28. イってはいけないカラオケ
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大音量の伴奏が響き渡る部屋の中で軽食をつまみながら、友人の歌に耳を澄ませる。
楽しげな音楽が体にリズムを刻ませるような曲に陽菜の可愛らしい声が波に乗るように流れ、自然と愉快な気持ちになってしまう。
先ほどのチンピラとのいざこざを片付けた、というよりワイルドな兄さんに片づけて貰った僕は陽菜の元へ戻り、既に集まっていた麗香、スズ、千冬と合流していた。
話を聞けば陽菜がワイルド兄さんに声を掛けて、僕を助けてくれるように頼んだようだ。
ワイルド兄さんが僕を追う過程で助けてくれそうな彼が陽菜の目に入ったんだろうな。
彼は豪快で荒々しい振舞をする様な印象を受けるが、頼りになるような人の良い雰囲気をしている。
警察にも電話したみたいだけど、心配をかけてしまったのだろう。
そして僕が集合場所に戻ると途端に陽菜が抱き着いてきた。
正直めちゃくちゃ良い匂いしたな……。
僕の周りには比較的爽やかさが印象に残る香りの女の子が多いが、陽菜はなんていうか甘さの際立つ香りに鼻腔がこそばゆく感じて脳味噌にスイートな匂いが沁みていくような感覚がした。
……なんか女の子の香りについて語ってるといつにも増して変態っぽいな、我ながら。
一昔前の男子なら良く考えていそうだった女子の香りについて色々思っていると、歌い終えた陽菜がマイクを置き肩を合わせて僕にくっついてくる。
「こーが~、ひなの歌どーだった~?」
僕の腕に抱き着いて、陽菜が聞いてくる。
麗華もだけど陽菜は基本的に他の女子より距離が近い、しかし今日はいつもより近いぞ……。
思わず興奮してしまいそうになるのを理性で抑えつつも、僕は陽菜の身を案じる。
やっぱりさっき怖い思いをしたからだろうか、まだ不安が残っているのかもしれない。
かわいそうに。
「可愛い声で素敵だったよ」
「でしょー♥」
「さっきは不安な想いをさせてごめんよ」
おそらく僕を待つ間、陽菜は自分のせいで1人の人間が大怪我を負ってしまうと気が気でなかっただろう。
そんな不安が胸中を占領して止まなかっただろうに、心配を掛けまいと今では気丈に振舞っている。
とてもいい子な女の子だ。
「もう1人で危ないことしちゃだめだよ! ウチホント心配したんだから!」
「心配してくれたんだ、ありがとう」
「ウチの方こそだよ、さっき守ってくれてめちゃかっこ良かったよ!」
不安ばかりではなく陽菜は僕の事を心配してくれていたみたいだ。
僕は学園で明るくムードメーカーな上に、優しい心を持つ彼女を心から素敵だなと思った。
そしてさっきのいざこざで優しい彼女の少し怯えたような振る舞いを思い出し、僕は彼女の事も守りたいと思った。
「陽菜は僕が守るよ」
「え……♥ う、うん、ありがと♥」
思わず僕は、小さい頃に良く言っていた言葉を陽菜に対して自然に出してしまった。
あの頃は、代々護衛を務めていた家柄に生まれた自分は人を守る事が使命だと信じて疑っていなかった。
まぁ今でも少しはその傾向はあるが。
それでその言葉を良く凛華姉さんに言っていたのだ。
もちろん香蓮ちゃんにも、今僕を睨みつつも口に含んだメロンソーダを顔面に吹き出してきそうなスズにも言った事がある。
子供の頃はまだ可愛気というものがあるが、今こんなことを年頃の異性の友人に言うのは気持ち悪かったかもな。
組み手でも姉さん達にも全く勝てず、怪異と戦えない落ちこぼれだと言われたり、自分の弱さに気付いてからは久しく言っていないセリフだったけど。
最近任務で少し役に立っているからと調子に乗っていたかもしれない……。
反省しないとな。
「ちょっとひなー! こーちゃん独り占めすんなよーw」
僕が今時恋愛漫画でも見ない珍妙な言葉を放って落ち込んでいたら、陽菜のいる逆側から麗香が肩を組んでくる。
ふ、2人の大きくてやぁらかいのが当たってるよぉ! むふぉおおお↑↑↑
「ふ、2人とも近いって!」
「こーが照れてるー♥」「なに照れてんだよ~♥」
やばい、2人が魅力的すぎてこのままじゃ正直イく。何が何だか分からないがイく。
しかしここは運が良い事にカラオケである、僕は曲を入れて誤魔化す事にした。
うおおおおおお! しずまれしずまれしずまれ。
荒ぶる衝動と戦いながらもデンモクを操作し、全てを忘れて楽しくなれるような曲を入れる。
この劣情を忘れるにはおそらくこういう選曲が良いだろう。
僕はマイクを手に取り一心不乱に心を込めて歌う。
「ひなこれ好き! いえーい!」
「いいねー! テンション上がる~!」
劣情に催されどうなる事かと思ったが、麗香と陽菜が盛り上げ上手で歌ってて楽しくなってきたぞ!
僕は全て忘れて皆で楽しくなる事を願い皆でのカラオケを楽しんだ。
「……」
「またライバルが増えちゃったねー、涼音」
「うん…………い、いや、違うから!」
――――――
煌河達の住む島に瘴気や怪異の発生が増え始め、約2か月。
琥珀は瘴気や怪異の後に残る奇妙な力の痕跡を元に、島を荒らす謎の妖怪を探っていた。
そしてその妖怪が島を出てまもなく、その妖怪を追うため琥珀たちも島を出る手はずを整えていた。
すぐにこの謎の妖怪を追えば、微かな妖力の残滓を辿ってなんとか追跡できる。
人の気配のない神社の境内で宮司の如月弥彦と煌河の式神の琥珀と小夜は、準備を進める中で琥珀が口を開く。
「小夜、お主はここに残れ」
「私もいく……煌河の役に立ちたい……」
神社の本殿で弥彦と琥珀が話し、島を荒らしているのはおそらく『子供達の心に傷を残した相手かもしれない、今は伏せておきましょう』という弥彦の言葉を聞いて自分も煌河のために戦いたいと強く思っていた。
過去に自分がカラスの雛鳥の時に煌河に助けて貰ったのに、煌河の命が危ないときは自分は何もできなかった事を小夜は心から後悔していた。
そしてあれから比較にならない程に力を付けた。
あの時、何もできなかった自分はもういない。
そんな思いを胸に小夜は琥珀に付いていこうとするが、琥珀には断られてしまう。
「これから追う奴は強大な力を持っておる、それに島でもまだ何か起こりそうじゃ、煌河を守れ」
「分かった……絶対帰ってきてね……おじさんも……」
「ありがとう、小夜ちゃん」
「さて、行くとするかの、乗れぃ」
琥珀は一瞬で巨大な白銀の妖狐に変化する。
自分の主の面倒を良く見ていた、信頼できる力のある人間を背に乗せ琥珀は天を駆けていく。
「しばらく島を出ると煌河くんと凛華に連絡しましょう」
「おっと忘れておったわ」
スピーカーモードの携帯で自分の子供達や主と通話をする。
大切な人たちを守る事を心に誓い、願わくば今回の追跡で肩を付けられることを夕暮れの風を切りつつ二人は思うのであった。
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