74. 失ったもの
ご閲覧ありがとうございます!
AIイラストはあくまでイメージとしてお楽しみください
昔々のその昔、あるところに。
大らかな優しい心を持ち、綺麗で聡明な神の使いの女性達が、天から大きい籠に乗って様々な地域に舞い降りました。
その女性達は村へ多種多様な知識や技術、豊穣をもたらし、貧しかった村は豊かになりました。
ひもじい思いをしていた子供達や、心身共に身を削るように暮らしていた大人達も健やかになり村は繁栄していきました。
女性たちによってもたらされた豊穣は苦しい思いを取り除き、厄除けの女神様として奉られていました。
村々に溢れる健やかな笑顔により安心した女神様は、役目を終えます。
天へと帰る日がやってきました。
天へと帰るため、綺麗な湖で地上の汚れを落としていた1人の女神様は禊を終えました。
そして羽衣を着ようと湖から上がります。
すると、天へと帰るために必要な羽衣がありません。
女神様の心は悲しみにより穢れました。
「これでは、私は天へ帰る事が出来ません、どうすれば良いのでしょう」
女神様は途方に暮れ、涙を流します。
そんな時、老夫婦が近づき私達の娘になればよいと言いました。
悲しんでいた女神様は、喜びました。
女神様は様々な趣向品や娯楽を、恩返しとして老夫婦に伝えました。
富を得た老夫婦は、欲望が膨らみます。
もっと豊かにしろ、酒をよこせ、女神様は頑張りました。
みんなえがおになりました。
女神様は用済みになり、村を追い出されてしまいます。
女神様の心は憎しみにより穢れました。
そのまた別の村へ女神様は拾われ歓迎されました。
女神様は様々な趣向品や娯楽を、恩返しとして村に伝えます。
女神様は頑張りました。
しかし、村人の欲望はとどまりません。
もっと豊かにしろ、酒をよこせ。
女神様は倒れて、村は衰退します。
飢餓や病により村人の心は荒み、女神様を攻めました。
女神様の心は苦しみにより穢れました。
女神様の心から涙が溢れます、嗚咽を漏らし穢れを吐き続けます。
大洪水が起こり数々の村が沈みました。
女神様は月の国からやってきた神により斬られてしまいました。
――――――
「……かわいそうだよ」
なんで斬られたんだろう、女神様は誰にも助けて貰えず一人で泣いてたんだ……。
「これは良い教訓だ、自分の欲望を律しなければ人は不幸になるという事だな」
「?」
「こーちゃんにはまだ早いか」
「煌河くんならいつか分かるさ、ともあれお昼にしようか」
僕と凛華姉さんは体術の稽古を終えた後、おじさんからお伽噺を聞いていた。
それは近くの山に封印されているという邪神のお話なんだって。
凛華姉さんがその山に近付いてはいけない理由をおじさんに尋ねて、今にいたる。
僕が強くなればその女神様も助けられるのかな。
香蓮ちゃんとスズが如月家を去って約一年、僕は少しは強くなれたのかな。
「今日は具だくさんの冷やしうどんよ~」
「ありがとう!」
「母上、いつもありがとう」
「ほら 縁側で食べなさい、今日は風が気持ち良いわよ!」
シャワーを浴びた僕と凛華姉さんは、縁側でオケに入った氷水で足を冷やしながら、うどんをすする。
風鈴の音を聞き、冷えた麺を口へと運びながら、僕はさっきのお伽噺を考えていた。
「なんで女神様の羽衣はなくなったの?」
「分からない、おおかた老夫婦が盗んだんだろう」
「そんな、なんで?」
「知らん」
……僕はなぜだか心が切なくなるのを感じた、女神様は一生懸命皆の笑顔の為に頑張ったのに。
「うどんが落ちるぞ」
「え? あぁ……落ちちゃった……」
うどんが足元の氷水へと落ちる音が、庭へ木霊する。
その音は女神様の目から落ちた大粒の涙の様な気がした。
僕は無心で氷水に落ちたうどんを箸で救って食べる。
「冷たくて美味しい!」
「っぷはははは! 何やってるんだ!」
僕は食べかけのうどんを全て足元の氷水へと放り、それを食す。
なんでか分からないけど、これで女神様の涙が少しは減るんじゃないかってそんな事を思いながら。
その後は冷やしうどんを食べ終わり、近くの公園へ赴きおじさんの道場に通う子供達で遊んでいる。
僕は公園の木に擬態し皆から隠れていた。
今は逆かくれんぼの途中で、僕以外が鬼だ。
『隠形術なんて役に立たないだろ』
『いいや、こーちゃんの隠形はもはや隠形ではないぞ、消失だ』
『へー、じゃあやってみてよ!』
『どうせなら隠れんぼにしようぜ!』
というやり取りがあり、こうなった訳だけど。
僕は2時間くらいこーしている。
おしっこおしっこ……とトイレのある公園の広場へ行くと、そこには誰もいないし喧騒一つなかった。
まさか、これは……帰りやがった!
「なんてやつらだ……」
僕は呟きながらも用を足した後に天を仰ぎ見ると、夕方になり始めているのに気付く。
そうだ! あの山へ行かないと!
僕はおじさんのお伽噺を聞いた直後から、無性にあの山へ行きたくなっていた。
少し距離があるけど大丈夫、すぐ昇って一目見て降りれば良い、そすれば暗くなる前に家に帰れると思う。
「早く行かなきゃ!」
僕は乾いた喉を水飲み場で潤した後、公園を出て山へと駆けだした。
獣道のような通りや階段を昇り、途中の広場や滝を通り過ぎ頂上へと向かう。
早く会ってみたい、いや封印されてるから会えないけど、言葉なら交わせるかもしれない!
そんな思いを胸に浮かべ僕は、切れる息をなんとか繋ぎながらも歩を進める。
すると……。
周囲から物音が聞こえてきた。
なんだ……? 何か小粒の様なものを桶で転がしているような?
「……おか……くおか」
「……」
妖怪を模した低級の妖魔だ。
僕は呪符を構え、妖魔と対峙する。
……大丈夫、ミスをすれば危ないけどこれくらいならいくらでも払ってきた。
心にひた走る緊張感を制御し、僕は目の前の相手に集中していると、突然その妖魔の周りに禍々しい気が纏わりつく。
……なんだ、これ……瘴気じゃない?
僕がその光景を眺めていると妖魔は怪しい気に溶かされ消えていった。
「消えちゃった……」
女神様が助けてくれた……?
行かなきゃ、お礼を言わなきゃ!
僕は山を昇り、荘厳な古びた祭壇に辿り着く。
石畳の上を一歩一歩進んでいく。
進んだ先は洞の入り口を塞ぐように大きい岩が置かれ、巨大なしめ縄が頑丈に巻かれている。
そしてその周囲には呪符が配置されていた。
僕が目の前に立つと、岩の奥から声が聞こえてくる。
「来てくれたんやな、どっちでもええけど子供が迷い込んでる、早う助けたって」
「……あの、女神様ですか?」
「……」
「さっき助けてくれたんだよね? ありがとう」
「あんた……ほんまぁ、気付かへんかったわぁ……」
……女神様は涙声になっている気がする。
ごめんなさい、僕が何かしたのかな……。
「ご、ごめんなさい……」
「坊は悪ないで、よう来たなぁ……おおきにな」
僕が謝ると彼女は優しい声で慰めてくれる。
ホントは、僕が慰めないといけなかったんじゃ……。
「さっきの怖くなかった?」
「あれくらいならいつも払ってるよ!」
「そっちやない、さっきのドス黒い気と似てんのをウチに感じるやろ? 怖くないの?」
「怖くないよ、助けに来たから!」
あれ……?
「ふふ、そっか」
僕は……お礼を言いにきたって言うつもりだったのに……。
間違えちゃった。
でも確かに、いつか彼女を助けられたらいいな。
「いつか助けてあげる」
「おおきにな……さ、暗なってきたで、もう帰りな」
「ほんとだ、じゃあね!」
「ありがとうね……もう来たら、あかんよ」
――――――
僕はその日初めて彼女と言葉を交わした、山を下りた後、中々帰ってこない事を心配した凛華姉さん達に怒られたんだっけ。
これが僕と彼女の出会いの始まりだった。
ご愛読ありがとうございます!
面白かったら乳首をダブルクリックするようにブックマーク、評価をお願いします
気持ち良いので




