41. 約束の戦い
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麗香の付けたルビーのネックレスの呪力信号をキャッチして、化け物に襲われている彼女達を救出し眠らせ学園の教員に任せた。
その後、神社の麓へと向かいながらも妖怪や妖魔を探知し、襲われている民間人を助けながら小夜と共に空を駆け屋根を走り抜けている。
力を反転する盾結界を足場に展開し蹴る事で、宙を駆けている。
次元を切り裂き移動しないのは、あれには目印となる物体や刻印等の座標の設置が必要だからだ。
その上膨大な呪力を消費してしまうが、日常生活で呪符にストックしている偽神力でも代替できる。
代替法は最近ようやく習得できた……これで幼い頃の約束を果たせるはずだ。
そして飛距離は丁度この島より少し狭いくらいの広さまで。
所属する組織に正式に登録されている術式名は【絶界仙法:幽世(ゼッカイセンポウ:カクリヨ)】
これまた僕や凛華姉さんに2つ名を付けた人が名付けたものだ。
僕は【次元斬】やら倉庫としても使えるので【次元庫】と呼んでいる。
一昔前に流行ったネット小説のアイテムボックスみたいなもんだ。
この技は一部の偉い人や僕の式神しか知らない技だ。
あ、あと朱鳥先輩か……この件が終わったら秘密にして貰う必要があるな。
この術式が完成した際に偉い人からは、この刀と術は秘密にするように言われている。
これが世に知れ渡ると物流や暗殺、平和な事から物騒なことまで色々大変らしい。
そんな事を言っていたがこの術を見た際にその人は『左目が疼いてくるよ!』なんて嬉しそうに言っていた。
「もう大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうござい……ま、す……」
僕はまた一人、街の路地裏で人を襲う妖魔を切り伏せ、襲われていた民間人を術で眠らせ近くにいた同胞へ連絡を取り引き渡す。
妖魔や妖怪はどうやら、誘致結界の影響を除いても、神社へと向かっているみたいだ。
その事に気付いたエージェントの一人から連絡を受けた司令塔の莉々菜さんは、民間人の非難が優先と無線で指示を出す。
絶対外出禁止の勧告が出されたとはいえ、少数だが外に出ていた人がいるのだ。
見えないものが見えてしまう素質を持つ民間人には妖魔や妖怪が動物に見えるような偽装結界を施してあるが、先ほど麗香を助けた雑木林や、入り組んだり屋根が多い場所に発生した場合、結界の効き目が薄くそのままの姿で見えてしまう。
ただここまで数が多いと、見えない人もたまたま見えてしまったり黒い瘴気のモヤが見えやすくなってしまう。
この件の後はおそらく島で変な噂になるだろう、こういう時に都市伝説や伝承となり残ってしまう事があるがそれは悪魔でエンタメの扱いで事実として信じる人は少ない。
とにかく後の心配は余所に、一早く神社に向かわなければならない。
「誰も……いないか……」
神社の麓の周辺につくと、そこには誰もいない。
本来は余裕のある同胞は僕の応援にくる手はずになっている。
街の様子を見ながら屋根やビルを伝ってきたが、神社へ近付く程に妖怪や妖魔の密度が上がっていた。
麓の大回りに設置された3か所の誘致結界では、今頃混戦のピークを迎えているだろう。
それを終えたら応援が来るだろうが、僕はこの事件を引き起こしたであろう犯人を救いたい。
できれば彼を滅したくはないから……。
「……行こう」
僕は気を引き締めなおし、小夜に声を掛ける。
最悪この戦いで死んでも、偉い人に渡るよう遺書は書いてある。
無線で神社へ突入する事を伝え、一部の人に止められるが僕は迷いを断ち切り足を踏み出す。
島に来てから何度も登った階段を小夜と共に駆け上がると結界が張られている。
結界から感じるこの邪気は……。
「彼女がここに……!?」
身に覚えのある邪気を感じ、僕は急ぎ結界を次元斬で引き裂き破壊する。
ここに彼女がいるはずがない……。
この騒動を引き起こしたのは彼じゃないのか……!?
胸騒ぎを落ち着かせながらも足を走らせ、神社の広大な広場へと躍り出る。
「よぉ、もうこねえかと思ったぜ」
そこには中央に座する大柄の鬼が待ち構えていた。
やはり、彼か……周囲を見回しても彼女の姿はない。
今はいい……とりあえず彼に聞きたい事がある。
「やっぱりこの惨状は、君が起こしたのか? 茨木童子」
茨木童子……言わずと知れた酒呑童子の配下とされた大妖怪だ。
「おう、中々の祭りだろ?」
彼はこの状況を楽しんでいるのだろうか。
冗談じゃない、僕の大切な人達が危ない目に合ったうえ、今もなお戦っている。
こんな事を彼がするとは思えない。
義を通すような性格が言動から現れている彼は、人が被害に合う事を見過ごすような人間じゃないはずだ。
「なんでこんな事を、街には被害者も出てる」
「仕方ねぇだろ、姉御の封印を解くためなんだよ」
茨木童子は語気を荒げ僕に応え、言葉を続ける。
「俺にとって姉御は何より大事な人なんだ……笑って生きれるんならそうしてやりてぇ!」
「汚名を着せられて最悪の結末のまま終わるなんてあんまりだろ……」
「俺は……絶対恩義を返す、誰に何と言われようが、この身が地獄に落ちようがな!」
……彼は心の罪悪感を潰すように僕に思いの丈をぶつけ、気合を入れなおすと共に鬼に宿る力、豪気を膨れ上がらせる。
そして……。
「く……!」
「俺の邪魔をすんじゃねぇ!」
僕に一瞬で近付き殴り掛かってくる彼の拳を簡易的な結界を即席で展開し重ねるが、いとも簡単に破られて僕は地を転がる。
いてぇ……なんとか話し合えば着地点が見つかると思ったが、甘かった。
なんて瞬発力と剛力だ……!
「えい……!」
ヤツは僕を追うが、小夜の妖術で一瞬動きが止まる。
鴉羽がヤツの影に刺さっている。
天狗は基本的に風を操るが、更に鴉天狗は相手の影に干渉し動きを妨害できる。
よし、小夜に合わせる……。
即座に茨木童子の影に呪符を飛ばし、重ねて金縛りの術を掛ける。
「縛!」
「しゃらくせぇ!」
一瞬動きが止まったが、すぐに力業で解除された……。
だめだ……地力が違い過ぎる……!
僕はふと組手の時に何度か言われた、おじさんの言葉を思い出す。
『相手が何をしたいのか考えるといいかもしれないね』
ヤツは僕を殴り飛ばそうとし、またもや距離を詰めてくる……。
「くそっ……!」
僕は着用した魔技亜シェーダーの能力を用いて夜闇に溶けながらヤツの突撃を躱し、呪符で分身を作る。
これは実際に溶けている訳ではなく視覚効果を利用したカモフラージュだ。
だが鬼種は目が良く、ある程度見えてしまう。
この分身も見掛け倒しで実体はない、相手を攪乱するための陽動だ。
「へっ、隠形に分身か……」
茨木童子は目を閉じ五感を研ぎ澄ませ、僕の本体を探す。
音、呪力、息遣い、彼はきっとあらゆるものを駆使し僕を探している。
現れるは堅牢の盾、弾かれるは剛拳の鬼……込める力は反転反転反転反転。
「そこかぁ!」
「ソウデン!」
僕は飛び込んでくる彼の拳に結界を合せる、さっきの即席の盾結界とは違う。
今度は呪力を込め、心の中で真言を唱えた。
口頭で唱えるより質は落ちるが、先程とは非にならない。
「ぬがぁッ!」
フッ……決まった。
最初の一発で一気に片を付けられると彼は確信したはずだ。
その後勢い任せに僕を仕留めに来たので、苦し紛れの表情をして分身と隠形を駆使した。
それを破れば終わりだと思わせたのだ。
反転する力を込めまくった盾結界へ拳をぶつけた茨木童子は吹っ飛び、ぶつかった神社の売店も吹っ飛ぶ。
……これ弁償とかしなくちゃダメ?
考えてみたらここで戦闘したらまずくないか? けーひで落ちるよな?
「冷たい石畳で頭冷やしてな……」
僕は財布の中身を心配しながら、決め台詞を吐く。
ともあれ今のは相当こたえたはずだ、威力に関しては鬼の一撃に勝るものはないと言われている。
力を反転されて、本来の自分以上の威力で返ってきたはず。
流石の彼も……。
「んがッ!……うあぁあ!」
倒れていたはずの茨木童子は砂埃と夜闇から一気に飛び出し、僕の顔面を掴みお返しとばかりに社務所の方へ僕を投げ飛ばした。
「どりゃぁ!」
やばい……死ぬかも……。
すると後ろから強風が吹き僕を助けてくれた。
小夜が、風を吹かせ威力を殺してくれた。
僕は軽く社務所の壁面にぶつかっただけで済んだ。
「助かったよ、小夜……」
「気を付けて……」
小夜と隣り合わせ気を引き締めなおすと、茨木童子は笑い始める。
自分以上の力が跳ね返ったっていうのにピンピンしてるよ……。
「カッカッカッ! こんな喧嘩みてーに楽しい戦いは久しぶりだぜ!」
彼は楽しそうに笑い声高らかに笑い声を上げる、この戦闘狂め……。
今なら話も通じるか……?
「本当に酒呑童子は蘇るのか?」
「おいおい、楽しい喧嘩に水を差すなよ」
「まぁまぁ、同じ釜の飯を食った仲じゃない」
僕は気楽に彼へと語り掛ける。
彼は乗り気ではない様子だけど話に応じ、言葉を続けてくれた。
「とある人にな、姉御が封印されてるって聞いてよ。復活させるには器と生贄が必要なんだとよ」
「器はもちろん俺だ、そして生贄は……煌河、でっけえ呪力を持つお前を生贄にしようと思ったんだがな」
「待っていたが、お前が来ねぇと踏んで瘴気を開放したんだ、変わりに膨大な霊力と妖力が集まる」
彼は知らない……?若しくは騙されているのか?
凛華姉さんによると、酒呑童子は封印が解除され魂は浄化されて消えたはずだ。
そもそも姉さんは偉い人にそう聞かされただけで、真実を知っているという確証も無いから、何が本当かは分からないが……。
少なくとも瘴気を解放したのは僕が来なかったからか……。
僕のせいで麗香や千冬、多くの人が危ない目に……。
反省は後にして今はとにかく、彼を止めよう。
「酒呑童子の封印は解除されてる、魂ももうないはずだ!」
「俺を謀ろうったってそうはいかねぇな」
「どちらにせよ君がやったことは残る、その行いは酒呑童子に顔向けできるものなのか?」
「うるせぇ! とにかく俺にはこれに懸けるしかねぇ、命かけてでも恩を返すって約束したんだ!」
ダメか……僕が幼い頃にとある存在と約束したように、彼も硬い約束を結んだのだろう。
永い時を経ても、彼はその約束を胸に刻み果たそうとしている。
彼は拳を構え、目付きが変わった……!
「わりぃが、生贄になって貰うぜ……!」
茨木童子から先程と比較にならない程の豪気が噴き出す。
彼は僕に飛び掛かり、僕は威力を殺すため後ろに飛びながら結界を展開しようとするが。
やーばい……後ろ壁だった……。――――――
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