61. ささやかな願い事
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凛華姉さんと学校へ着いて別れた僕は、自分のクラスへと足を運ぶ。
さて、二日ぶりの学校だが……。
だ、大丈夫だよな?
あのトイレの周りが妙に臭いとか噂になってないよな?
なんせ徹夜で掃除したからな、最後に守り神の琥珀様直々に除菌と洗浄の術を施して貰った。
僕も……それ使えばよかったよな……。
まぁ、僕が使っているのは女子トイレではなく来客用のトイレだ。
周りに通る人もほぼいないし、来客もほぼないから大丈夫なはずだ……。
僕は不安と緊張がハチャメチャに押し寄せるあまり、心臓の鼓動をかき鳴らしながらも教室のドアを開ける。
泣いてる場合じゃない、いつかこの経験が僕をすげえやつにするんだ。
ドッドッドッドッ、キングエンジン発令中。
今ならどんな敵が来ても威圧するだけで相手が逃げいていく、決してウンコのせいじゃない。
「きょ~もいいあさだー」
僕は平静を装い、しぜーんに席へと着く。
教室の皆といつものように軽く挨拶を交わし、平常運転な日常を確認。
システム、オールグリーン。
「なんか臭くない?」
!?!?
やばい、制服にも残り香が付いていたか!?
洗ったから臭いもしないはずだったのに!
「あ、ごめーん、強い香水ちょっとこぼしちゃった!」
「よかった……」
僕は同様のあまり独り言を呟いてしまう。
いつもは心の中で呟く様な場面だけど、我ながら内心、緊張が張り詰めているな。
僕が安堵していると麗香が話しかけてくる。
「何がよかったの……?」
「い、いやぁ、4人共元気そうだし、昨日僕休んじゃったから」
僕は二日前の肝試しで麗香、陽菜、千冬、涼音に被害が無かったことに安心したと麗香へと答える。
あの後、皆は無事に家に帰った事は連絡がきて確認しているけど、怪異とか関係なしにたった今ちゃんと自分の目で無事を確かめたという意味ではおかしくないはずだ。
でも麗香はまた怖い思いをしたろうな……もっとちゃんと警戒しておくべきだった。
この島にきてから、なんだか反省ばかりだ。
「ふーん」
「やっぱり迷信だったね」
肝試しが迷信だったことを指摘し、窓からの日を浴びながら優雅に鞄からお茶を出して、一息つく。
大丈夫だよな? バレてないバレてない。
「結局何もなかったなー、あ、でもアレックス様の本心が知れて良かったかも!」
「え? 香蓮ちゃんがどうかしたの?」
「あ! なんでもないし!乙女の秘密!」
陽菜は香蓮ちゃんの秘密を知ってしまったらしい。
なんだか気になるな……。
まぁ香蓮ちゃんだって愛らしい乙女の端くれ、どころか本来は生粋の乙女だ。
僕だって肝試しで秘密が増えたくらいだ。
彼女にだって秘密の1つや2つあるだろう。
さて、僕の懸念や不安は爽やかに打ち払われて平穏な学園生活が再び送られていく。
選択授業の音楽、歌の部では基礎連も終えたので、僕はまたスズとカラオケBOXにいる。
他の子達ともこれまで何度か一緒にカラオケをした。
しかし今日はスズに呼び出されてしまった。
何か用があるんだろうか。
「……千冬が何か聞きたいんだって」
「へー、なんだろ、教室じゃ聞きづらいのかな」
「……」
や、やばい……とうとうバレたか?
僕は不安になり、ネオウンコマンになる覚悟を決める。
空中に十字を切り、神へ懺悔する。
おぉ、神よ、神聖なる学び舎へ汚物を撒き散らしてしまった事、ここに反省と共に懺悔します。
「……」
スズは何やってんだこいつという眼差しで僕を見つめる。
ちなみに僕はキリスト教徒じゃない。
「お待たせー」
千冬が、カラオケBOXに入ってくる。
彼女達も音楽を受けていて、僕とスズは歌の部だが、麗香はドラム、千冬はベース、陽菜はギターと別れている。
それで自由練習の時間は、実質自由時間みたいになっているのでカラオケに混ざったりスタジオが取れればバンドで曲を練習したりと様々な過ごし方が出来る。
「麗香は陽菜が見張ってくれててさー、率直に聞くけど……」
とうとうきたか。
さらば僕の平穏な学園生活。
これからは肝試しの化け物と並び、妖怪脱糞小僧として語り継がれていくだろう。
新たな伝説の幕開けだ。
「麗香と喧嘩でもした……?」
セェェェフ。
僕は妖怪として生きていかなくても平気みたいだ。
それより、喧嘩とはなんだ?
僕はいつも通り、彼女達と接しているつもりだけど、何かしでかしてしまったんだろうか?
「いや、身に覚えはないけど……何かしちゃったかな」
「そっかー、何かぎこちない感じがしたからさー、力になれればって思ったんだけど」
僕を呼び出した当たり、話の内容はスズも聞いていたんだろう。
スズは千冬へと質問を返す。
「……麗香は何て言ってた?」
「麗香も何でもないよーて」
僕はスズと顔を見合わせてしまう。
お互い直感的に思ったようだ、ただの思い過ごしだと願うが……。
肝試しの日、僕は麗香と島で噂されている現人神の姿で遭遇した。
きっとあの日、麗香は僕の正体に感付いたのかもしれない……。――――――
――――――
放課後、結局、麗香はいつも通りサバサバした雰囲気で僕と話してくれた。
そして『いつもありがと!』と背中を叩かれ弁当を渡された。
それは『こっちのセリフだよ』いつも麗香にはホントに頭が上がらない。
正体がバレてはいないかと思ったけど彼女の事だ、たぶん空気を呼んで気付いていないフリをしてる可能性もある。
それに怖い思いをして元気がなかったのかもしれない、百鬼夜行に続き肝試しでも襲われたし……。
近い内に彼女を元気付けてあげたいな……。
そんな事を考えながら、僕は生徒会室で現人神の噂を調べていた。
今日は臨時の結界を張る予定でメンバーは百鬼夜行の時と同じだ。
……集合時間まで暇だから、こうして一人でくつろいでいるけど……。
とある掲示板で現人神については、様々な憶測が飛び交っている。
島の守り神様だとか、秘密結社の青年、少年だ、人を守る妖怪だとか。
この辺はまぁ良いだろう。
ひどいのは、中2病のコスプレ野郎だとか、変態のスタリオンが島を縄張りにしているとか、ただの脱糞小僧じゃ!とか言われている。
……琥珀、帰ったらけつなあな確定な、月に変わってオシオキよ。
まぁ、実際はモフモフの刑辺りで勘弁してやるか。
としょうもない事を思っていると生徒会室の扉が開く。
「む、君だけか?」
「はい、今は」
威吹鬼ほどではないが、かなり体格の良いダンディなおじさんが入ってきた。
誰かの知り合いだろうか?
生徒会のメンバーに縁のある人かな。
「そうか莉々菜殿にここで待つよう言われたんだが……全く、それよりここのトイレはおかしな臭いがするな、君は何か知らないかね」
「ひぇ? い、いえ! 何人たりとも知りません!」
!?
完全に油断していた、今更になって僕の秘密がバレるというのか。
こんなプレイボォォール!とか言いながらシャツを破きそうなおじさんに。
「そうか、トイレは清潔であるべきだ、そうは思わないか? それによって格式が表されるといもの、女性達が多く在籍するならなおさらな、やはり蝶は綺麗な場所で花を摘むものだ」
それよりなんだろう、トイレに強いこだわりがあるのかな。
あ、後で一応通報しておくか、何か変態っぽいし。
「……そういえば貴様、学園にいる男児という事は夜兎 煌河助月守てゃぇ、たゃえ、て、天道だな?」
「違います」
「なに!?」
「違います」
「そうか、あんな野蛮人と間違えるなどすまない事をしたな」
なんだァ?てめぇ……。
いきなり人を野蛮人扱いするとは、別人のフリして良かった、絶対めんどくさい人だと脳内センサーが警鐘を鳴らしている。
僕は失敬な男の前で、手刀でビンを切り裂く、脳内で。
愚地独歩、です。
「実は、学園にはもう1人男子がいるんですよ」
「そうなのか」
「すみませんが、僕は用事があるのでこれで」
「またな」
いや、永遠にさよならしたいが。
なんでまた会う気でいるんだこの人。
トイレに付いていきなり熱く語り出し、人を野蛮人呼ばわりする、中身が伴っていないデューク渡部だ(テニスの王子様のキャラ)。
次会ったら多分、僕が夜兎 煌河助月守天道だってバレてるだろうからデュークホームランでぶっ飛ばされる。
「で、では失礼します」
僕はそそくさと部屋を後にして、理事長室へと向かう。
そこへ到着すると時間には少し早いが、朱鳥先輩がいた。
他のメンバーはまだ来ていないけど……ここは早く出発するべきだ。
またあの人と鉢合わせるかもしれないからな。
「ちょうど、生徒会室に行こうと思ってたのよ」
う~ん、いつも通り朱鳥先輩は優雅で綺麗だ、邪悪な変態を見た後の目の保養、完了。
「じゃぁ丁度良かったですね、出発しましょう」
「他のメンバーは先に準備してるから、よろしく頼むわね」
璃々奈さんに見送られて、島へ結界を張るため朱鳥先輩と学園を出て海沿いの道を歩く。
思えば朱鳥先輩と2人きりって珍しいんだよな、百鬼夜行の時に護衛して貰った時は小夜もいたから……たぶん初めてだ。
「すみません、もしかして集合時間、間違えてました?」
僕は集合場所に自分が最後に着き、渚先生や苺ちゃんが先に準備しているのを知り肩身が狭くなってしまう。
「いいえ、あなたはそれでいいのよ、この前のお礼なんだって」
百鬼夜行の時の働きぶりや、肝試しで僕らが先生方の変わりに任務へ赴いた結果、僕は便宜上は体調を崩したという事にし学校を休んだ。
それが申し訳ないということで、結界術の学習も兼ねて先に僕の分の準備を終わらせてくれた。
と朱鳥先輩は、説明してくれた
すみません……脱糞ショックで学校休んだだけなんです……。
「そういえば、さっき男の人に会わなかった?」
「い、いえ! 会ってません!」
「ふふ、そういう事にしといてあげる」
一言の会話で全てを察し、朱鳥先輩は軽く笑ってくれる。
なんだか掌の上で転がされている感じが良い……。
と、考えていると、少し真面目な雰囲気で朱鳥先輩は再び口を開き話始める。
「あの……私がこの前あなたの血を吸った事だけれど」
「私の一族では、初めて異性の血を吸ったら……その……」
「……相手の伴侶になるという掟があるの」
「えぇっ!?」
「い、今はそれほど重要視されていないの! ただ私の兄さんが頭が固くて」
……なるほど、さっきの男性は朱鳥先輩のお兄さんで、朱鳥先輩が僕の血を吸った事が伝わったんだろう。
『それで僕を目の敵にしていると』そういう事か。
「そういう事、あの時は我慢できなくて吸ったけれど……私は、あなたとなら構わないかなって思ったのも本当よ」
「へっ?」
「さっきも言った通りよ、深い意味はないわ」
そ、そうだよな。
優雅で綺麗な朱鳥先輩のいつもと違う一面を感じた気がして、なんだかドキッとしてしまったけど。
ただ、『朱鳥先輩になら僕も血を吸われても良いかなって』思ってる。
きっと朱鳥先輩は優しいからあまり言い出せないだろうけど、それで彼女の吸血衝動の苦しみが和らぐなら僕も構わない。
「なんか、凛華達の気持ちが分かった気がする……」
「?」
朱鳥先輩は小声で何か呟いたけど、さざ波の音を木霊させる爽やかな風が彼女の髪を凪いでいた。
その音に彼女の呟きはかき消され、蒼い空へ融けていった。
「兄さんには気を付けてね、私も注意するから」――――――
――――――
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