52. 変わらぬ想い Aパート
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2024.02.15 17:30頃 挿絵を追加しました
パーティーを終えた船内の一部屋で、明かりを灯さず暗闇に包まれ通話をしながら、一人の女性が窓から煌河と香蓮の舞踏会の様子を眺めていた。
「えぇ、島を視察したところ多くの妖怪達の気配を感じました」
「現人神はどうだ?」
「噂通り存在するかと、ただ神と呼ぶには……呪力は膨大ですが」
「そうか、充分だ」
「はい……」
彼女は通話を切り、嬉しそうに踊る香蓮にウットリする。
香蓮は現人神と噂されているであろう男に抱かれ、宙を飛び立つ彼らを見ながら彼女は一人呟く。
「あなたのファンで本当に良かった……」――――――
――――――
「大丈夫?」
香蓮を両腕で抱き夜風とじゃれながら星空の庭園を闊歩した煌河は、彼女の屋敷の前に降り立ち、先程まで涙で頬を濡らしていた彼女を心配し声を掛ける。
「うん、今日はホントにありがとう……とっても嬉しかったよ……」
頬を染める乙女の口から発せられたお礼の言葉が、闇夜に溶けていき、2人の間に沈黙が流れる。
お互いにどこか名残惜しさを感じつつも、先程2人で分かち合った喜びの気持ちを心の片隅に忘れない様に仕舞混み煌河はその場を離れようと背を向ける。
「……」
その瞬間、香蓮は彼の袖の裾を掴み引き留める。
心の奥から溢れた感情に従い、自分でも何故か分らない行動に出た香蓮は頭の中がパニックになり、口を噤む。
お互いの瞳を見つめ合った2人の間に、再び沈黙が流れる。
「ぁ……ははは、なんでだろ、私……」
「僕が守るから……だから、大丈夫だよ」
煌河は彼女の頬に再び流れた一筋の涙を拭い、彼女を安心させたいという想いで言葉を発する。
彼女は彼女のままに生きても大丈夫、王子様でも、女の子でも、自分の想うように生きればいい。
それを否定してくる人間には自分も一緒に立ち向かうし、どんな時も味方だから。
そんな想いが込められて発せられた言葉の真意に気付いた香蓮は、微笑み頷き返した。
「うん……ありがとう……!」
煌河も軽く微笑み『また、明日』と返し、闇夜に飛び立っていた。――――――
――――――
「やった! 香蓮ちゃんから初めて一本取った!」
「ははは、負けちゃったね」
大外刈りで相手の少女を倒し、組手で一勝を捥ぎ取った幼い少年が喜びの声を上げる。
夕方の如月家の道場で数人の大人たちが見守る中、幼い少年少女たちは組手の稽古に精を出していた。
「ウチの香蓮はまだまだですな」
「……」
出ていく彼女の親である男を横目に、もう一人の男は子供達を見守り続ける。
「凛華姉さん! 香蓮ちゃんから初めて一本取った!」
「フッ……香蓮は甘いな……」
「?」
「彼の実力だよ」
少年は幼馴染である実の姉さんのように慕っている少女へと、初めて勝った事を報告する。
自前の術で肉体が活性され、または強化された少年少女たちは、性別と歳の差関係なく組手を行っていた。
その中でも少年は肉体活性の練度が低く、道場でも無敵の凛華と互角の香蓮に、一本取った事に大喜びしていた。
組手も終わり少年少女達が家に帰る中、如月家に居候している香蓮はシャワーで汗を流した後。
自分と侍女として付いてきたもう一人の女の子に貸された部屋へ入り、辺りを見回しある事に気付く。
机に置いていた自分の大切にしている絵本がない……。
その本は従姉妹から貰った、お伽噺のお姫様の恋物語の本だった。
幼い頃から、凛々しい男性の騎士の様に育てられ、同年代の子供達へもそのように振舞い、扱われていた彼女だがロマンチックな憧れも捨てきれず、その本を宝物としていた。
『どこに行ったんだろう……』と頭に疑問を浮かべていると、一人の少女が部屋へ入ってくる。
「スズ、私の絵本を知らないかい?」
「知らないけど」
彼女は部屋を出て、本の行方を探し始めた。
広い屋敷の中をあちこち探したがそれは見つからなかった。
そして誰かに協力を頼もうとした時、如月家の敷地の中庭で2人の男性が話をしていたのを建物の裏から聞いてしまう。
『その絵本を取り上げるのは些かやりすぎでは……』
『変な情をかけるからだ、それは相手にも良くない、こんな本を読んでるからだろう』
『彼女の優しさですよ、それは良い方向へ伸ばして上げないと……』
『将来、姫を守る騎士になってもらわねば困りますからな、甘さは捨てさせないといかん……』
……!
香蓮は、居候したばかりの如月家を飛び出し、涙を流しながら、転びながら見知らぬ街を走り抜ける。
この街に来て一週間ほどしか立っていないが、そんな事は今の香蓮にはどうでも良かった。
なんで私はいつも頑張ってるのに認めてくれない。
今日は大人たちが見てるから、相手の少年の得意な技を皆に見せてあげようとしただけなのに……。
ただそれだけで、大切にしている宝物まで取り上げて……。
自分は強い騎士を目指して言いつけ通り訓練してるのに、女の子のような夢を持つ事も許されないのか……。
香蓮は様々な想いで胸の奥から苦しみが込み上げる。
自分が片隅に仕舞っていた女の子である想いまで押しつぶされたような気がして、嗚咽を漏らしながら街を駆ける。
とある公園に付き、転んで怪我をした両膝を抱えてベンチに座り込み『今日はここで野宿をしよう……』と散々泣き腫らした目を瞑り、時が過ぎるのを待つ。
数十分と経った頃に、辺りは暗くなり始め日はほぼ沈み、紅暗い闇が空を覆い尽くす。
『逢魔が時は子供一人でいたら危ないんだよ』
香蓮は組手で自分を負かした少年が数日程前に言っていた言葉を思い出し、沈み行く夕日の様に心の中が不安になっていくのを感じた。
目を瞑り、顔を伏せ、夜が明けるのをひたすらに待つ、すると一人のお爺さんが声をかけてきた。
「おじょうちゃん、一人かい?」
「え……?」
香蓮は顔を上げしわくちゃの顔を見ると何故か大きな袋を手に持っていた。
……。
「おじょうちゃん、一人かい?」
香蓮は直感的に、『素直に応えたらまずい』と思い嘘を付く。
「い、いや、もうすぐお父さんが迎えにきます……」
「じゃあ、今はおじょうちゃん一人かい?」
香蓮は恐怖に包まれながらも、好きではない自分の父親に結局頼っていることが情けなくなりながらも軽いパニック状態に陥る。
(怖い……助けて……)
彼女は目を瞑り心の中で助けを呼ぶが、屋敷を飛び出したことを後悔し半ば諦めかけていた。
すると……。
「払い給へ、悪しきケガレ、清め給へ、悲しきケガレ!」
突然の声に香蓮が目を開けると格子状の印が地に描かれ、蒼い輝きと共にお爺さんだと思っていたものは呻き声を上げ、黒い霧となり消えていった。
「一人じゃ……ないんかい……」
真言を唱えた声の方へ顔を向けると、そこには自分の父親が駆け寄ってくる姿があった。
……?
(父様は、こんな術使えないはず……)
そんな考えが頭を過るが、先程まで恐怖に陥っていた彼女は頼れる相手が目の前に来た事に安堵し抱き着く。
「父様!」
「あ、ごめん……」
「わぁ!」
父親だと思っていた人間は変化で化けていた姿を解き、少年の姿へと戻る。
それに驚いた香蓮は、尻もちを付いてしまう。
その少年はさっきの組手で、自分がわざと負けた相手だった。
香蓮は少年への感嘆の声を上げ、少年は尻もちを付いた女の子へと手を差し出す。
「へへ……やっと見つけた!」
「すごいよ……!」
香蓮は少年の顔を見て、先程まで絶望していた心から、ホっとする暖かい気持ちが湧き安堵する。
しかし彼を良く見ると、稽古の袴から着替えたであろうシャツも汗で軽く濡らし、息を細かく切らし、膝も怪我をしている。
(こんなに必死になって、自分を探してくれていたなんて……)
自分が怪我をしているのをお構いなしに、彼は術をかけ自分の膝の手当てをしてくれている。
「どうして……」
その感情はどうして自分を探してくれていたのか、どうしてこんなに尽くしてくれるのか。
組手で何度も負かしていたのに、会ったばかりなのにどうして……。
様々な疑問を含んだ言葉だった。
「だって、香蓮ちゃん女の子だし……」
人を守る様に家から教えを受けていた少年は、なんの気のないように答えてくれた。
しかしそれは、女の子であることを全て否定されていたように感じていた彼女の心を救うのに、充分な一言であった。
子供として、友人として優しくされる事はあったが、たった今、一人の女の子として初めて優しくされた彼女は自分の中に芽生えた暖かい不思議な気持ちに動揺しながらも、顔を綻ばせる。
「これで少しは痛くなくなったでしょ?」
「うん……」
「行こう」
香蓮は歩き始めた少年の手を握り、少年も握り返す。
2人は多少の気恥ずかしさを感じながら、瞬き始めた星空の下、街灯と月明かりが照らす夜道を歩く。
「ありがとう……煌河くん……」
「うん……」
(初めて感じるこの暖かい気持ちを大切にして、いつか、彼の様な優しくて強い騎士になろう)
(そしていつか……)――――――
――――――
「そうだった……私……」
香蓮は、外から微かに聞こえる小鳥のさえずりと共に目を覚まし、忘れかけていた過去の感情を思い出す。
それは昨日の、2人きりの舞踏会で感じた心からの喜びや、彼を愛おしいと思う気持ちと同じものであった。
いつしか香蓮は彼と会わなくなり、この気持ちが、心から大事に想える可愛い弟のような気持ちだったんだと思い込んでいた。
『でもこれは……きっと、弟へ向ける気持ちじゃないんだ……』
失いかけていた乙女心を思い出した香蓮は、清々しい目覚めと共に差し込む朝日の中、自分の中に芽生えていたはずの想いに気付く。
「いつか……言えたらいいな……」
いつか、自分が彼の様に優しく強い騎士になれた時、その時は彼にこの気持ちを、想いを知って欲しい。
暖かな日差しが注ぐベッドの上で、思い切り身体を伸ばした香蓮は、新しい人生が始まったかのような気持ちで新たな一日を迎えた。――――――
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