56. 真夜中の邂逅
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静まり返り微かな街灯が照らす穏やかな夜闇に抱かれた夜の学園から、唐突にピアノの豊かな音色が響き渡る。
待機していたB班の一同は一瞬だけ心臓が跳ね上がるが、すぐに先に行ったグループの誰かだろうと気付き胸を撫でおろした。
軽快でいて慎重に奏でていく曲に百鬼 真心は呟き椿 麗華は返事を返す。
「綺麗な音色だね……」
「ホント、誰が弾いてるんだろ」
自分たちが出発する時間が近づいてきたころに鳴り響いたピアノに、一同は耳を澄ませていた。
肝試しだというのに緊張感の一切ない状況だが、夜中の学園に響く乙女の心の声のようなピアノの音色にB班の一同は心がときめく様なロマンスを感じていた。
「あ、皆いるよ! おーい!」
コミカルに崩れいくピアノの声を最後に演奏も終わり、陽菜が上の階からB班へと声を掛ける。
音楽室は凛華達が待機していた、斜め上の3階に存在する。
そこの窓から陽菜が顔を出し、はつらつな声を響かせ大きく手を振っていた。
「陽菜ー! ピアノ誰ー?」
「アレックス様! 上手でしょ!」
と、何故か陽菜が得意気な顔をする。
そして2人のやり取りの後に『そろそろ行くか』と凛華が皆へと声を掛ける。
陽菜が学園に入る一同を眺めながらも夜風を感じていると、B班が待機していた方向を見つめ目の片隅で何かが移動しているのが見えた。
「皆!……え?……あれ?」
陽菜は瞬時にそちらの方へ向くが、顔を向けた時にはそこにはもう何も残っていなかった。
暗くて良く見えないから気のせいだったのだろうと、陽菜は落胆する。
「なーんだ……」
「陽菜ちゃん、そろそろ行きましょ」
「はーい」――――――
――――――
B班 凛華、真心、涼音、麗香
一同は凛華から先程開いた窓を潜り、学園へと侵入する。
『こっち側の1階と2階は粗方見たけど、今のところ何もないわ』
「了解した」
無線で朱鳥からの報告を受け、凛華は小声で返事を返した。
「夜の学園て初めて! なんだかドキドキだね」
「アタシも!……動物の時の事件以外だとそうかも……」
涼音、真心と入り、最後に麗香が入り終える。
麗華は真心の発した言葉へと同意するが、島で外出禁止令が敷かれた時の事を思い出す。
そして麗香は考える。
『もし……学園に化物かなんかがホントにいたら、あの人にまた会えるかな……』
もしあの人が実在し、また会えたらお礼を言いたい、そしてその存在を確かめて見たかった。
本当に神様なのか……それとも……。
麗華はそんな思いを巡らせ、凛華は皆へ声を掛ける。
「よし、では私たちはA班と逆方向へ行くとしようか」
先頭を歩く凛華の電灯を頼りに一同は歩を進め、教室を確認していく。
「何もないな……」
「うん……」
そこそこの会話をした後、誰も言葉を発さず数分の沈黙が続く。
学園内に虫の声や道路の喧騒も無く、ただあるのは電灯の灯と夜の闇、廊下に響く一同の足音だけだった。
不気味な夜の学園特有の雰囲気が、彼女達の空気を支配する頃。
「ワアァァー!」
「キャアッ!」「なに!?」「何事だ!?」
「はははw嘘だよー! なんもないよwww」
「……」
真心は一同を驚かせ『なーんだー!』と麗香と大笑いする。
「よしてくれ……心臓が弾けるかと思ったぞ」
「ごめんなさい! 凛華先輩!」
凛華は真心に注意を促しながらも、酒呑童子に真心が憑りつかれた時の事を思い出した。
そして心の中で楽しそうな真心に対し『……良かった、元気になって』と呟いた。
「それより、まころん聞いた?w」
「聞いた聞いた!」
「……」
2人が喜んで言葉を交わす中、涼音は沈黙を貫く。
「キャアッ!だってwww」
「ナハハハ! いつもは澄ましてる嬢ちゃんがド偉い顔だったねぇwww」
「見たかったなーwどんなんだったの?w」
「こーんな顔!」
「「はははははwww」」
いつの間にか真心と入れ替わった酒呑童子が驚いた涼音の顔真似をし、さっきとは違う2人の大笑いが周囲へ響く。
そんな2人だか3人へ少し腹を立て、麗香と並んで歩いていた涼音は早歩きで先へ進む。
そして表情を歪め少し恥ずかしそうな顔をしながら油断していた自分を胸中で戒める。
『クッ……不覚……!』
そして涼音は次の部屋の扉の前へ立ちドアを開け凛華が呟く。
「演劇部か……」
凛華は妙な違和感を感じるが、とりあえず目の前の調査を優先し動きながら考える。
「散らかってるなぁ」
辺りを見回すと衣装や小物が、そこそこ散らばっている。
やれやれ、と凛華は散らばっている道具を片付け、頭の片隅で引っかかっている違和感を何とか引き出そうとする。
涼音も片づけを手伝っていると、チョンと後ろから肩を叩かれる。
「うらめしや~」
パティーグッズで良く見かける、黒い頭巾を被った骸骨のマスクを付けて真心が再び涼音を驚かそうとするが。
「ふん……」
「あいったぁ!」
真心は鼻っ柱に軽くチョップを貰ってしまった。
鼻をさすりながらも涙目になる真心は、抗議の声を上げる。
「なにするのさー!」
「お返し」
涼音は少しスッキリとした表情で、片付けを再開しながら演劇部の衣装の物色をする。
様々な衣装を目にし『こんなのあるんだ……』と内心興味を惹かれていた。――――――
――――――
「……あれ?」
目の前でB班の皆が演劇部の部室へと入っていく中で、麗香は視界の端で何かが動いているのを捕えた。
しかしその方角へ顔を向けるもそこには何もない、ただ廊下の曲がり角があるだけであった。
「……」
麗華は見間違いだろうと思いつつ、その廊下の角へと向かう。
『また皆を移動させるのも悪いし……すぐ見て戻れば良いよね』なんて軽く考えながら、足を進める。
麗華は自分の胸の鼓動が早くなって行くのを感じつつも、その胸中には微かな期待を含んでいた。
この学園で本当に何かあったら、それは彼女があの日見たものは夢ではない可能性が高いからだ。
あの助けてくれた人も本当に存在し、自分の知らぬ未知の世界があるのだろうか。
そんな気持ちで麗香は足の動きを早くしていく。
廊下の曲がり角へと付き、真っ直ぐその方角を見据えると。
「あれって……」
麗香は直線の続く廊下の奥で、また何かが動いている様な気がした。
それはこちらの様子を伺い、待っているようにも見えた……。
今度は階段を昇って行くそれを、追うか引き返すか。
麗華は数秒頭を巡らして考える。
「大丈夫だよね……見たって言う人は皆、被害には会っていないし……」
「確かめなきゃ……」
麗華は意を決し、移動していく影を追う。
階段を昇り廊下を少し走ると、軽音部の部室の中へ入って行った。
麗華は恐る恐る、扉へ近づき、自分の胸の奥の鼓動を落ち着かせるよう小さく深呼吸する。
「ぐあぁぁ!」
「キャッ!」
防音の施されている筈の部室から、絶叫が漏れ、それを聞いた麗香は小さく悲鳴を上げる。
麗香は戸惑いを隠せず頭がパニックになり、動けずにその場に棒立ちしてしまう。
するといきなり扉が開き、何かが自分へと襲い掛かってきた。
「……!?」
それは西洋の貴族の様な格好の、マントを羽織った隻腕の男だった。
麗華は驚き目を見開くが、もはや自分にはどうする事も出来なかった。
『皆ほんと、ありがと……こーちゃん、気持ち伝えたかった……』
ほんのコンマ数秒だが、その間に死を感じ家族や友達への感謝と、想い人への言葉を心の中で告げる。
しかし見開いた瞳が捕らえた部屋の奥で、暗がりで良く見えないが誰かが何かのお面を顔に付けながらこちらを見つめていた。
お面で顔が半分隠れる中、片目だけ見えた闇の中に光るその瞳は、どこか穏やかな表情な気がして、麗香は何故か安心してしまう。
そして謎の男が、麗香の首へと手を伸ばす。
「なに……!?ぐぅ」
稲妻が迸るような音を立てて薄い膜が明滅し、麗香は驚き尻もちを付き、謎の男は膜に手を弾かれその勢いで壁へぶつかる。
膜が光を放った瞬間に、もう一人の人物が付けていたものは狐の面だったのだと麗香は気付く。
狐の面を付けた男の子は、相手が弾かれ闇を駆けて消えていくのと同時に、麗香の下へ駆け寄り片膝を付く。
「怪我は……!?」
男の子が心配そうに仮面の奥の瞳を光らせ、麗香を見つめる。
麗華は相手に応えるよう自分の身体を確認し、異常がどこにもない事を告げる。
「だいじょうぶ……みたい……」
麗香の無事を確認した男の子は胸を撫でおろすよう小さく一息吐き、立ち上がる。
『このままじゃ行っちゃう! お礼も言えてないのに』と麗香は心の中で自分を捲し立てる。
ここから立ち去るであろう彼に対し、なんとか緊張と恐怖で乾いた口から言葉を捻り出そうとする。
「あの……ありがとう! この前も助けてくれたよね?」
「……」
男の子は、彼女の言葉を聞き流し歩を進める。
夜闇に染まる学園に彼の足音が響く。
麗香はまだ行かないで欲しいと思いながらもなんとか言葉を続けようとする。
「なんで助けてくれるの? あれは、一体何なの? あの日からどうしても気になってるの!」
彼はピタリと止まり、廊下の窓を開ける。
「待って! あなたは誰なの? 現人神様なの……?」
「これ以上深入りすると……命を落とすぞ」
「ぁ……」
彼は凄まじい気迫と圧力を込め、麗香へと告げる。
麗香は見えない力に圧迫されたような感覚を体と心が感じて怯えてしまうが、それは彼の優しさであることは理解していた。
語気も威圧的ではあるが、危険な世界に踏み込ませない様にしているという事を。
そして彼は、窓から飛び立ち夜天へと消えていった。――――――
――――――
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