり、僕は凛華姉さんと道場の雑巾がけを終える。
「今日も用事か……?」
「う、うん」
「あの山に行っているんだろう?」
「行ってないよ!」
僕は凛華姉さんに問い詰められるけどシラを切り通す。
本当は近付いちゃだめだって言われてるからバレたら……おじさんのお尻叩きの刑になってしまう!
ひえぇぇ……思わず僕は姉さんとコンビで刑を執行された過去を思い出す。
思い出しただけで尻が赤くなりそうだ。
「行ってないよ!」
「なんで二回言う」
「だって行ってないんだもん」
「分かっている、まぁ昼食を食べてからそこには行け」
「わかった!」
「……」
「行ってないけどわかった!」
セーフ。
なんとか誤魔化せたか、これでしばらくはバレないだろう。
僕は昼食を食べてからすぐに如月家の隣にある自分の家に帰り、山へと向かう準備をする。
今日は夕方の稽古もあるから、すぐに行かないと時間がなくなってしまう。
僕が家から出ると、姉さんが家の前の道で待っていた。
「まてこーちゃん、これを忘れるな」
凛華姉さんは、以前プレゼントしてくれた手ぬぐいを僕に渡す。
「ウチに忘れっぱなしだったぞ、もって帰れ」
「無くしたかと思った、ありがとう」
「お守り変わりだ」
僕は礼を言って凛華姉さんと別れた。
そして自転車を漕ぎ山へと向かう。
「カァ!」
「一緒に行こう!」
あれから麓まではこうして風を切りながら向かっている。
怪我から回復し飛べるようになった小夜も時々着いてくるようになった。
麓へ到着し階段を昇り、封印の施された大岩の前へ座る。
「今日は漫画もってきたよ! 読んであげる」
「ようきたなぁ」
小夜はおやつを与えた後どこかに行ってしまった、漫画は流石に分かんないんだろうな。
僕は水を飲みときどきおやつを食べながら漫画を音読する。
女神様ともおやつを食べたいけど、封印されているから無理だ。
見えない壁のような結界に阻まれ、一定の距離までしか近づけない。
そんな事を考えながら、僕は漫画を読み終え、女神様と談笑していた。
「さっきの漫画とやらの話、ホントだったらどうする?」
「何の話?」
「自分が生まれてくる前の人生の話」
……人には前世というものがあるらしい。
僕はあったら面白いなと思う反面、本当にあるのか?と半信半疑だ。
もちろん、全く信じてないわけじゃないけど……もしあったらすごい事だと思う。
色々な人が何回も人生を重ねて成長して生きて行くんだ。
嫌な事も辛い事もいっぱいあるのに、何回も乗り越えて……。
僕は子供だから人生の事なんてあまり分からないけど、そう思うんだ。
「すごいなって思うよ」
「そっか、ウチな、その女神様とちゃうんよ、その生まれ変わりやねぇ」
「そうなの? すごいね!」
「なにその反応、信じてないなぁ」
……信じてないわけじゃない、ただあまりの事で想像がつかないというか。
でもあったら面白いなと思う。
「まぁ坊はしゃぁないな、何時か分かるときが来るかもね」
「今日はまた稽古があるんだ、もう行くよ」
「今日もおおきに、ありがとうな」
彼女はそう言い、僕はそこを離れた。
稽古はたまにサボる時もあるけど、稽古に出ないと山にいるのがバレちゃうかもしれない。
僕は家に帰り、如月家の道場へと入っていく。
そしていつも来るはずの時間におじさんは来ないで、子供達だけで準備体操にウォーミングアップをこなしていた。
凛華姉さんもいない……何かあったのかな?
きっとお尻でも叩かれているんだろうな……そうなると山へ行っている僕もまずいのでは……?
い、今のうちに帰ろうかな……。
――――――
凛華は夕暮れの道路を自転車で進み、山の麓へと向かっていた。
背中に自分用に調整された刀を背負い、小さい鞄には霊力を増幅する呪符と刀を振るための小手が入っている。
ほんのり冷えてきた風を浴びながら山へ向かっていると、カラスの鳴き声が夕景の空へ響く。
「小夜か、ヨシヨシ 心配ないぞ」
煌河が雛鳥の時に助けた怪我をしていた小夜は、凛華も良く面倒を見ていたため懐いていた。
元気になった後は、煌河の庭にある巣を1つの寝床とし普段は街の周囲で暮らしている。
時々こうして煌河や凛華の前に遊びに来たりご飯をせがみに来ていた。
山の麓へ着いた凛華は、自分の元へ来る小夜の頭を軽く撫でる。
そしてこの先に存在する、未知への不安を薙ぎ払うよう決意し山へ登って行く。
凛華は険しい道を進みながらも今朝の事を思い返す。
煌河に嘘をつかれても彼が山に行っている事は分かっていたが、確証を得るために煌河へ渡した手ぬぐいへと居場所を特定する発信機を付けていた。
その発信機は父の部屋のタンスから勝手に拝借したものだ。
バレたら怒られるが、煌河が夢中になっている存在をどうしても知りたいという欲求を抑えられなかったのだ。
「私に嘘をつくとは……全く」
ある程度山を登った後に長い階段を見つけ、凛華はそれを昇って行く。
「はぁはぁはぁ……」
駆け足で階段を昇りきった彼女の視線の先へ現れたのは、古びた荘厳な洞とその入り口を塞ぐように在する大岩。
「まさか、本当に邪神が……」
彼女はお伽噺のような壮大な伝説はにわかには信じられなかった。
山へ立ち入り禁止だというのも、ただ単純に自然や動物が危ないからだと思っていた。
しかし目の前には、こうして大きな封印が施された祠がある。
……彼女は生唾を飲み込み、一歩一歩足を踏み出していき大岩の前へ進んでいく。
岩の前に立つと、その大きさに圧倒された。
数秒の間、凛華が立ち尽くし岩を眺めていると奥から声が聞こえてくる。
「え……? 母上……?」
「……!?」
凛華はその言葉に驚き、目を丸くした。
「だ、誰だ? 私に娘などいないぞ」
「……はははは! こないな日ぃ来るなんてねぇ!」
「……」
「怖がらんでええよぉ、封印されとるからなぁ」
封印された存在は笑った後、凛華の不安を拭うように声をかける。
相手が悪い存在じゃないと少し安心した凛華は質問を投げかけた。
「あなたは、女神様なのか? 邪神なのか?」
「どっちもやねぇ、だから早う帰りな」
「閉じ込められているのではないか?」
「自分の意思でもあるからねぇ」
……凛華は納得行かなかった。
お伽噺であんな理不尽な目にあって今なお封印されている事が。
あまりにもかわいそうだと感じた凛華は、目の前の相手へ相談する。
「私が封印を破ろう、これくらいならすぐに斬れる」
「あかんよ」
「何故だ? あなたは悪くないはずだ」
「ここ出たらぁ自分でも何するか分からないんよ」
凛華は念のため準備も万端にし、襲ってくる野生動物や妖魔を撃退するため刀を持ってきていた。
それがこんな風に役に立つとはと、刀を振るう準備をしながら機転の利いた自分を褒める。
「大丈夫だ、将来有望な瘴気払いの麒麟児に強い達人も何人かいる」
「こら、あかんよ」
その女神はもう一度釘をさすが今度はさっきとは違う。
自分の中の邪気を利用し放出する、周囲に邪気の元が漂いその場から離れ帰って欲しいという意を込め、恐怖を植え付けるように凛華を威圧する。
「あ……あなたがそこにいると……こーちゃんがいなくなってしまうんだ!」
凛華は恐怖を振り切る様に、全身全霊でしめ縄へと刀を振った。――――――
――――――
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