39. 開宴、百鬼夜行
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神社の中央に座する鬼は、目を閉じつつも来るべき時を待っていた。
目的の相手が果たし状に応えない限り、後ほんの数分で島は逢魔が時に包まれる。
「あいつ……こねぇつもりか?」
鬼はこの計画を提案した相手を思い浮かべ、自分の想いを奮い立たせる。
やつは言った、この儀式には自分の外に生贄が必要だという事を。
それは膨大な呪力や霊力である。
その力を駆使し自分が彼は初めて、自分の姉御の器になる事が出来る。
(こんな事したって姉御が喜ばねぇのは分かってる……)
これから自分がやる行いが正しいとは到底思えない。
しかし、自分の一番大切な人を蘇らせるための生贄に1人の友人、もしくは島に住む島民を犠牲にしたって構わない。
地獄へと落ちようがこの願いを叶えたい。
自分には絶対に返さねばならない義理や恩がある。
鬼はそんな事を考えつつも、自分の心が曲がらぬよう覚悟を改めて決める。
「これもあいつの影響か……」
彼女は言っていた、自分の瘴気当てられると正常な判断もできなくなり、心からの願いや思いを優先すると。
鬼は懐から彼女に渡された呪符を取り出す。
島の頂点であるここで呪符を発動させれば、魔が解放され膨大な呪力と霊力を含んだ瘴気が神社にむかって集まる。
それにより被害は出るだろうか、今の自分には姉御の人生に比べたら細かい事だ。
(宴会好きの姉御に捧げる俺の最後の祭りだ!)
鬼は全身の全霊を呪符に込め、声を上げ吠えた、自分の迷いを断ち切る様に。
「百鬼夜行の開宴だぜ!」
その掛け声と共に、島を照らしていた夕焼けの紅が消え、深淵の蒼に満ちる。
「宴会にゃあ良い夜だ……」――――――
――――――
夕焼けに染まる空が暮れかけ、沈みかける太陽に街が赤く染められる逢魔が時。
僕は護衛に付いてくれる朱鳥先輩と小夜に見守られて、無線で先生達と連絡を取りながら結界を展開していく。
連絡の相手は、渚先生と協力を申し出てくれた乙木 苺先生だ。
既に島内の、神社に近い3か所に妖魔を誘い出す効果の結界、建物に作用する防御結界は展開済みだ。
そして今は3人別々に、島の端の三隅に座して全体を覆う結界を張っている。
次が最後の結界だ。
僕は妖魔の力を弱める結界の真言を唱えていく。
「「「救急如律令!」」」
真言の最後の言葉を3人で同時に発し、地へ置いた呪符へ3人同時に最後の呪力を込める。
見鬼の才のような力を持つものならば、なんとなく見えるような結界が島中に展開されていく。
「すごいです! 流石神の利き腕! あとで絶対にサインくださいね!」
「はい、皆で絶対に生きて作戦を終えましょう」
展開された結界を余所に、無線を通し乙木先生が僕に話しかけてくる。
彼女はどうやら僕のファンだったみたいで、ずっと話してみたかったが中々会話をするチャンスが無かったみたい。
術師の家系に生まれ、あまり術師としては優れた力をもたなかった彼女だが、僕が偉い人に販売させられた簡単術式学習キットで簡易的な結界術やら、補助系の術を習得しコツを掴み始め、今は簡単な任務を手伝ったりする見習い構成員みたいな立場らしい。
偉い人は『いやぁ、君のおかげで皆の任務効率が上がり始めたよ~』と呑気に言っていた。
そのおかげで自分も含め休日を取りやすくなったから感謝してるとかなんとか。
ホントにそう思ってんのかよ、と疑わしかったけどこうして今日初めて僕への声を直に聞いた……。
なんか嬉しいけどムズ痒いような不思議な感覚だが……こうやって人々を守れるなら悪くないな……。
「これ、お茶……」
「ありがとう」
僕は小夜からお茶を受け取り一息つく。
良かった……なんとか瘴気を開放される前に間に合ったんだ……。
逢魔が時は魑魅魍魎が出現しやすくなる夕方を指すが、大体17時からピークに入る。
時計を見ると、今は17時手前だ。
島には緊急勧告として、山中の野生動物が降りてきて危険なので絶対外出禁止という旨が民間人に知らされている。
そして極まれにいる多少見えてしまう人間や、誰にでも見えてしまう妖怪の対策として、島の各所にも妖怪や妖魔が動物に見えるような
偽装結界も施してある。
既に島民の非難は完了していて、避難場所として指定されている場所や、自分の家や部屋にほぼ全ての人が閉じこもっている筈だ。
念のために、微力ながら人払いの呪符を目立つ娯楽施設の随所に張ったので、遊びに来た人間はこれで帰巣本能的なものも刺激されて家に帰ると思う、知らんけど。
僕が他に不備はないか考えながらもお茶を飲み一息ついていると、護衛についてくれた朱鳥先輩が声を掛けてくる。
「流石ね、あなたのおかげで多くの人が救われるわ」
「恐れ多いですよ……」
先輩達は度々褒めてくれるが、僕は基本的に前衛で戦う事を禁止されチームにおいて攻撃する事もできない。
こういう時にしか役に立てないのだ。
過去にそれで落ちこぼれ呼ばわりされ、同期から蔑まれていた。
殲滅系統の術式が使えない僕は、混戦の場合どうしたって足手まといになってしまう。
「今日展開した結界だって、あなたにしか出来ない事だったのよ」
優しい声色で朱鳥先輩が慰めてくれる。
朱鳥先輩は不思議だ、彼女の言葉には人を信じ込ませる不思議な力が宿っている気がする。
これは彼女の人徳がそうさせるのか、はたまた能力なのかは分からない。
けど、先輩が想いやりをもって言ってくれてるって事はきっと確かだ。
「ありがとうございます、元気出ました」
僕がそう言うと朱鳥先輩は僕の頭を、優しい微笑みを浮かべながら撫でてくれる。
あ……僕は思わず心の奥の闇が掬われたような気になってしまう。
普段は近しい関係だった凛華姉さんや香蓮ちゃんに慰められることが多いけど、こうやって島に来て会ったばかりの人でも思ってくれる人がいる事に、なんだか救われた気がした。
僕はなんだか心が温かくなり、一粒の涙を流す。
「もう、我慢できないわ……」
「ちょ、朱鳥先輩!?」
朱鳥先輩は僕の涙を拭い、抱き着いてきた。
片腕で僕を抱きしめ、もう片方の腕で僕の頭へと手を回され、僕は捉えられた獲物の様だ。
そして僕の首筋を……これは、噛んでいるのか?
甘噛みされているような感覚だが、何故か不思議な心地よさを感じる。
マッサージでツボを刺激されている様な、ほんのり痛みを感じるがそれが心地良い……。
「ごちそうさま、癖になりそう……♥」
「!?」
僕が心地よさと朱鳥先輩の突然ステーキよりもいきなりの行動に唖然としていると、夕暮れに染められていた島全体が一気に暗くなり始め、虚空へと黒に染まった影の刃が出現し僕の顔の後ろへ飛んでいった。
振り返るとそこには、黒い霧となって霧散している妖魔が散っていた。
彼女はいつもの優雅な雰囲気とは打って変わり、強気な凛々しい笑みを浮かべる。
「私、夜霧の末裔なの」
夜霧、古来から生ける固有種の日本の吸血鬼だ。
外国のヴァンパイアと比べ飛翔能力もなく腕力は弱いが、吸血鬼における流水やにんにく等メジャーな弱点がない。
それでも純粋な人間と比べればフィジカルはかなり高い上に、自分の身体と同面積の影を操る事が出来る。
上位種は確か、血液も操れると聞いたことがある。
今でも人間と共存しており、時代が進むにつれて子供が生まれ無くなっていき今では生き残りは僅かしかいないと聞いていたが……。
朱鳥先輩がそうだったなんて。
「すごい……! 驚きました!」
なんて驚愕している暇はない、辺りを見回せば地面から妖魔が湧いてきている……。
スリラーじゃないんだから……どうやら瘴気は地中にも存在していたみたいだ。
地中にも自然発生はするが、やはりこの数はおかしい。
島を狙っていた妖怪が意図的に発生させたとしか思えない。
そして朱鳥先輩はいつの間にか、どこからともなく取り出した漆黒のマントを翻し羽織る。
……カッコイイ!!!
「カッコイイ!!!」
「ふふ……手芸部で鍛えた裁縫技術の賜物よ!」
思わず心の声と同時に賛美の言葉を発した僕に対し、どうやら制服の裏にマントを隠していた事を説明してくれた。
なんか得意気な朱鳥先輩って可愛らしいな……。
「手伝います……!」
思ったより周辺に瘴気があったのか、妖魔が次々と湧いてきている。
結界を張る事が優先された作戦だったが、本来僕は神社へ向かわなければならない。
果たし状の送り主に呼び出されたから……。
しかし、僕が行ったところで止められるか分からないので、安牌を取り結界を張る事が優先されたわけだ。
だがこの数は厄介だ、朱鳥先輩一人じゃ危険だ。
「問題ないわ」
朱鳥先輩はそう言うと影の大剣を一薙ぎし周囲の妖魔を一掃する。
そして夜天の深い藍に浮かぶ紅い月を背にし不敵に笑う。
「ここから先は、私の時間よ」
「す、すごい!」
僕は感嘆の声を漏らす。
夜霧の一族はメジャーなヴァンパイアと違い、太陽の下でも力は落ちるが灰にならず活動できる。
しかし今は魔を開放した影響なのか太陽も隠れ紅い月が昇り吸血鬼の本領が発揮できる状況だ。
これなら大丈夫そうだ、僕は神社へ向かいこの百鬼夜行を止めなければならない。
各所の状況次第ではあるが、僕の下には応援が来る手はずになっている。
しかし、この惨状を見るに状況は切迫するだろう、この周囲だけでも魑魅魍魎の宴会状態だ。
おそらく1人で彼を相手取る事になるかもしれない、果たし状の送り主を……。
「こうが……」
いや、1人じゃない、小夜も一緒に戦ってくれる。
正直危ないので戦ってほしくはないが彼女はきっと、意地でも付いてくるだろう。
それなら一緒に戦おう、小夜を信頼して。
僕が覚悟を決めると、呪力の信号が僕に向かって送られてくる。
これは……! 魔除けの効果を持つお守りの結界が発動した時、それに連動して僕へ送られてくる信号だ。
彼女の身が危険だ!
「ここは頼みます!!!」
僕は声を荒げ朱鳥先輩に伝え、呪符の封印を解き紅い文様が入った無反りの漆黒の妖刀に変化させる。
急いで妖刀を振り空間を一薙ぎし、切り裂かれた虚空から出現した別空間へ繋がる次元の裂け目を小夜と共に潜り、朱鳥先輩と別れた。
「く、空間が……嘘でしょ……?」――――――
――――――
【有栖川 朱鳥】
大手企業グループのご令嬢 明るめな茶髪 巻き髪 大人っぽい
からかい上手で小悪魔系 秀才タイプ 洞察力も高く頭の回転が速い
吸血鬼の日本の固有種「夜霧」の末裔
真祖返りの力を持つ夜霧の姫、外国でいうクイーンヴァンパイア。
影に加え血を操るため傷を負う程に力が増す。
夜天を舞う力強さと紅の鮮血が踊る美しさに怯えたヴァンパイアから
「Queen of licorice ~彼岸花の女王~」と呼ばれる。
手芸部 映画鑑賞同好会
167㎝ 56㎏
装備
「shadow cloak ~陰の羽衣~」
魔力の出力が上がる黒衣の外套。
・自分の影を操る固有能力に加え、マントの影も操る事が出来る。
・影の出力速度、パワーが上昇する。
・滑空に使用でき、疑似的な飛行が可能。
・外皮はしなやかであり硬い、刃を受け流し、銃弾を弾く。
「twilight charm ~宵闇の指輪~」
スペサルティンガーネットをあしらった指輪。
チャームはお守りという意が込められている。
・あらゆる状態異常(中規模まで)を無効にする。
・吸血鬼の再生能力を高める。
・日光による身体能力低下をある程度防ぐ。
・ヴァンパイアも太陽の下で灰にならずに活動できる。
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