36. 朝日に願う
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壮麗な山々の連なる霊峰の麓に、神秘的な鴉の文様を記した荘厳な宮殿を携える広大な敷地の一角。
月明りの差し込むとある部屋の一室で、一人の少女が新たな旅立ちを迎えようとしていた。
穏やか心持の少女へと、胡散臭そうな風貌の優男のような人物が声を掛ける。
「君の才能には驚いたよ、これからどう生きるかは君次第だ、期待しているよ」
その人間は少女の才能に驚きつつも賞賛する、そしてこれから行く道は今までの人生と違う事を告げる。
「はい、お世話になりました! なんとお礼を言ったらいいか……」
「はは、気にしなくていいさ、これが我々の仕事だからね。凛華くんや香蓮くんによろしくね」
共に階段を降りながら、少女は再び礼を言い別れを告げる。
黒服の男たちが黒塗りの車のドアを開け、少女は車内へと腰掛ける。
軽く会釈した少女に対し、優男のような人物は手を振り、黒塗りの車を見送った。
「本当にあの子の周りは、騒がしいねぇ……」
――――――
夜の闇が立ち込める山の中の洞窟の前に一人の大男が降り立つ。
大男は人が暮らしている様な生活感の漂う洞窟に入り、ランプの明かりを付けつつも静けさの溢れる空間の中、自分の命を救い願いを叶える手伝いをしてくれていた恩人へと電話を掛け続ける。
何度も何度も。
電話を掛けるうちに自分の中の怒りと動揺が僅かばかり落ち着いてきたころ、問い詰めたい相手が通話に出てやっとの事応答する。
「はぁい? 久しぶりやね」
「おい! どうなってんだ!? 姉御は生きてんじゃねぇのか!?」
その大男は相手が電話に出るやいなや自分の中の感情が噴き出し、納まりかけていた動揺を声に出すよう語気を荒げ相手を問い詰める。
勢いのあるその声には、どこか希望を砕かれたような悲しさを感じさせた。
「声、ちょい大きいわぁ」
捲し立てても効果は無いどころか相手の神経を逆撫で真実が聞けないだろう事を判断し、男は相手の声に対し了承をするように沈黙した。
そして質問の返答を待つ。
とにかく一刻も早く自分の探している人の状況を知りたかった。
「酒呑童子は生きてるで」
「ホントかよ? 俺ぁ死んだと聞かされたぜ、どうなってんだ?」
自分の恩人を疑いたくはないが男は疑心暗鬼になるほかなかった。
とにかく彼は探している人に会わせてくれると聞かされ、電話の相手の指示に従っていた。
探し人が死んでいると聞かされた異常はどうあっても疑ってしまう。
「正確に言うたら、封印されてる言う方が正しいなぁ」
「封印……?」
「中のものが漏れへんように閉じ込めることやな」
「ば、バカ野郎、それくらい分かってらぁ。アンタの封印ぶち破ったのが誰か忘れたか?」
「ふふ、そういやそうやったね」
相手のおふざけ気味な返答に対し、自分がピリピリしようが状況は何も変わらない事に気付き、男は平静を取りす。
「それで、封印ってどういうこった?」
「理由は分からへんけど、酒呑童子はずっと封印さていたんよ」
男は通話相手から探し人の真相を聞いた。
理由は分からないが、永い眠りにつき封印されていた事。
彼女は魂と肉体が離れ、新たな器を待っているらしい。
新しい器には、彼女と似た性質の存在が必要な事。
そしてその封印を解くために、今までの準備が必要だった事。
「なるほどな、その器が俺って事か……」
「ふふふ、会うてる事には変わらへんやろ?」
今までの穏やかな声色と比べ、冷ややかな声色で返答された答えに対し本性を垣間見た男は背筋と肝が冷える。
「ははは……」
全く以て愉快だ。
『俺のこの命でまた姉御が笑って生きられるなら、いくらでもくれてやらぁ』
胸中の想いを心に刻み、男は天から降り注ぐ朝日に決意する。――――――
――――――
先日多くの瘴気を払った任務の打ち上げに、生徒会の面々と思い出通りで遊んだ僕はいつもの日常の朝を迎えていた。
琥珀はまだ帰ってきておらず、今は小夜と朝のランニング中だ。
僕は体力向上や維持のためにやっているが、小夜にとっては朝飯前の健康体操だ。
しかし僕にわざわざ付き合ってくれている。
そもそも妖怪と人間じゃ基本スペックが違うからな。
それを補うため人は様々な技術を極めていった。
これが人間が怪異と渡り合えている主な理由だ。
家まであと数百メートルというところでスピードを落とす。
水平線の向こうに見える朝日を眺め風を浴びながら、ゆったりと歩を進める。
平和なこんな時間がいつまでも続くと良いな……。
僕はささやかな想いを胸に爽やかな空気を感じつつ、小夜と共に住んでいる部屋へと帰宅する。
「お帰り、もうすぐ朝食が出来るからな」
凛華姉さん、毎日ではないが良く朝食を作りに来てくれている。
合鍵を渡しており、僕がいない間はこうやって合鍵を使って部屋にいることもある。
『走るなら私にも言ってくれればよかったのに』等と言っているが昨日は実戦任務からの打ち上げもあった。
なのにわざわざこうして来てくれた。
疲れてないのかな、無理していないと良いけど……。
姉さんは普段は自分の朝の鍛錬を終えてから、僕の家まで来る。
自分に厳しく頑固な一面が有るのだ。
「あぁ、ありがとう、けど無理はだめだよ」
僕は味見する姉さんへと返事を返し、小夜と施設内の温泉へと向かった。
別々に温泉に入り汗を流した後に部屋へ戻ると、姉さんお手製の料理が出来上がっており腹を空かせた僕らは香ばしい朝食に誘われ椅子へと座る。
『いただきます』と、命や食材、作ってくれた凛華姉さんへ敬意を表し料理を口へ運んでいると、小夜がとんでもない事を言い出す。
「凛華ちゃんはこうがのお嫁さんなの?」
ブフォォ!
「あぁ、そうだぞ! 小夜はいい子だなぁ」
いや、そうだぞじゃないが。
何をのんきに肯定しているんだ、実際ホントに結婚してもいない。
僕は軽く味噌汁を吹き出し、凛華姉さんに小言を言われつつも訂正する。
ティッシュティッシュ……。
「いや、お嫁さんじゃないよ」
「でも、いずれそうなるからな」
そう、凛華姉さんはこんな風に頑固だ。
一度自分で決めた事等は曲げたがらない、だから僕への好意という皮を被った偽りの感情もどうあっても貫き通すつもりなのだろう。
そんな彼女をいなして、人間界では結婚という手順を踏んで正式にお嫁さんになる事を小夜に伝える。
「お嫁さんっていうのは姉さんが勝手に言ってる事だからね」
すると小夜はなんだぁと落胆する。
「凛華ちゃんと一緒に暮らせたら楽しいのに……」
「小夜はいい子だぁ!」
姉さんは小夜の言葉に抱擁で返し頭を撫でる。
そっか……琥珀も今は外に出てるし小夜は相手してくれる人がいないんだよな……。
僕らが学園にいる間は小夜や疾風は一緒に神社にいる、もしくは島を散歩している。
だが琥珀がいなくなってから少し寂しそうだ……。
小夜……ごめんよ……。
僕は姉さんと共に小夜の頭を撫でる。
小夜が寂しくない様に、何か考えてあげないとな。
こうして朝食を食べ終えた僕らは、家を出た。
「何かあったら学園に行くんだよ、夜兎の妹ですって言えば案内してくれるからね」
「うん、りょーかい……」
たまに小夜に行っている決まり文句を述べ、僕らはまた新しい一日を迎える。――――――
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