26. 思い出のビー玉
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以前に煌河たちの訪れたキャンプ場は春なのに桔梗が咲いた事がニュースになり、多くの人々で賑わっていた。
その中には家族連れの客も多く、朗らかにキャンプを楽しむ姿が平和を感じさせる好天の白昼。
とある家族が近くの隣人と挨拶などを交わし親同士が談笑する中で、キャンプ地で出会った齢10歳前後の子供達は意気投合し保護者達の目を盗み森の奥へと探検に向かう。
緑の少ない近代的な社会で育った子供たちは、緑の生い茂る豊かな自然に息を飲みながらも普段味わう事のない健やかな空気を楽しんでいた。
「お、きのこがあるぜ!」
「や、やめた方が良いよ、キノコって触っただけで危ない奴もあるし」
ある活発そうな男の子がキノコを触ろうとするが、内向的な雰囲気をした男の子がそれを止める。
すると愛嬌もあり爽やかな女の子が内向的な男の子に問いかける。
「どう危ないの?」
「触っただけで肌が腫れて大変な事になっちゃうんだ、食べると死んじゃうんだよ」
「や、やめとくか」
活発そうな男の子はキノコを触るのをやめて一同は森の奥へと歩を進める。
一頻り森の空気を楽しんだ子供達は、面白いものも無いのでそろそろ帰ろうかというところ、遠くに奇妙な黒いモヤがかかった球体の
ようなものを発見した。
それを発見した途端、子供達は本能的に背筋が凍るような違和感を覚えるが子供の好奇心故か怖い物見たさのせいかそれにゆっくりと近づいていく。
「あれは危ないよ、帰った方が良いよ」
「ダイジョーブだって、見るだけ見るだけ!」
そんな対照的な会話を繰り広げゆっくりと進む男の子たちに女の子もついていく。
慎重になりながら少しづつそれに詰め寄っていくと、周囲の茂みがざわざわと動き出し子供達は息を飲む。
「タチサレ……コドモタチヨ……タチサレ……」
「へ?」「ひっ!」「え?」
突然森の中に響き渡る声が聞こえ子供達は心臓を飛び上がらせながらも、それぞれ吐息混じりの微かな悲鳴を上げる。
沈黙の中戦々恐々としながらも子供達は目を合わせ生唾を飲み込み、活発そうな少年が声を上げる。
「だ、誰かいるんですか!」
数秒の沈黙の後、再び子供達へと警告が告げられる。
「コノサキニススメバ、イノチハナイ……コノママカエレ……」
「「「は、はい!」」」
子供達は謎の声を発する警告に従い、踵を帰そうとするが内向的な少年は足が震えまともに歩けずにいた。
そんな仲間に2人の子供は声を掛けつつも少しづつ後退り、謎の物体から離れようとする。
「ま、まって……あ、足が……!」
「何やってんだよ、はやく逃げるぞ!」
「は、はやく!」
子供達は頭の中の思考がまともに働かずに、ここを離れる事しか考えられず軽いパニック状態に陥る。
足の震えで動けない仲間に声を掛けながらも固まった数秒の膠着状態は、恐怖に心を支配される寸前の子供達にとってまるで永遠のように感じられた。
「ひぇ……」
そんな状態が続くと茂みの中から何かが飛び出して、震えて動けない男の子の足元を動物とは思えない奇妙で目まぐるしいスピードで走り回り、平衡感覚が崩された少年は尻で地面に餅をついた。
それと同時に謎の生命体は茂みの中へと、瞬時に身を潜める。
「う、うわぁぁあぁぁぁあぁぁ!!」「で、でたぁぁぁぁあああ!」「キィィヤァァァァ!」
尻もちをついた事で足がなんとか動くようになった内向的な少年と共に、それを見ていた子供達は一目散に駆け出し森を後にした。
後に子供達の証言で、小型犬サイズのすばしっこい喋るUMAが出現するとキャンプ場の噂になるのであった。
「なんとか追い返したでやんす……」
子供達が帰った後の森で、黒いモヤを見つめながら喋るUMAが独り言を呟く。
身体はやせ細り元々の小さい体躯が更に華奢に見えていた。
これでなんとか子供達が噂を立ててくれれば、この瘴気を払ってくれる人間がきて自分もここを離れる事が出来るだろう。
この森に再び来て自分の落とし物は見つからなかったけど、もう少し頑張って人に被害が及ばないように見張り続けよう。
悪戯ばかりしていた自分を奉ってくれていた人間への恩返しだ……。
疲労に困憊しながらも、もう少し頑張ろうと自分を奮い立たせる。
「でも、今は少しだけ休憩……」
疲労がたまり地に伏したUMAはそんな事を考えながら孤独の森で目を閉じ、眠りについた。
――――――
涼音の許しを得た頃に、僕らは森の少し開けた場所に出ていた。
そこは以前に任務で訪れ、最後に確認した瘴気のあった場所である。
ここには龍脈があって、その流れを阻害するビー玉が置かれていたのだ。
僕らは森の奥に進むにあたって妖怪が良く目撃されている理由が、瘴気の点在していたここら辺にあると思い、この龍脈を目指していた。
反対側の瘴気があった場所は、凛華姉さんと香蓮ちゃんが向かっているはずだ。
僕らは周囲を見回すと茂みの奥に何やら、黒いもやの掛かった瘴気を発見した。
僕は朱鳥先輩とスズに声を掛け、瘴気に近付こうとすると周囲から何やら声が聞こえてきた。
「ソコノモノタチヨ……タチサレ……」
なんだ?声が周囲に響いて出所が分からない。
音響を操る妖怪か何かか?
それになんだか純粋な少年のような声を無理して低くしているかのような喋り方だ。
僕はその声の主へと立ち去らなければならない理由を尋ねる。
「なんで??」
「アブナイカラダ……」
「そうか、ちなみに僕はコンクリートを思い切り殴って拳を骨折させたことがある、どっちが危ない?」
「エ……?」
「自分の拳の骨が砕ける程のパンチ力だ、どっちが危ない?」
「な、殴らないで!」
僕は声の主に言葉を掛けビビらせてしまう。
別に殴るつもりは毛頭なかったんだが、ただボケただけのつもりだったのに勘違いさせてしまったようだ。
「自滅してんじゃないそれ」
「そのツッコミを待ってた」
あぶねーのはお前だよというばかりの表情のスズに肩をバシっと叩かれ、僕はツッコミを入れられる。
いいツッコミだ、彼女は普段物静かだが割とユーモアを分かっている。
ユーモアのあるツンデレって良いよね。
僕は一昔前のただの暴力系ヒロイン達を思い浮かべながらうんうんと一人頷く。
でも僕はそういうヒロインも好きだけどね、正直殴られてみたい。
「ごめんなさい、あなたに危害を加えるつもりはないわ、出てきて話を聞いてくれないかしら?」
「な、殴らない?」
「ごめんよ! 殴るつもりはないよ、ボケたつもりだったんだ」
朱鳥先輩が謎の声の主に言葉を投げかけ、僕もそれにあやかる。
自分のボケをボケと説明する間抜けな僕をスズがやれやれといった目で見てくる。
やだわ、そんなに見られると恥ずかしいじゃない。
「分かったでやんす……」
茂みから声の主が姿を現し、数秒の沈黙が流れ。
「か、可愛い……!」「キャー!」
女性陣が可愛いものを発見した時のような黄色い声をあげ、謎の生命体に近寄り抱き上げる。
な、なんだそれは羨ましい、朱鳥先輩に抱き上げられた生命体はスズにナデナデされながら助けを求める。
「お、おたすけー!拙者は美味しくないでやんす!」
ナデナデされ可愛がられているその生命体は可愛らしい大きなキツネの耳、チワワのようなつぶらな瞳。
そして小型犬のような華奢な体躯をしている。
これは……。
「フェネックか」
「そこの殿方ー! 助けて欲しいでやんす!」
いきなり抱き上げられてしまったフェネックは自分が捕獲されてしまったと思い焦っている。
良く見れば元々小さな体格が更にほっそりし、見すぼらしい様で見てるとかわいそうになってくる。
おそらくこの子は悪い子じゃない、それに随分と疲労してるな……。
僕はフェネックを可愛がる2人を宥め、なんとか話を進める。
ベ、別に羨ましかったから嫉妬で止めたわけじゃない、断じて。
「2人共、その子は栄養状態が悪い、静養させないと」
「あら、ごめんなさいね」
「ごめんね」
2人はフェネックを降ろして、僕は気を取り直しフェネックに黒いモヤがかかった瘴気の事を尋ねる。
何か事情を知っているのだろうか?
とりあえず払ってもいいなら早く払うに越した事は無い。
「ところで、あれは払ってもいいのかい?」
「お願いするでやんす」
「じゃあ、僕はあれをなんとかするから」
僕は鞄から取り出した水の入った竹の水筒を体調を整える兵糧と共にフェネックの横に置き、飲んでも良いように促す。
2人が水筒を開けてフェネックに水を飲ませ、がぶ飲みする彼をよそに僕は瘴気の元へ向かう。
これは……。
随分と大きい瘴気だ、最近払ってる低級のようなものではない。
以前にここへ来た時に龍脈の流れが阻害されていたのがおそらく原因だろう。
気付かないところで瘴気の吹き溜まりが出来ていたのか、ほっとくと化け物レベルの妖怪が生まれたりする。
僕は懐から呪符を取り出し術を構築する。
瘴気を取り囲むように呪符を5か所に配置し真言を唱える。
「悪鬼丹生する穢れの墨や、霧消の彼方へ浄化を辿り、五行の理以て打ち消し清め給へ ソーデン!」
呪符の置かれた場所が光の線を繋ぎ、発光した五芒星を描く。
五芒星の中へと閉じ込められた瘴気は徐々に光に掻き消され、跡形もなく消え去った。
こういう強力な瘴気を払う場合は、軽い瘴気を払うような簡易的な術式では払えない。
だから土台のしっかりした術式を使わなければならないが、何もない場所でこういう大きい術を使うと、悪影響を及ぼしてしまう。
簡単に言うとマイナスにマイナスを掛けるとプラスになるようなもんだ。
だから軽い瘴気にはこういう術を使ってはいけない。
術を行使する時は自然との調和を脅かしてはいけない、って偉い人が言ってた。
ちなみにソーデンは僕が作り上げた急急如律令に変わる真言だ。
「お、おやびん!すごいです!」
「?」
瘴気をかき消して僕が皆の方へ戻ると、僕の方を向いたフェネックが声を上げる。
僕は振り返り後ろに誰かいるのかと確認するが誰もいない。
……。
「おやびん! この御恩は忘れません!」
おやびんって僕の事かい。
話を聞くとどうやらこのフェネックは、瘴気に人間が近づかないように見張ってくれていたらしい。
これがこのキャンプ場でニュースになっていた未確認生命体の真相だ。
そして人間が近づかない夜に動くが餌となるものも中々見つからず、水もろくに飲めていなかったみたいだ。
フェネックは夜行性な上に水をほぼ飲まないが、水分を取るための食糧も見つからず僕の水をがぶ飲みしていたんだと、僕の水を。
……へー、フェネックって水飲まないのか。
そして気になるのが森は本来フェネックの生息地ではないはずだ。
たまたま森に来たってのはどうも考えづらい。
「それでなんでこんなところに?」
「拙者はとある方に言われてここに大事なビー玉を置いていたでやんすが、そのビー玉を探しに来たんでやんす」
お前かーーー!
「きっとあの瘴気はそのビー玉のせいだよ、龍脈の流れを遮っていたんだ」
「拙者のせいでやんすか……?」
「君は人を守ってくれていた事は確かだ、次から気をつければいいよ、ほら」
これは琥珀が追っている黒幕のようなやつが関わっているな。
こういう純粋な妖怪を騙して自分の有利なように事を進めているのだろう。
どーやら龍脈にビー玉を置いておけば強度が増して綺麗になるとかなんとか言われたみたいだ。
その妖怪は何が目的かは皆目見当もつかない……。
僕はそんな事を考えつつもカエル袋から浄化したビー玉を取り出し、フェネックに渡す。
「おやび~ん、ありがとうごぜぇやす~!」
「なんでそのビー玉は大切な物なの?」
涙を流して喜ぶフェネックへとスズが疑問を投げかけた。
「拙者の母上は今は亡くなってしまいやしたが、地元で良い妖怪として人々に奉られていたでやんす」
感涙するフェネックは落ち着きを取り戻してスズの質問へと答え、自分の身の上話を始める。
「そのお供え物として幼子の少女がビー玉と駄菓子を良くお供えしてくれていたんです」
「その綺麗なビー玉は拙者の宝物でやんす、拙者は恥ずかしながらいたずらばかりしてやしたけど、その子の笑顔を見る度に拙者も母上のように人間の力になりたいと思うようになったんです」
「それで最近ようやく力を付けたでやんす」
へー、親子そろって素敵な妖怪だな、この子も瘴気を見張って人間を守ってくれていたみたいだし。
子供の行く道を自分の行動で示していたって事か。
ちなみに一般人は妖怪の事などほとんど信じていない、だが地域によってはこうやって信仰の対象になったり伝承とし残されている。
僕が妖怪の親子に感心していると、スズが驚きの混じりの囁き声で言葉を発する。
「すねこすり様……?」
「いかにも地元ではそう呼ばれてやした!拙者はその愚息でやんすが……」
すねこすり。
諸説あるが犬や猫のような姿をした岡山県で語り継がれている妖怪だ。
人の足元を走り回って転ばせたり平衡感覚を崩して歩きにくくするなどと言われている。
なんでそんな妖怪が奉られていたんだろうか、不思議だ。
そんな事を思っていたらスズが言葉を続ける。
「私、小さい頃に助けて貰ったの、私は覚えてなくてお母さんが言ってたんだけど」
「私が走り回って、車の前に飛び出す直前に私の足元をぐるぐる回って尻もちをつかせて助けてくれた妖怪がいたって」
「それだけじゃなくて物心つき始めた頃、知らない場所で道に迷った時に、鳴き声で近所まで誘導してくれた、これは今でも覚えてる」
「それからよくすねこすり様にお供えしてたの、駄菓子とビー玉……」
なるほど、力は使いようって事か。
いい妖怪だったんだな……。
そしてそのビー玉はスズがお供えしたって訳か。
「ありがとう……!あの時助けてくれて、あなたのお母さんにもお礼言いたかった……」
スズはすねこすりを抱きしめて、自分を助けてくれた今は亡き妖怪へと感謝を伝えるのであった。――――――
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