67. 溜まっていた鬱憤?
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麗華とるーちゃんが手を繋いで帰って行くのを、僕は小夜と陰ながら護衛し見送った翌日。
朝の学校では隣のクラスが騒がしく過ごしていた。
「ルイくん野外上映一緒にいこーよ!」「私達といこー!」「ルイくんは皆のものでしょ!」
「ちっちっち、俺が君達と一緒に行くんじゃない、子猫ちゃん達が俺と一緒に行くんだ、俺についてきな!」
「キャーーーーー!」
何言ってんだコイツ。
僕が教室へ向かう中、通り過ぎて会話が軽く耳に入ってきた。
どうやら野外上映祭にルイがしつこく誘われているみたいだ。
ほんで、なぜ彼が先に学校に着いていたかというと。
僕は最近とある作業で少し遅くまで起きていたからギリギリまで寝ていた。
それでルイは先に学校に行っていた、という訳だ。
教室に入ると、人数は少なくクラスの3割くらいはルイ目的で隣のクラスへ遊びに行っていた。
実際に彼はカッコイイ、言動も僕の前じゃ本性というか面白い一面が出るけど、女の子の前での振舞は一級品だ。
なんだか申し訳ない、同じ男として。
皆、ウンコマンでごめん。
謝罪を胸に抱え、僕は席の周りの皆へ挨拶を飛ばす。
「おはよー」
「あ、おはよ! 昨日は……夜、何してたの?」
「き、昨日? 神社のバイトでお守りの整理を……」
「ふーん、まぁいいけどw ありがとね!」
とある作業を建前に昨日るーちゃんを助けた件を誤魔化した。
席に着く僕の肩をはたき、彼女はお礼を言ってくる。
……これは、バレてますね。
麗香は迷子のるーちゃんを助けた狐の面をした噂の現人神を、僕だと思っているかもしれない。
これ、どうしよう……これバレたら罰受ける事になるよな?
僕は師匠に罰を受ける自分を想像してしまう。
僕の背中へボンテージ姿で馬乗りになり、鞭で尻をひっぱたく師匠。
『ほらほらぁ! 気合込めて鳴くんだよ!救急如律令!』
『ひっひーん!』
『ははは! これじゃあ神の利き腕どころかニホンザルの赤尻だねぇ!』
『ゆ、ゆるしてチョンマゲ~!』
……これはこれで悪くないな。
「変態……」
「え?」
!?
隣にいるスズが毒を吐いてくる。
嘘だろ……心を読まれたのか?
「顔が変態……」
「なんだそういう事か、良かったぁ……」
どうやら僕の顔が変態だったから思わず口にしてしまったようだ。
「て誰が変態じゃい!」
「ははははw」
後ろの麗香が僕らのやり取りにけらけらと笑い声を上げ、昨日の妙な胸騒ぎが嘘のような。
そんな平和な一日の始まりを実感する。――――――
――――――
窓際で少し熱めの日差しに当たりながら、煌河は古典の授業を受ける。
教壇に立つ乙木 苺は優しい春の息吹の様な穏やかな口調で語っているが、その澄んだ声は聞き続けていると頭の奥から眠気を誘うようであった。
その声に対し、煌河は舟を漕ぐように頭を揺らし眠りに落ちる直前であった。
生徒達は心から湧いてくる眠気と戦いながらも、まるで子守歌さながらの語り口調を聞いていた。
「それで、松尾芭蕉の詠んだ俳句にはこんなのもあります」
「七夕の 逢わぬ心や 雨中天」
「これは、天の川を渡って二人が会えれば有頂天、だけど雨で会えないから雨中天だ、という意味です」
「ならば会えたならどうだったんだろう、と考えさせられますが」
「私は思うんですよ、もし2人が会えてもそれは嬉し涙で溢れた雨中天になったんじゃないかって……」
苺は語りに夢中になり、自分の世界に浸ってしまい生徒の事はそっちのけになっていた。
運命の相手を待ち続ける自分を織姫に重ね、まだ見ぬ運命の伴侶を想像し溜息を漏らす。
「そう考えると面白おかしく詠んだとされるこの俳句にもロマンを感じますよねぇ、はぁ……」
そんな感嘆の吐息を漏らすいちごに対して、とある女生徒が質問する。
「七夕でいちごちゃんは何お願いするー?」
「もちろん運命の相手です! いや、健康ですかね運命の相手の健康!」
「誤魔化さなくていいって! はははw」
「先生ほど恋多き女性になると、見極めるのが大変という意味です!」
自分の世界に入ってしまい、生徒の不意打ちに素の回答を出してしまういちごであったがすぐに大人の女性の余裕を見せるように取り繕う。
そんな中でとある女生徒が、眠っているのを見つけターゲットを反らそうと画策する。
「荒木さん起きて~、あと少し頑張りましょう」
生徒の側へと歩み、いちごは彼女の身体を揺さぶる。
これで会話は反らせるだろう。
恋愛経験皆無の大人だとバレるのはごめんだ、と思いながらもいちごは話を切り変えた事に一安心する。
「ん、いちごちゃん……ごめーん」
「あと15分で終わりですからね」
しかし、目を覚ました荒木は先に眠っていた男子生徒がまだ健やかに眠っていることに気付く。
それに少し理不尽を感じた彼女は反論の声を上げた。
「せんせー、こーがくんがまだ寝てまーす」
いちごは煌河が、神社で発売するお守りへ魔除けや結界の力を込めている事を知っていた。
その作業は夜中まで続き、最近の学園生活では眠気と戦っていると。
先日行われた会議で今まで張られていた結界の代替案として、効力を持ったお守りを多くの人に渡らせようと彼は提案した。
しかし、付与術師の数は多くはなく煌河にも大きな負担が掛かっていたのだ。
だからいちごは、彼が居眠りしていることはつい見て見ぬフリをしてしまった。
「え? あ、ホントだ、ほら!起きなさい!ダメですよ!」
その事を誤魔化すように、いちごは心の中で謝りつつも強めに煌河を起こす。
先程とは違い、今度は煌河を責め立て起こすような雰囲気を生徒たちは感じ、少し教室の空気が悪くなってしまう。
「うぇ……? あ、すみません」
「……こんなんじゃなくてルイくんだったら良かったのになー」
隣のクラスに転校してきた美少年のルイが、自分たちのクラスではない事に不満があったとある生徒はつい毒気のある言葉を呟いてしまう。
そして、面白半分なのか本音なのか不明瞭ではあるが、すぐに賛同する声が上がり始めた。
そのメンバーは大方、朝に隣のクラスに遊びに行っていたメンバーであった。
「たしかにw」「ルイくんなら全然アリだったのに!」「ウンコマンじゃぁねw」
「涼音にも変態て言われてるし~」「なんか情けないしね!」「しかもキンタマだってww」
「そもそもスタリオンてなんなん?w」
「ちょ、ちょっと皆! 授業中ですよ!」
「いちごちゃんも攻めるように起こしたじゃんw」
「それは……違くて……」
「……」
女生徒達は好き放題、煌河を罵り始め意地の悪い様な笑い声も上がる。
それに対し、煌河は自分の過去と同じような状況が思い起され、顔を俯かせ身体と唇が震え涙を噛みころしていた。
彼女らが本気だろうがそうでなかろうが、この状況は彼の心の古傷を抉るのに充分なものだった。
「ちょっと! いい加減にしてよ! こーちゃんだって大変なんだから!」
「そーだよ! ひなもこーがに助けて貰ったし!」
震える彼の背中を見て、煌河を弄る声がしばらく止まない事に対し腹を立てた麗香は陽菜と声を大にし皆を止める。
麗華は煌河が噂の現人神だろうと勘ぐっていて、きっと知らないところでたくさんの人を助けている事を思い発した言葉ではあった。
今朝言ってたお守りの整理だってきっとそうだと。
そして、スタリオンとしていきなり連れ去られ、この島で暮らす事を命じられていた事。
しかしそれらを抜きにしても、自分の想い人である男の子がこんな風に言われた事を黙ってられなかった。
そんな事を思いつつも麗香は煌河を庇った。
「なに大変てw 麗華達お気に入りだからってずっと一緒にいるし、お節介焼すぎなんじゃないの?」
「はぁ? お節介じゃなくてお礼してるんだけど?」
人一倍人との対立を嫌う千冬も煌河を馬鹿にしすぎだと感じ、麗華の背後から援護する。
「そ、そーだそーだ!」
「しかも助けて貰ったって大した事してないじゃん」
「イカれたちんぴらに絡まれた事ないの? ひなはあるんですけど?」
「そーだ!そーだ!」
先ほどまでの穏やかな空気が嘘のようにやかましくなり、教室に罵り合い煽り合うような声が飛び交う。
「てやんでぃ!いっちょ腕相も「黙れ!!!!!」
口論する声が飛び交う中、酒呑童子に入れ替わった百鬼 真心が腕相撲で決着を付けようと、声を発したところ。
涼音がドンという音を響かせ机を思い切り叩き、怒号を発する。
普段の彼女からは考えられない程の大音量で荒ぶった声により、教室が静まり返る。
ピタりと時が止まったように静寂が教室を包んだ数秒後、涼音の声が届いたのか隣の教室で授業中であった先生が入ってくる。
「だ、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい、口喧嘩が起きてしまって、もう大丈夫です」
隣の教室の先生は、ホッと胸を撫でおろし戻って行った。
苺は涙目になりながらも、どうオチをつけたものかと沈黙が支配する教室で数秒間考え込む。
その時間は彼女には、どんな怖い上司や先輩の説教よりも長く感じられた。――――――
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