35. 小さな前夜祭
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結局今回の任務は大したこともなく、つつがなく完了した。
瘴気が消えきるまで何体かの妖魔は出現したが、どれも港で戦闘した妖魔とは比較にならない程の低級の小鬼型妖魔だった。
娯楽作品によく出るゴブリンみたいな。
それでも気を抜けば致命傷を負う、しかし凛華姉さんとワイルド兄さんの前では成す術なく散っていった。
2体ほど僕の前に向かってきたが、僕が呪符を飛ばし足止めをしてる好きにスズが手裏剣術で瞬殺した。
僕が久々にスズの手裏剣に感心していると、消えかかる妖魔をすり抜けた手裏剣が僕の顔の真横に飛んできて頬をかすめ後ろの木に突き刺さった。
失禁ものだよこれ、ふざけんなよマジでぇ。
僕がいささかちびっていると『本気出したら後ろの岩までコナゴナだから』とまで言ってきた、己は猿飛アスマか。
たぶん僕が香蓮ちゃんの手を握っているのが悔しかったんだろうな。
朱鳥先輩は結局いつも通り傍観していて彼女の力を見るのは叶わなかった。
下手に動いても意味がない状況だったから仕方ないとはいえ、彼女の力がいささか気になってしまう。
いつか聞こうとは思っているのだが、中々タイミングが掴めないんだよねいささかね。
とまぁそれはさておき、任務完了した面々は僕の提案でとある場所に向かっていた。
通称【思い出通り】。昔ながらの的屋、屋台、駄菓子やおもちゃ、懐かしいと感じる物が楽しめる場所だ。
この前、麗香、小夜と一緒に来たところだ。
今回の任務地から近かったから丁度いいかなと、打ち上げに提案した。
日も沈み辺りは暗くなってきたが、通りが閉まるまでまだ数時間はある。
「こんな場所があったんだね」
思い出通りに着き反応を見るに、おそらく皆この場所を知らなかったみたいだ。
ここは小夜と麗香と行った映画館が併設されている巨大ショッピグモールの地下の一部から、裏通りの地上へと繋がっている。
片隅にある場所なので、人目にあまりつかないからか混み過ぎるという事は無く、程よい客入りと活気が漂っている。
思い出通りの入り口から少し進んだ、色々な用途に使える和室のパーティールムの部屋を取り、僕とワイルド兄さんは荷物を置いて屋台へ買い出しへ向かう。
この広めの和風パーティールームは縁側と軽い庭も付いていて、外の空気も感じながら楽しめる。
そして何より昔ながらのメンコやベーゴマから、平成に流行ったおもちゃやレトロゲーム機等も取り揃えている。
部屋から出れば軽い銭湯や卓球ルーム、ゲームセンター等有り、どちらかと言えば旅館やホテルみたいな場所だ。
ちなみに女性陣は銭湯へと向かった。
「なぁ、俺がどんな立場かってぇのは気にならねぇのか?」
買い出しを進める中、大量の焼きそばが入った袋を持った兄さんが僕に語りかける。
彼は瘴気の点在するあらゆる場所を知っていた、それが不思議ではないのかという事だろう。
確かに不思議だ、ワイルド兄さんが偉い人の使いならば瘴気の対応も任されていて、そういう情報も知ってるのは自然でもある。
でも正体を何故明かさないのか。
僕らには明かせない事情があるかもしれないし、もしくは……。
でもこの妖怪が悪い妖怪ではないのは確かだ。
それだけは断言できる。
「気になるけど、ワイルド兄さんは信用できる存在だよ、それだけで充分だよ」
「ケッ、旦那は食えねぇ奴だな、あいつに似てて叶わねぇぜ……」
「煌河でいいよ、旦那って呼びたいならそれでもいいけど」
「あぁ、煌河、恩に着る」
似てるってのが誰のことかは分からないけどきっと、彼の生きた長い年月の中で僕に似た人がいたんだろうな。
彼がほんの少し照れながら口を尖らせるのを横目に、僕はたこ焼きを屋台のおっちゃんから受け取り歩を進める。
「こうが……!」
「くぅ~ん」
途中で大量のお菓子を購入した小夜と喋れないフリをする疾風と合流し僕らは打ち上げのパーティー会場へと戻る。
そこには既に全員集まっていて、腹を空かせた面々は待っていましたとばかりに箸や食料を机に並べていく。
う……皆すごい良い香りだ……素敵な女の子達の湯上り姿はいつもと違った魅力がある。
部屋に緩慢するように広がる甘い香りが、鼻腔を刺激する。
あぁ、やばい……普段と一味違う魅力が体の奥を熱くさせ、僕は溢れる情欲をなんとか偽神力へと変換し、懐の札へ込めストックする。
僕が理性と劣情をせめぎ合せる中、凛華姉さんが香蓮ちゃんへと焼きそばやたこ焼きを回す。
「あ、ありがとう」
「なに、きにするな」
お互いに少しぎこちないやり取りだが、仲直りできそうだ。
2人はこういう喧嘩も僕の知らないところであったかもしれない、その度お互いを認め合い絆を深めていったんだろう。
分かってはいたけど、ちょっと気にし過ぎだったかもな……。
僕は自分の心配が取り越し苦労だったことに胸を撫でおろし、皆へキンキンに冷えたラムネが行き渡ったことを確認する。
早く食べようと思ったところ、皆が何かを待ち望み僕を見つめはじめる。
何故僕を見る、一瞬情けない素振りでたじろいでしまった。
「よし、じゃぁ食べよっか」
僕が言うと凛華姉さんと朱鳥先輩が口を開き、僕へ乾杯の音頭を取れと無茶ぶりを要求される。
「もっと何かあるだろう、ここを提案した幹事として頼むぞ」
「そうね、せっかくだから盛り上がるのが良いわね」
……なんだそれは、新手の虐めかな?
いきなりそんな事言われても私、困っちゃうわよ。
僕は座布団から立ち上がり、皆の前へと出る。
そうわね……これが良いわ。
「えぇ、今日は任務お疲れさまでした、こうして同じ釜の飯を食べて絆を深め合えたら良いなと思います」
「皆で釜を囲んで楽しむわよ~!」
「ってそれは釜じゃなくてオカマじゃろが~い……」
プシュッ……。
「では皆、今日はご苦労、乾杯だ!」
「「「かんぱ~い」」」
……。
アイススケートよりも滑らかなギャグをぶちかました僕を無視し、皆はラムネを開け姉さんの乾杯で飲み始める。
まぁこれは計算通りだ、湯上りで暑いだろうからな。
どうだろう、絶妙なギャグで涼しんでもらえたかな? ほんの風鈴変わりだ。
僕はちょちょぎれかけた涙を飲み、深海に潜む古代魚の如く目立たぬよう黙りこくりながら、先程座っていた自分の席へと戻る。
すると隣に座る朱鳥先輩が僕に謝ってくる。
「変な事させてごめんね、私が焚きつけちゃったせいで」
「めっそうもない、朱鳥先輩のせいじゃありません」
朱鳥先輩は僕を見て軽く笑ってくれた。
「初めて見た時はもっと固い子かと思ってたわ」
優雅な薔薇が似合うような素敵な笑顔だ、彼女の高貴で優雅な笑いに魅入られ思わず下僕になりたくなってしまう。
彼女の向けてくれた笑顔にドギマギを隠せない表情をしてしまった僕は、誤魔化すようにたこ焼きを頬張る。
うん、仄かに暖かく程よい感じに冷めてて美味いぞ。
色々な具入りのたこ焼きを買ってきたから皆気に入るはずだ。
「たこ焼き美味しいですよ。あ、これはツナが入ってるやつですよ」
「ふふ、そうね、とっても美味しそう……」
朱鳥先輩は僕を見つめ、からかってくる、いかん誘惑されそうだ……。
彼女の艶やかな瞳は全て受け入れてくれそうで、吸い込まれそうな不思議な魅力がある。
僕は目を反らしつつもたこ焼きを頬張り、誤魔化す事しかできない。
「可愛いわね……ソースがついてるわ……」
僕の口元に着いたソースを彼女のしなやかな指で拭われ、朱鳥先輩はその自分の指を舐めとる。
な、なんか表情まで艶めかしい……むおおおおお! ぼ、僕はこ、このまま食べられて大人の階段を昇ってしまうのでは!?!?
さらば、子供の僕、こんにちは、大人の僕。
「「朱鳥! あ……」」
僕が我を忘れ内心興奮してしまっていると、対岸に座る凛華姉さんと香蓮ちゃんが火事の中へと身を乗り出し割り込んできた。
た、助かった……。
さっきまで黙り込んでいた2人はお互いに顔を見合わせ、気まずさを取り払うようお互いに軽く笑う。
「冗談よ、少し外すわ」
朱鳥先輩はそう言い残すと、鞄を持ちパーティールームから出ていってしまう。
今の朱鳥先輩はいつもと違っていたな、普段は余裕のあるエレガントな素振りだが今日はどことなく理性が飛んでいるような。
まぁたぶん、からかわれただけだろう、彼女達の仲を取り持つついでにね。
朱鳥先輩を諌めようと身を乗り出した2人は、やっとまともに言葉を交わす。
「香蓮、さっきは言い過ぎたな、すまない……」
「私も……少しハメを外しすぎたよ」
2人は顔を見合わせて軽く笑い、ラムネを飲み干す。
子供の頃もこうして皆で良くラムネを飲んだ……。
仲直りする時や嬉しいことが会った時、スズも合せて4人で駄菓子とラムネを囲んで小さい宴をしたんだ。
それで仲直りのキッカケになるかなと、思い出通りへ足を運んだ訳だ。
お互いに謝った2人はなんとか元気を取り戻し、思い出話に花を咲かせる。
その後は朱鳥先輩も戻り、和やかに打ち上げは進みメンコやコマ回し大会、人生ゲーム等で盛り上がった。
コマ回しでは小夜が圧倒的に強い、コツとかあるのだろうか。
どれだけ長く回せられるかという勝負では、小夜が勝ち続けていた。
ほとんど食事も平らげ少し休憩したころ、僅かに残った駄菓子とゴミを別々に袋に詰めて僕らはパーティー会場から外へと出る。
今日はもうお開きだ。
「久々に童心に帰るのもいいものだな」
「そうだね」
僕は凛華姉さんへと言葉を返し、深い闇を照らす満月を見上げた。
綺麗な色だ……仄かに輝く月光が周囲の闇をかき消し照らしている……。
きっとワイルド兄さんの言っていた姉御という人も、そういう存在なのかもしれない。
自分が先の見えない暗闇の中を彷徨う時に、道を示してくれるような……。
なんとなくそう思った僕は、反射的に彼へと疑問をぶつける。
「そうだ、姉御ってどんな人なの?」
ワイルド兄さんは言葉を続け、姉御への想いを言葉にして綴る。
「あぁ、涙脆くて人情に篤くてよ、困ってるやつは放っておけねえ、誰彼構わず手を差し伸べちまう、そんな人さ」
「俺ぁあの人を探し回ってんだけどよ、手掛かりが見つかったと思ったらなくなっちまう、どこにいるか全く当てもねぇ」
「けどまた会えるって俺の心が言ってんだ、なんでかは分かんねえけどな!」
「そうだ、酒呑童子ってんだけどよ! 聞くの忘れてたぜ、何か知らねえか?」
酒呑童子……言わずと知れた平安京の大江山に存在した、大妖怪だ。
日本三大妖怪の一角に名を連ね、伝承では傍若無人で悪鬼羅刹の魔物とされることが多いが……。
まさか女性だったとは……いや女性とは限らない、彼が勝手に姉御と呼んでいるだけの可能性もある。
僕は筋骨隆々のワイルド兄さんのような大男が、裸エプロンでだっちゅーのをしている姿を想像した。
……ないないないない。
僕は激しく頭を横に降り、邪念を振り払う、全く恐ろしい魔物よ。
「酒呑童子は、既にこの世にはいないぞ?」
僕が1人で頭を振っていると、凛華姉さんが少しばかり遠慮がちに言葉を発する。
おそらく、彼の希望を砕いてしまう事を申し訳なく思ったんだろう。
て、ちょっと待て、なんで姉さんがそんな事を知っているんだろうか。
「あ……? 嘘、だろ……?」
「私も詳しい事は分からないが、恐らくそのはずだ……」
ワイルド兄さんは他の面々へと顔を見合わすが、皆姉さんに同意するかのように顔を背ける。
……知らなかったの俺だけかよ!
彼は、夜闇に包まれる月を見上げ、どこか絶望したような溜息を吐き、一っ飛びで屋根を超え山の中へと消えていった。――――――
――――――
【久遠 涼音】
香蓮の護衛の家の生まれ、香蓮の影響で軽くボーイッシュな風貌をしている。
幼い頃、大事な香蓮と仲の良い煌河を快く思っていなかったが、些細なことがきっかけで心を許すようになる。
忍者:暗器使い 忍術より暗器の扱いに長けた忍
隠形や、諜報を得意とする。
使い魔:疾風 (はやて すねこすり フェネック)
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