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51. 可惜夜の月面舞踏会

ご閲覧ありがとうございます!

AIイラストはあくまでイメージとしてお楽しみください








 初めて感じる訳の分からない焼きもちのような感情に胸の中を支配されつつ、船上での撮影は進んでいく。

 写真撮影は終盤に差し掛かり、広い甲板でのダンスパーティーが始まる。

 香蓮ちゃんはさっきの話の通りに琥珀とダンスを始めていた。

 アニメの登場人物を模したモデルさんや、エキストラの方々がダンスしているところを撮影するみたいだ。

 ちなみにエキストラはパーティーに招待されたキャストの知人、関係者の知り合いがそういう扱いみたいだ。

 ダンスなんてやった事ないが、難しく考えず音楽に合わせて軽く踊れば良いらしい。

 でも僕は、お休みだ。

 アニメの主役と似たような格好をしてきてしまったので、社長さんへ挨拶した際に『目立たない様に』と言われてしまった。

 僕がダンスを隅で眺めていると、麗香がやってくる。


「私と踊ってくれませんか!」


「ごめん、せっかくだけど……」


「いいから! ベスト脱いで! 許可取っちゃった!」


 麗華は強引に僕の手を引き、僕らはダンスに混ざる。

 どうやら僕が踊る許可を取ってくれたみたいだ。

 着ている暗いワインレッドのベストが目立つので、それは脱げばOKらしい。

 やばい、なんか泣きそう。


「ありがとう、麗香……」


「泣きそーじゃんw」


「正直、泣きそうだったよ」


 僕は隅で惨めに突っ立てるだけだったが、麗香は助けてくれた。

 何かをするのに1人である事は好きだが、集団の中の1人って本当に悲しい気持ちになる。

 まるで世界から爪弾きにされて、存在する資格がない様な宣告をされた気分になってしまう。


「ねぇ、このドレスどう? 似合ってる……?」


 それを助けてくれた、本当に感謝してる。

 この事だけじゃなくて、いつもの事も……。


「あぁ、女神様のように」


「……」


 僕は柄にもなく真剣な眼差しで麗香へ答える。

 本当にそう想った、助けてくれたこともそうだが何より本当に綺麗だ。


「纏めた優雅な髪も、優しい紫のドレスも、君に良く似合ってるよ」


 ……何を言ってるんだぼかぁ。

 感謝を伝えたいあまり、恥ずかしい台詞を口にしてしまった。

 いや本心ではあるんだけど、これはあまりにも似合わないだろ、僕に。

 無意識で香蓮ちゃんの影響を受けたのかもしれないな。


「……っぷふ……ははは!」


「我ながら似合わなかったね……」


「めっちゃ似合わないしw」


 良かった、麗香は本心から笑顔になってくれている。

 なんだかよく分からないけど、そんな気がした。


「でも、めっちゃ嬉しい……!」


 麗華は最後にそう言い、ダンスの相手が変わる。

 知らない人たちともダンスを楽しみ、撮影のダンス会は終わった。――――――



――――――



 撮影会もスムーズに終わりを告げ、パーティーの時間となった。

 後は自由に楽しんで良いみたいだ。

 音楽も流れてるし、ダンスしたい人はすればいい、お喋りを楽しみたい人は喋ればいい。

 そんな自由な時間となった。

 食事もビュッフェ形式で小夜と琥珀は早速並んでいる。

 僕も行こうかなと思った時、陽菜が側へやってくる。


「ひなのドレスどお? 可愛いでしょ!」


「あぁ、とっても可愛いよ」


「へへ……こーがもカッコイイよ!」


「ありがとう」


 陽菜はピンクのドレスに、髪型も麗香の様なアップスタイルになっている。

 いつもとは違う感じが新鮮で可愛らしい。


「アレックス様が呼んでたよ!」


 陽菜は最後にそう言って、麗香達の元へと戻って行くと同時にエレナさんが僕の元へきた。

 香蓮ちゃんの元へ案内してくれるらしい。

 『こちらへ』と先導する彼女に船内へ案内され、客室へと通されると香蓮ちゃんが窓の外を眺めていた。

 いつの間にドレスに……?


「やぁ、ど、どうかな……?」




挿絵(By みてみん)




「……あ、あぁ」


 振り返る彼女の余りの綺麗さに、僕は心を奪われ、唖然としてしまった。

 軽く頬を紅く染めて、まとめ上げたショートヘアがいつもの活発さを失わせず可愛らしさを引き出している。

 ささやかに煌く落ち着いたブルーのドレスが、その美しさを際立たせる。


「……に、似合うかな? 君に見て貰いたくて……」


 なんとか笑顔を見せてくれているが香蓮ちゃんは少し震えている、昔もそうだったが香蓮ちゃんはカッコイイが故に女の子としての自分に自信がなかった

 それは恐らく今も同じだ。

 そんな彼女が勇気を出して、わざわざ僕を呼んでくれたのか……。

 僕は彼女の期待に応えるよう、不安がなくなるように必死に本心からの言葉を紡ぐ。


「ご、ごめん、あまりにも似合ってて! びっくりしちゃって……とても綺麗だよ」


「カッコよさも残したまま、女性らしい美しさや、可愛らしさもあって……」


「心の底からそう思うよ、上手く言葉にできないけど……」


 あまりにもベタでストレート過ぎただろうか。

 ただ、今思った事は本当だ。

 香蓮ちゃんは男性らしいカッコ良さも兼ね備えて王子様なんて呼ばれているけど、元々可愛い女の子なんだ。

 僕の反応を見た彼女はホッと胸を撫でおろし、息を吐く。


「よかった……君に女の子らしい恰好を見せるのは、これで2度目かな……」


「あぁ、夏祭りの、あの時も可愛かったね」


「そ、そうかい!?……これだけ言ってもらえればもう充分だよ」


 香蓮ちゃんは嬉しそうに笑い、言葉を続ける。


「これから、私にはまだ撮影やインタビューがあるから」


「今日の最後に、君に見て貰いたかったんだ」


「ホントはもっと楽しみたかったけど……今日は、私のワガママに付き合ってくれてありがとう」


 香蓮ちゃんはそう言い放ち、僕に表情を見せない様に顔を背け小走りで部屋を出ていく。

 そっか……香蓮ちゃんとは今日はもう最後なんだ……。

 あんな香蓮ちゃんと過ごせるなんてそうそうないのにな、ちょっと残念だ。


「もし、ちょっとお時間ちょうだいしますわ」


 僕が少し落胆していると、外で待機していたエレナさんが部屋へ入り扉を閉めた。

 そして言葉を続ける。


「あの子、今日の事本当に楽しみにしてましたの、断られたらどうしようとか、ドレスは何にしようとか」


「……代役というのは香蓮の嘘なんですのよ、彼女はただあなたとダンスをしたくて誘いましたの」


「本当はあのドレス姿、一番にあなたに見て貰いたかったんですのよ」 


 ……?

 いつから着ていたんだ……? 確かダンスの頃は……。


「ですのに、あなたは自分の事にいっぱいいっぱいで気付いてませんでしたわね」


「香蓮は撮影の為に催しの途中に着替えて、再び参加したんです」


「他のお客様と楽しそうに踊ってるあなたを見て、ずっと哀しそうな顔で踊ってましたの」


 ……。


「全く攻めている訳ではありませんの、事情が事情ですもの」


「ただ知っておいて欲しかったんですわ、あの子、本当に楽しみにしてましたから……」


 ……。


「教えてくれて、ありがとうございます……」


「いいえ、今日は災難でしたわね」


 彼女から香蓮ちゃんがどんな気持ちだったか聞かされ、続けて僕も部屋を出る。

 賑わっている船首の甲板を背にし、微かに聞こえる喧騒を聞き流し、船尾で海を眺め考える。

 彼女は、そんなに僕なんかと過ごしたいと思ってくれていたのだろうか……?

 どちらにせよ、申し訳ない事をした……さっき僕から顔を背けていたのは……。

 僕はどうすればいい……? せっかく楽しみにしてくれていたのに……。

 色々な思いが胸中を貫き頭を巡る中、波を立てる深淵のような水面を見つめていると、後ろから声が掛かる。


「お、いたいた」


「ルイ……」


 そういえば彼は、どうしてここに……。


「まぁ、俺も色々事情があって話したい事があるんだけど、今はいいや」


「部屋での話よ、通りがかった時に気になって聞いちまったんだけど……」


 聞いてたのか……彼は耳が良い。


「さっきの撮影の時間な、香蓮さんは本心から笑ってなかったんだよ」


「俺ビビっちまってよ、あの人エクソシストだろ? 近づくまで気付かなかったぜ」


「俺の変な言葉にまで笑ってくれたのは、安心させるためだったんだろうな」


「優しく自己紹介までしてくれたぜ」


 ……。


「ダンスの時も一緒に踊ったんだけど、どうも悲しそうな顔しててな、それも本心から」


「話聞いて分かったわ、このことだったんだって」


 彼は夢魔だ、いわゆるインキュバスとして存在している。

 だから女性を喜ばすため容姿も良いし、甘い言葉も良く囁く、彼の場合は変な言葉だけど。

 そしてその反応を見る為に人の心、特に女性の心に対しては敏感に察知できる。

 琥珀は人の考えを読むのに近いが、ルイは人の感情を感じ取ることができる。


 香蓮ちゃんは、ホントに素敵だ……。

 自分の楽しみが崩されても、ルイを安心させるため笑ってあげられる。

 太陽の様な彼女を、やっぱり悲しませたままにさせたくはない。


「教えてくれて助かったよ、変態」


「いつもの感じに戻ったなw」――――――



――――――




 夜も深まり、後数時間で街の灯もほぼ消えかけるころ、雅・Alexandra・香蓮の乗った船は島の港に一旦帰還し、元の港へ帰るため再び出港しようとしていた。

 船上パーティーも終えて解散となり香蓮は最後に、煌河に挨拶しようと辺りを見回すが姿のない事に気を落とす。


「先に帰っちゃったかな……」


 今日は思いがけない事もあったけど、彼に自分の女の子の姿を褒めて貰えてよかった。

 香蓮は煌河の言葉を噛みしめ名残惜しさを感じながらも、自分も帰ろうと辺りを見回すが、何故かメイドをしているエレナの姿も見当たらない。

 『おかしいな……』と呟き携帯を手にしようとした時。

 暗がりから一人の狐の面を付けた人物が出てきて、香蓮へと声を掛けた。


「皆もう帰ったみたいだね」


「煌河くん……どうしたの?」


 自分を待ってくれていたのだろうかと思った香蓮は、嬉しくなり口元が緩みかけるが平静を装う。

 香蓮は煌河の返答をまつが、何も言わずに彼と同じような狐の面を渡され隠形の術をかけられる。

 そして香蓮へと自分の手を差し出した。


「さ、行こう、After-partyへ!」


 煌河は面を付けた香蓮の手を取り、出港直前の船へと一緒に飛び乗る。

 香蓮は何故か分からないが、小学生が夜の学校に忍び込むようなドキドキした高揚感を感じながら、煌河へと尋ねる。


「何かあるのかい……?」


「ふふふ……ようこそ、お嬢様、こちらは仮面舞踏会の会場です!」


 さきほどまでパーティーをしていた広い甲板へ降りたった煌河は、左腕を高らかに上げ指をパチンと鳴らす。

 すると、船上のウッドデッキと、船の周りの海が眩い夜空を映し出し、煌びやかな月と星々が光を放つ天と地と海のプラネタリウムが出来上がる。


「煌く星の河が月を天へと導く様をご堪能あれ!」


 『フッ……決まった』と煌河は内心ドヤ顔で、謎の仮面の男を演じ切る。

 テーマは可憐なお嬢様を宇宙へと連れ攫うミステリアスな怪盗である。

 

「す、すごいよ……! 流石神の利き腕!」


 ズコー!


「そ、その名前はやめてよ……」


「はははは、ごめんよ、でも本当にすごい……! 嬉しいよ!」


 コケる煌河を眺めながら、香蓮は今日の嫌な事や悲しかったことが、全て吹き飛ぶくらいの満面な笑みを咲かせた。

 それはこの空間に広がる小宇宙が引き立て役になり霞むほどの、暖かい太陽のような笑顔だった。


「ミュージィック……スターツ!」


 煌河が声を上げると携帯からノリの良いジャズが鳴り響き、煌河は香蓮の手を取り踊り始める。

 彼は彼女の心の涙を拭いたい一心で懸命にリードしようとするが、ステップがつたなくすぐ足が止まってしまう。


「……」


「ふふ……はははは!」


 そんな煌河へと香蓮は様々な想いが溢れ笑ってしまう。

 煌河は香蓮へと謝るが、香蓮にとってはそんなことよりも、自分のためを思ってこんなことをしてくれた彼の気持ちが、何よりも嬉しかった。


「ご、ごめん……」


「ううん、まかせて私の王子様!」


 香蓮がダンスをリードし2人は音楽に身を委ね、全てを忘れて天と地のプラネタリウムが織り成す空間を舞う。

 そこには星々を渡り、時には月の上を滑り、宇宙で舞い踊っている様な2人だけの世界が繰り広げられていた。


(彼は自分の為に、こんな御もてなしを用意してくれたのだろうか……)


(嬉しい……! 嬉しい……! 嬉しい……!)


 香蓮の胸の中は喜びで満ち溢れ、自分が人々を守る男性のように強く生きる事、生まれの名に恥じない女性らしく綺麗でいる事、生まれて初めて自分に課せられた全てを忘れ、目の前の相手と今の時間を楽しみ、今までに感じた事のない嬉しさや暖かさが身体と魂を満たしていく心地よさに心を預ける。

 頭の中を空っぽにしてただ今を楽しむ、香蓮はそんな初めての経験と喜びをもたらしてくれた煌河をただ愛おしく感じ、永遠にこの時間が続いていて欲しいと願う。

 そんな香蓮の嬉しそうな姿を見て、煌河も心の底から安堵し、彼女の笑顔に心の底から喜びを感じていた。


 しかし、しばらくして、そんな愉快な時間は終わりを告げようとしていた。


「だ、誰かいるのか……? こ、これは!」


 防音の結界を施してあったが、羽目を外し騒ぎ過ぎたのか乗組員が甲板へきて、広げられたプラネタリウムに驚愕する。

 乗組員を横目に、煌河は香蓮へと甲板で配っていた葡萄ジュースをグラスに入れて渡す。


「そろそろ時間か……はい」


「うん……」


「狐の面が……ぐ、グラスが浮いてるぅ! ひぇぇぇ!」


 乗組員が退散する中、2人はジュースを一気に飲み干し片づけ、煌河はプラネタリウムや人払いを解除する。

 そして彼は香蓮へと、あるお願いをする。


「目を瞑ってくれる……?」


「ぁ、はい……♥」


 一瞬『このタイミングで……?』と香蓮は想うが、彼になら全てを捧げても良いと心から想い、言う事を聞いてしまう。

 ドキドキしながらも覚悟を決め『準備、オッケーです……♥』と香蓮は相手へ合図する。


「分かった、行くよ……!」


「ぁ……」


 香蓮は目を閉じた暗闇の中で、狐の面を外される感覚と、宙に浮く様なフワリという感覚と共に抱き上げられる。

 そして身体が夜風を切り、さざ波の優しい音が耳を通して体に響いていく。


「目、開けていいよ」


 香蓮が目を開けると、その視線の先は月を背景に海と街を見下ろしていた。

 煌河は力を反射させる小さい盾結界を、足元に展開し蹴りながら、香蓮を抱き星と月の浮かぶ雲の真下の夜空を駆けていた。

 生まれて初めて、男性からお姫様抱っこをされ宙に浮かぶ香蓮は、彼の顔を見る。


「ささやかな宇宙旅行はいかがでしたか? お姫様、地球に戻ってきたよ」


 香蓮は煌河へしがみつき満ち溢れていた喜びの底から、心の片隅にあった乙女心の様な気持ちが重なり溢れていく。


「もう、私何されてもいい……」


 小さく呟いた彼女の声を、良く聞き取れなかった煌河は優しく微笑みかける。

 そんな彼の穏やかな顔を見た香蓮は頬を紅色に染めながらも、涙を流し様々な感情が溢れてくる。


 私は生まれてからずっと強くあれと育てられ、そして、自分自身も屈強で誠実な騎士の様に強くあろうとしてきた。

 ずっと……ずっと……。

 自分はお姫様を守るのが使命だから、王族に使える元に生まれたから。

 本当は自分も普通の女の子のように生きてみたかった。

 幼い頃に読んだ絵本の様にこうして……。

 香蓮は生まれて初めて、自分を女の子として扱ってくれた男の子の腕の中で、喜びを感じながらも、抑えつけられてきた思いが溢れ出し、今までの人生で流すはずだった涙を溢れさせる。

 彼女の事情を知る煌河は、何も言えず、ただ彼女がどうか幸せになって欲しいと心の底から願いながら夜天を駆け、乙女の目から流れる雫を、夜風と月明かりで乾かす事しかできなかった。――――――



――――――


















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