69. 正体不明
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琥珀は白銀の巨大な妖狐へと変化し煌河を背に乗せ、小夜と共に夕暮れ時の赤焼けた空を駆ける。
今頃イベントの人々で賑わっているであろう砂浜の近くの広場へ向かい、ある事を考える。
(今日の任務の件は良いじゃろう……)
琥珀は煌河が眠るのを見届けた後、学園の生徒会室へと戻った。
それは、今日の上映祭で周囲に怪しい人物がいたと情報が入ったからである。
その対策の為、生徒会のメンバーとの会議を煌河の式神の代表として琥珀が赴いた。
『基本的には大人たちが対処に出ますが、民間人に被害を出さないため我々も見張りに加わります』
『私たちは学園の必修で一本は見ないといけないから、ローテーションね』
『まぁ妾がおる、大船に乗ったつもりでいるがよいぞ』
『この前の肝試しで魔女に捕らえられそうになったと聞きましたが』
『あれは本気じゃなかったんじゃ!』
『ふふ、頼りにしてますよ』
(今日は休ませてやるかの)
(まぁ、煌河がいない理由を皆に伝えたら怒り心頭で宥めるのが大変じゃったが……)
と生徒会での会話を思い出しながら、琥珀は人の気配が全くない雑木林へと身を下ろす。
辺りには、少し早めに起きたヒグラシの鳴き声が夕暮れの空へと木霊していた。
お祭り気分で賑わう喧騒の声が微かに届き、煌河は夕景の雑木林に感傷的な気分になりながらも2人へと感謝をする。
「心配かけたね、2人共ありがとう」
「このくらい当然じゃ」
「……私も、こーがの味方」
煌河は小夜に抱き着かれて、フワフワな和服に包まれた彼女の頭を撫でる。
『ありがとう』と煌河はもう一度お礼を言うと、ある事を思い出す。
「そうだ、お金持ってる? 上映祭見ていくでしょ?」
上映祭は無料だが、屋台で飲み食いするのにお金がかかる。
小夜はそれを見越していたが、琥珀はスイーツをよく買っていたので手持ちは持っていなかった。
琥珀なりに節度を保ち、お金がない時は煌河に時々おねだりしている。
「ないのう」
「私、ちゃんと持ってきた……!」
「小夜の方がお姉ちゃんみたいだ」
煌河は軽く笑い財布から、5000円程取り出し小夜へと渡す。
「大きいのしかないから、2人で使って」
「おぉ、太っ腹じゃのう! しかし、小夜に甘すぎないか?」
「まぁ、いいじゃないたまには、一緒に見ていく?」
「妾達はよい、たまには学生同士の時間を楽しめ」
琥珀の言葉に煌河はお礼の言葉を告げ、2人と別れた。
「さて、軽く食って周囲の見張りに行くとするか」
「了解……!」――――――
――――――
うーむ、辺りを見回したけど麗香達は見当たらない、やっぱり連絡した方が良いかな。
なんだか、LEENで連絡するのはあんなやり取りのあとじゃ少し照れくさい。
今は映画も一本終わり、人々も休憩中だ。
軽いブレークタイムで映画での感動で湧きたった心を人々が落ち着かせる中、僕も飲み物を購入し飲みながら歩き回る……。
なんだかトイレに行きたくなってきたぞ、思い返せば学校から帰ってトイレに行ってなかったよな。
僕はさっきの学園の出来事を思い出し、自分に辟易してしまう。
人の多い場所でわざわざうんこか……これじゃ、ウンコマンなわけだ、やれやれ。
列に並びほんの数分、思ったより早く自分の番がきたな……良かった。
イベントを見越してか、元々あるトイレ以外に仮設の和式トイレが外に設置されている。
僕は自分の番がきたので、その仮設の和式トイレに入りズボンを下げた途端。
「煌河、大変じゃ」
「え? ちょ」
霊体になった状態の見えない琥珀が一緒に入ってきていた。
僕は和式便所で丸尻丸出しのハルマゲドンだ。
「な、なに?」
「良い尻じゃのう、プリっとしておるわぁ!」
僕がズボンを下げた直後に声を発し、バチンと尻を叩かれその音が外にまで響く。
『うおっ びっくりしたw』
通行人の方をびっくりさせてしまった、俺様の美尻に酔いな!
「それより麗香の妹がはぐれおったみたいじゃ」
「うそ!?」
なんか肝試しの時も似たようなやり取りをしたな……。
そんな事より早く探さないと、僕はズボンを上げようと中腰になるが琥珀にうんこ座りさせられる。
プリ尻丸出しのまま。
「と思ったが大丈夫じゃ、もう見つけた! 任せろ!」
彼女はそんな僕の状況をお構いなしに扉を開ける。
バーン!と扉が開く音が響き渡り、彼女は全力でダッシュしていった。
僕が振り返ると、通行人の人々が何事かとこちらを向き僕の尻を凝視していた。
「アッーーーーーー!!!」――――――
――――――
広場から離れた人のいない裏路地の近くで、小さい女の子が黒子の覆面をした男に誘われて後を付いていく。
「ほ、ほんとにきつねのおにいちゃんいるの?」
「あぁ、心配ない、こっちだよ」
幼女は覆面を被った男が怖かったが、また『きつねのおにいちゃんにあいたい』と思い見知らぬ男の背中を追いかけ、一生懸命についていく。
黒子の男はゆっくり、しかし幼女の足には速いペースで進んでいくが路地裏へと入っていく姿を一人の女生徒が発見する。
「麗香のるーちゃん!?」
「へ? おねーちゃん?」
瑠璃が後ろを振り向くと、そこには自分の姉である麗香の写真に良く映っている女生徒がこちらへ向かってきていた。
その状況から瑠璃は黒子から手を握られそうになるが、明滅する結界が展開され激しい稲妻が流れるような音を立てながら黒子の腕は弾かれる。
「麗香!早くきて! 誰か!」
陽菜が叫ぶと、その声に応えるように黒に染まりかけた紅の空から巨大な白銀の妖狐が降り立つ。
久々に本気を出した妖狐は、そのしなやかで力強さを感じる前足を用い一瞬で黒子を仕留めた。
妖狐は、最近は相手と同じような能力、力量で戦う事を肝に銘じていたが自分の主が世話になっている友人の家族が害されそうになっている事、主が学園で嫌な思いをした事に心底腹を立てていた。
「不埒者が、図が高い」
「え……?」「おっきいきつねさん……」
「陽菜どうしたの!?」
しかしその妖狐の姿は、陽菜には見えていなかった。
麗華は陽菜に追いつき、目の前の惨状に言葉を失う。
それは巨大な妖狐が不審な人物を前足で仕留め、妹の瑠璃が尻込みしている姿があった。
麗華は震える足と緊張からくる胸の鼓動を抑え、瑠璃に駆け寄り抱きしめる。
「ほんと、バカ! ほんと……ありがとう」
「おねーちゃん……!」
瑠璃は麗香を抱きしめ返す。
麗華はそれと同時に目の前の白銀の巨大な妖狐へとお礼を良い、その妖狐は姿を変える。
それは、麗香も良く知るクラスメイトの男の子が狐の面を付けた姿であった。
「え、うそ!? ホンモノ!?」
噂になっていた狐面の現人神の姿が急に現れ、陽菜は驚嘆する声を上げた。
しかし麗香はその仮面の裏に、クラスメイトであり想い人の男の子の顔を思い浮かべていた。
(今回もきっとこーちゃんが助けてくれたんだ、一体何者なんだろう……)
そんな思いを胸に彼へと言葉を掛ける。
「あの、ありがとう、また助けてくれて……」
「問題ない、お守りはこれからも必ず持たせろ、約束だ」
彼がそう言葉を告げた瞬間、いつも通りの聞きなれた声が背後から聞こえてくる。
「おーい! 大丈夫!?」
「え……?」
その声に驚愕し麗香は振り向く、そこには目の前にいると思っていた少年が駆け寄ってくる姿があった。
彼は息を切らしながらも懸命にこちらへ走ってくる。
「またな」
背後から聞こえた狐の面をした存在へと振り向くと、彼の姿も黒子も跡形もなく消え。
そこには何もない虚空しか残っていなかった。
「はぁはぁはぁ、怪我は!?」
「うん……大丈夫だけど……」
「こーがじゃん! ひな達すごいの見ちゃった!」
「そっか、良かった……」――――――
――――――
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